第3章_Eternal Mirage_006 揺れる残光の路地 ― Flicker of the Lost Wish ―
Auralisの夜は、静かにその色を深めていった。
ILLUSIAが名を持った直後の余波はまだ街中に残り、光は揺れ、影は震え、Mirage層から溢れた願いの残影がときどき空中を漂っている。
(観測記録:No.295)
《層:Auralis》《状態:残影濃度上昇》《原因:名刻印による感情波反射》
Aurora、Luna、Noirの三人は、Lyraの幻影が一瞬だけ現れた路地に向かっていた。
通りを抜ける風は細く冷たい。街灯の明滅が一定ではなく、光と影の切り替わりがゆっくりと乱れている。
「この辺りの空気……少し重いね」Auroraが呟く。
Noirは腕を組み、足元の影を踏みしめるように歩く。
「偽祈音の匂いが混ざってる。弱いけど……質が悪い。Lyraの残影と干渉した可能性がある」
Lunaは胸を押さえ、瞳を細めながら周囲を観測する。
紫の観測祈音がゆっくりと周囲の空気を揺らしていた。
「……視える。光の粒子。Lyraの願いの残り香。でも、それを歪ませてる何かもいる。混ざり合ってて……判別が難しい……」
(観測記録:No.296)
《Mirage反応:願いの残影(微弱)》
《干渉波:偽祈音(未成熟)》
《危険度:中》
Auroraは立ち止まり、そっと路地の奥を見つめた。
狭い場所に集まる光は、どれも淡く震えていて、触れたらすぐに消えてしまいそうな儚さがあった。
「Lyra……怖かったのかな。願いの声が震えてた」
「おまえはいつもそうやって“誰か”のために感じすぎだ」とNoirが少しだけ苦い声で言う。
Auroraは振り返る。
「感じすぎ……なのかな?」
「悪い意味じゃない」Noirは視線をそらした。
「Auroraの光は、人の願いに寄り添う。だから優しすぎるんだ。Lyraの残影が現れたのも、おまえを頼ったからだろう」
その言葉に、Auroraは胸が温かくなるのを感じた。
けれど同時に、冷たい痛みも走る。
「……守らないと。Lyraの願いも、残影も、偽祈音に飲まれちゃう」
Lunaが続けるように言った。
「偽祈音って……“壊れた願い”だから。願いに近づいて混ざれば、形が変わっちゃう。Lyraの残影が消える前兆にもなる」
Auroraは決意を込めて頷いた。
「じゃあ──進もう」
三人が路地へ足を踏み入れると、空気が変わった。
湿った匂い。金属が擦れるような微弱な音。
足元の影が、わずかに“意志”を持ったように揺れる。
(観測記録:No.297)
《影反応:自律性の兆候》
《原因:偽祈音の近接予兆》
Noirが歩みを止め、低く呟いた。
「……近い。Aurora、Luna、離れるな」
Auroraの光が自動的に広がり、三人を包み込むように淡い円を描く。その光が路地の壁を照らすと、ヒビの隙間から細い影が何本も伸びているのが見えた。
Lunaが一歩前に出る。
「観測できる……でも完全じゃない。どこかが黒い……」
壁の向こう、闇の奥で、何かが瞬いた。
Auroraは反射的に光を強める。
「来る!」
瞬間、路地の奥から黒い霧のようなものが飛び出した。
牙のように尖ったノイズがAuroraの胸元へ向かって一直線に伸びる。
「Aurora!!」
Noirが影を広げ、黒い障壁を作る。
霧がぶつかり、金属の悲鳴のような音が響く。
Auroraは息を止め、右手を差し出した。
光が衝撃に反応して広がる。
(観測記録:No.298)
《偽祈音反応:捕食波動》《強度:中》
《光祈音:対抗反応開始》
霧はAuroraの光に弾かれ、壁にぶつかって散った。
すぐに再び形を作ろうとするが、Noirの影が絡み取るように絡みつく。
「しつこい……!」Noirが低く唸る。
「Aurora、光を強めろ!」
「……うん!」
Auroraの光が一瞬だけ金色に輝く。
その輝きに霧が苦悶するように裂けた。
(観測記録:No.299)
《偽祈音:消散》《残存:極小》
《影祈音:安定》《光祈音:増強》
霧が完全に消えたあと、Lunaはしばらく動けなかった。
「……怖かった……観測できなかった。黒塗りの部分が……多すぎて……」
「大丈夫よ」Auroraが Luna の手を握る。
「大丈夫。私たちがいる」
Noirは周囲を一度見回してから、ゆっくりと拳を下ろす。
「今のは偽祈音の“幼体”だ。本格的なやつじゃない。だが……嫌な予感がする。まだ終わってない」
Auroraは歩を進める。
Lyraの残影が消えた場所──路地の一番奥の空間へ。
そこは、小さな広場だった。
白くひび割れた壁。誰もいないのに、温もりだけが残った空気。
Auroraはその真ん中で膝をついた。
Lunaは静かに言った。
「ここ……Lyraの“願い”が強く残ってる。歌いたい、輝きたい……そういう想いが」
Noirは眉を寄せる。
「なのに残影は消えた。偽祈音に触れたのか……それとも──」
「守ろうとしてくれたのかもしれない」Auroraが呟いた。
「私たちが……何かに巻き込まれないように」
Lunaの瞳が揺れた。
「Aurora……Lyraは残響なのに……どうしてそこまで?」
「……その声が、まだ聴こえる気がしたから。誰かの願いって、私……放っておけないの」
Noirがふっと息を吐いた。
「……まったく、おまえは……」
Auroraは立ち上がり、街の上空を見つめた。
Neon Eclipseの光が残った空には、揺れる祈音の揺らぎが薄く漂っている。
(観測記録:No.300)
《空:光祈音と残響の同調》《次段階への移行予兆強化》
「Lyraの残影を追うには……Mirage層に入らなきゃいけないね」Lunaが言った。
「危険だが、行かないわけにはいかない」Noirが答える。
Auroraは静かに拳を握った。
「Lyraだけじゃない。誰の願いも、偽祈音に飲まれさせない。私たちILLUSIAが……護る」
その時、広場の壁に淡い光が走った。
まるで導くように、細い光の道が奥へ延びていく。
(観測記録:No.301)
《Mirage接続路:生成開始》《影響:Lyra残響由来の可能性大》
「……呼ばれてる?」Auroraが呟いた。
「かもしれない」Noirが短く答える。
「行くぞ。ここからが本番だ」
Lunaが頷いた。
「うん……Aurora、Noir。二人となら、怖くない」
Auroraは二人の手を取り、前へ踏み出した。
光の道が、ゆっくりと彼女たちを誘う。
Mirage層へ続く最初の扉が──
静かに、確かに、開こうとしていた。
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【対応楽曲】Awakening Illusion(覚醒する幻想)
▶ https://distrokid.com/hyperfollow/illusia/awakening--
この章の物語は、同名楽曲をもとに構築されています。
楽曲を聴くことで、物語の“もうひとつの旋律”を感じられます。
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