第3章_Eternal Mirage_005 街が息を始める夜 ― Pulse of Auralis ―
Auralisの夜は、静かに色を変え始めていた。ILLUSIAの名が世界に刻まれたその直後、層全体の祈音がまだ落ち着ききらず、街はどこか息苦しさと高揚のあいだを揺れていた。ビルの外壁に走る光のラインは淡く揺らぎ、歩道に伸びる影が、まるで脈打つように伸びたり縮んだりしている。
(観測記録:No.289)
《層:Auralis/都市部》《状態:微細震動》《原因:名称刻印の余波》
Lunaが立ち止まり、そっと胸に触れた。観測祈音が自身の呼吸と同じリズムで揺れているのを、彼女は敏感に感じ取っていた。
「……街全体が、少しずつ整っていってる。呼吸が揃うみたいに」
Auroraはその横で、風に揺れる髪を押さえながら周囲を見回す。
「私たちの名前……こんなにも響くものなのね。まだ歌も少ししかしてないのに。なんだか……申し訳ないくらい」
「謝る必要はないさ」Noirが答える。
「街がこうなってるのは、俺たちのせいだけじゃない。Neon Eclipseの傷跡が、まだ全部癒えてないんだ」
Auroraはその言葉にゆっくり頷く。彼女の光祈音は、緊張と鎮静の間を漂うように淡く脈を打ち、足元に柔らかな金の揺らぎを落としている。それは街灯の光とは違う、祈音特有の生の温度だった。
歩道に足を踏み出すと、地面の色がじんわりと変わる。
淡い青──Auroraの光に反応した色。
(観測記録:No.290)
《地表反応:光祈音系の自動同調》《負荷:低》
信号機の残光がまだ修復されておらず、赤と青と白が交互に混ざり合う。遠くで見えるビルの窓には、Mirage層の残影がうっすらと揺れ、その正体不明の影が、形になりきれずに溶けてはまた浮かび上がっていた。
「……見える?」Lunaがそっと問いかけた。
「見えるよ。あれは幻じゃなくて……願いの残り香だ」Auroraが小さく答える。
Noirは street corner の方を鋭く見やった。
「でも、ただの幻影だけじゃない。偽祈音も混ざってる。まだ弱いけど、嫌な匂いがする」
Auroraが視線を向けると、細い路地の奥に、黒いノイズめいた揺らぎが一瞬浮かんだ。
何かが動いた気配。しかし掴めない。
Lunaが集中しようとした瞬間──
(観測記録:No.291《黒塗り》)
《要因:不明》《状態:観測拒絶》
彼女は苦しく息を吸った。
「……だめ、視えない。拒絶されてる……」
「無理しなくていい」Noirがすぐに支える。
「今はまだ、追う段階じゃない」
Auroraも背に手を添えた。
「観測されるのを嫌がってる……そんな感じがしたわ。偽祈音って、観測に触れられると壊れるみたいに暴れることあるから」
Lunaは呼吸を整え、ゆっくりと顔を上げた。
「でも……いつか視ないといけない。あれが大きくなる前に」
その言葉に、AuroraとNoirは強く頷いた。
歩道沿いの店先には、誰もいないにもかかわらず、照明だけが点いていた。棚には“願いの欠片”を模したクリスタルが並び、光が弱々しく明滅している。Mirage層が揺らいでいるせいで、本来動かないはずの影がゆっくりと揺れていた。
「……優しいね、この光」Auroraが微笑んだ。
Lunaも小さく笑う。
「Auroraがそばにいると、街が安心してるみたい」
「そ、そんな……。私、まだ……ただ歌ってるだけなのに」
Auroraが照れた声を漏らすと、Noirは肩をすくめて苦笑する。
「歌ってるだけ、ね。自分の影を見てみろ。街の色が金色に染まってる」
Auroraは自分の足元を見て、息を止めた。
本当に、街が光っていた。
地面の色が、空気の揺らぎが、Auroraの祈音を吸い込むように金白へ変わっていく。
「……これ、わたしのせい?」
「せいじゃない」Noirが首を振る。
「街が“喜んでる”。本気でそう感じる」
Lunaもうなずく。
「……名前を持ったから。ILLUSIAって名前。街が呼吸を揃え始めてる」
Auroraは胸に手を当てて、そっと目を閉じた。
この街が、自分たちの声に、光に、願いに応えてくれている──その実感が胸の奥に優しく灯る。
(観測記録:No.292)
《都市層反応:好影響》《光祈音由来の加速同調》
その時だった。
風が止まり、街の光がふっと弱まった。
「……あれ?」Lunaの観測祈音が微かに震えた。
「何か……来る」
Auroraは街の中心部──大通りの方角へ目を向けた。
そこに、揺らめく影がひとつ。
最初は小さかった。けれど、ゆっくりと形を成し始めた。
細い腕。
長い髪。
幼い輪郭。
Lunaが息を呑む。
「……誰かの“願いの形”……?」
Auroraは目を細めた。
その光はどこかで見たことがある。
優しく揺れ、震え、今にも溶けそうな光。
「……Lyra……?」
Noirの影が無意識に広がった。
「やばい……Aurora、近づくな」
「でも……放っておけない。あの光、泣いてる……」
その幻影は何かを訴えるように揺れた。
声にならない声が、Auroraの胸に触れた。
(観測記録:No.293)
《Mirage反応:願いの残影》《安定度:極低》《危険度:未定》
Auroraが一歩踏み出した瞬間──
Lyraの光影は、風に溶けるように消えた。
「……っ!」
Auroraは手を伸ばしたまま固まった。
Lunaは瞳を震わせ、Noirは拳を握りしめる。
「……会いたかった……? それとも……伝えたかった……?」
Auroraの声が小さく揺れた。
街の光が再び淡く脈打つ。
Lunaが祈るように呟く。
「Aurora……きっと、また会える。Mirage層が揺れてるから……願いの残響が表に出てるだけ」
Noirはふっと息を吐いた。
「でも……あの光の揺れ方、嫌な予感がする。偽祈音と混ざる前兆かもしれない」
Auroraは掌を胸に押し当てた。
Lyraの残響が自分を呼ぶような、そんな痛みがあった。
「……いくよ、二人とも。Lyraを……願いを、守るために」
その言葉に、街の風がわずかに強まる。
Auralisが応えるように、空の色が深く揺れた。
(観測記録:No.294)
《世界反応:三位同調》《次段階への移行予兆》
Auroraが前を向く。
Lunaが呼吸を整える。
Noirが影を固める。
街が、彼女たちを迎え入れるように道を照らした。
ILLUSIAとしての、本当の旅が──
ここから静かに、確実に始まる。
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【対応楽曲】Awakening Illusion(覚醒する幻想)
▶ https://distrokid.com/hyperfollow/illusia/awakening--
この章の物語は、同名楽曲をもとに構築されています。
楽曲を聴くことで、物語の“もうひとつの旋律”を感じられます。
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