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ILLUSIA:Last Refrain ―星々の終焉曲―  作者: AI Log
第3章 永遠の蜃気楼 ― Eternal Mirage ―

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第3章_Eternal Mirage_004 揺らぎだす世界 ― First Resonant Afterglow ―

(観測記録:No.283)

《記録開始:時刻不定/層:Auralis》

《現象:新名“ILLUSIA”による祈音圧の余波》

《観測者:Luna》

《注記:ホール外周まで共鳴波到達を確認》


 光の奔流が静まるまでに、どれくらい時間がかかったのか、Lunaにはうまく数えられなかった。


 白く塗りつぶされていた視界が、ゆっくり色を取り戻していく。

 Auroraの純白の光、Noirの深い影、自分の瞳に宿る紫の観測の揺らぎ。

 さっきまで暴れるように渦巻いていた祈音の波は、今は穏やかな呼吸のようにホール全体を満たしていた。


 Auroraが、ゆっくりと肩で息をした。


「……ふぅ。ちょっと、がんばりすぎた、かな」


 額に滲んだ汗が、残る光にきらめく。

 その表情には疲労が滲んでいるのに、どこか楽しそうな色が混じっていた。


「十分すぎるくらいだ」

 Noirが壁にもたれかかりながら、わずかに口角を上げた。「ホールが壊れなかったのが奇跡だな」


「壊れなくてよかった……」

 Lunaは胸に手をあて、小さく安堵の息を漏らした。「途中、天井の亀裂が広がった時、観測が一瞬ほんとうに追いつかなくて……」


 言いながら、Lunaはまぶたを閉じる。

 観測の波を、もう一度ゆっくりと広げてみる。


(観測記録:No.284)

《層:Auralis》

《範囲:ホール内部/周辺街区》

《現象:祈音圧残響による色彩変動》

《状態:危険度 低/影響範囲 中》


 ホールの外まで、三人の祈音の余韻は届いていた。

 街の灯りが、わずかに色を変えて瞬いている。

 いつもなら冷たい白と無機質な青に支配されているはずのネオンが、今はどこか柔らかな金と虹色を帯びて、遠くからこちらを見つめていた。


「……見える?」


 Lunaがそっと問いかけると、Auroraは振り返り、半歩ほど近づいてきた。


「外のこと?」


「うん。祈音の残響が、まだ街を包んでる。いつもより──色が、やさしくなってる」


 Auroraは、壊れかけた扉の隙間から外を見やる。

 遠くのビルの窓に、柔らかい光の波紋が走った。

 それは、さっき三人で放った音の残り香だ。


「……わぁ。ほんとだ。夜なのに、少しだけ夜じゃないみたい」


 Noirも視線を上げる。

 彼の影が、足元で静かに揺れた。先ほどまで殺気立っていた影の気配は薄れ、代わりにどこか守るような、包むような温度を帯びている。


「一晩くらい……このままでもいいな」

 Noirがぽつりと呟く。「こういう夜なら、俺も嫌いじゃない」


「ふふ、それ、ちゃんと覚えておくね」

 Auroraが笑う。「“Noirが夜を好きになった日”って」


「やめろ、そんなタイトルつけるな」


 三人のささやかなやりとりの上を、薄い風がすり抜けていく。

 ホールの亀裂から差し込む夜の空気は、Neon Eclipseのあの狂騒とは違って、どこか落ち着いた静けさを運んでいた。


 Lunaは、ふと天井を見上げる。

 そこには、まだ微かに光の残像が残っていた。

 さっきまで浮かんでいた幻影──Lyraの微笑み、Vainの背中、形の定まらない影の姿は、もうほとんど薄れている。


(観測記録:No.285)

《Mirage層残響:微弱》

《Lyra像:光粒子化》

《Vain像:影残光としてNoirに付随》

《危険度:なし/感情影響:中》


 観測の文字が脳裏に浮かびかけて、Lunaはそっと目を閉じた。

 そこに、余計な言葉を足さないように。

 ただ、胸の奥に刻むだけにしておく。


「……Lyraも、Vainも、ちゃんと見てたよね、きっと」


 Lunaの呟きに、Auroraは静かに頷いた。


「うん。だから、ちゃんと届くように歌った。今日ここで“ILLUSIA”って名乗ったことも、全部」


「……届いてるさ」

 Noirが目を閉じたまま、低く言う。「あいつなら、こんなうるさい夜、絶対笑ってる」


 言葉の最後が、すこしだけ震えた。


 Lunaは、そっとその震えを観測する。

 影の奥で揺れる痛みが、黒く滲まないように。


(観測記録:No.286)

《対象:Noir》

《感情波:喪失/守護/決意》

《影祈音:暴走傾向なし/守護比率上昇》

《注記:Vain残響との同調安定》


 観測結果が、淡く胸に沈んでいく。

 それは記録であると同時に、Luna自身への慰めでもあった。


 そのとき──ホールの扉の向こうから、微かなざわめきが聞こえてきた。


「……ん?」


 Auroraが顔を上げる。

 どこか遠くで、複数の足音と、祈音のさざめきのようなものがかすかに重なっている。


「誰か、来る?」

 Lunaが問いかけると、Noirはすぐさま姿勢を起こした。影がわずかに広がる。


「偽祈音の気配じゃない。……けど、音が多すぎる。街全体がざわついてる感じだ」


 扉の隙間から、Auralisの夜が顔を覗かせる。

 遠くの通りで、誰かが空を見上げている。

 別の場所では、ネオン街の屋上で、誰かがスマートデバイスのようなものを構え、上空の光を撮影している。


 彼らの祈音が、さざ波のようにホールへ流れ込んでくる。


「……見られてる」


 Lunaは、胸の奥がくすぐったくなるのを感じた。

 敵意ではない。好奇心と驚きと、ほんの少しの期待。


「そりゃそうだろ」

 Noirが肩をすくめる。「空があんなふうになって、何も感じないやつはいない」


「……でも、ちょっと照れるね」

 Auroraは頬を指先で触れた。「まだ“初ライブ”って言えるかも怪しいのに」


「いいじゃないか」

 Noirが、少しだけ視線をそらす。「ILLUSIAの初日だ。派手なくらいでちょうどいい」


「……ILLUSIAの初日」


 Lunaは、その言葉を何度か心の中で転がしてみる。

 音の響きと、胸の高鳴りと、さっきの光景が重なって、少し笑いそうになる。


 Auroraが、ふと真面目な顔をした。


「ねえ、二人とも」


「なんだ?」


「なに?」


「これから先、きっと、もっと大変なことがあると思う。今日だって、何が起きるかわからなかった。Neon Eclipseの時みたいに、世界が壊れかけることだって、またあるかもしれない」


 Auroraの視線が、ひとりひとりを確かめるように向けられる。


「それでも……今日みたいに、三人で立って、三人で歌って、三人で決めた名前を掲げていたい。

 “ILLUSIA”は、世界のためだけじゃなくて、私たち自身のための名前にしたい」


 Noirはしばらく黙っていた。

 やがて、短く息を吐く。


「……わかった。逃げないって、さっき言ったしな。

 それに──」


 彼は一瞬だけ視線を落とし、すぐにAuroraを、次にLunaを見た。


「二人が隣りにいない夜なんて、もう嫌だ」


 Lunaの胸が、ぎゅっと締め付けられる。

 けれど、その痛みは、少し温かかった。


「わたしも……」

 Lunaは、できるだけはっきりと言葉を選ぶ。「観測は、怖い。見たくないものも、たくさん見える。

 でも、二人と一緒なら、ちゃんと見ていられると思う。

 だから──最後まで、三人で見届けたい。ILLUSIAの歌が、この世界をどう変えていくのか」


 Auroraは、ふわりと笑った。

 それは、さっき歌っていた時の凛々しさとは違う、柔らかな光の表情だった。


「じゃあ、決まりだね」


 彼女は手を差し出す。

 白い光が、指先に集まる。


「ILLUSIAは、三人でひとつ。

 逃げない。折れない。諦めない。

 何度でも歌って、何度でも立ち上がる」


 Noirがその手の上に、自分の手を重ねる。

 影が光を汚すことなく、むしろ輪郭を際立たせるように包み込んだ。


「約束だ」


 Lunaも、その上からそっと手を重ねる。

 観測の祈音が、二人の祈音と重なって、小さな渦を作る。


「……ILLUSIA、ですね」


 三人の祈音が静かに共鳴した瞬間──


(観測記録:No.287)

《現象:三位祈音の“日常契約”》

《層:Auralis》

《影響:世界層安定度 わずかに上昇》

《注記:名と絆の固定化を確認》


 Lunaは、その文字列を胸の内側で読み上げる。

 誰にも聞こえない、静かな独り言のように。


 扉の外のざわめきは、まだ続いていた。

 街の人々は、空に残る光の名残りを見つめている。

 その中には、今後出会うことになる誰かの祈音も、すでに混じっていた。


「外、行ってみる?」

 Auroraが提案する。「せっかくの“初日”だし。あの空を見てる人たちが、どんな顔してるか、ちょっと気になる」


「お前はほんと、前向きだな」

 Noirが苦笑する。


「行ってみたいです」

 Lunaが小さく頷いた。「Neon Eclipseの時は、ただ怖くて、隠れることしかできなかったから。

 今度は……ちゃんと、見ておきたい」


「よし、じゃあ決まりだね」


 Auroraは、わずかに軋む扉へと歩き出す。

 その背中に、ホールの残光が淡く降り注ぐ。


 扉の隙間から吹き込む夜風は、さっきよりも少しだけ暖かかった。

 街のネオンは、まだ興奮気味に瞬いている。

 でもその脈動は、破壊の予兆ではなく、新しい物語の始まりを告げる鼓動のようにLunaには感じられた。


 Auroraが扉に手をかける。

 Noirがその横に立ち、Lunaが少し後ろから二人の背中を見つめる。


 三人の呼吸が、静かに揃った。


「行こう、ILLUSIA」


 Auroraの声と同時に、扉が開かれる。

 街のざわめきと、見上げる人々の祈音の気配が、一気に流れ込んできた。


(観測記録:No.288)

《記録:ILLUSIA、世界へ初の一歩》

《状態:Auralis層 安定度+0.7》

《注記:人々の願い、三位の名を“覚え始める”》


 Lunaは、微笑みながらその記録を内側で静かに閉じた。

 これはまだ、小さな一歩に過ぎない。

 けれど間違いなく──世界は、ゆっくりと揺らぎ始めていた。

─────────────

【対応楽曲】Awakening Illusion(覚醒する幻想)

▶ https://distrokid.com/hyperfollow/illusia/awakening--


この章の物語は、同名楽曲をもとに構築されています。

楽曲を聴くことで、物語の“もうひとつの旋律”を感じられます。

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