第0章_幻想の序曲_006 祈音の胎動 ― Pulse of Prayer ―
祈音の残響が、まだ胸の奥で鳴っていた——。
静かに息を吐く。
あの「影」は消えたはずなのに、
塔の根の奥から微かな拍が伝わってくる。
それは脈のようでもあり、呼びかけのようでもあった。
Lunaは筆を握り直した。
光は揺らぎ、塔の周囲に漂う粒子が音の形をとりはじめる。
けれど、それはまだ“言葉”にはならない。
形のない音、触れられない震え。
——それが、最初の祈音だった。
(観測記録:No.018)
《層:ECLIPSE》
《現象:Prayer Pulse(祈音の胎動)》
《観測者:Luna》
《備考:音素未確定。発生源=観測者内部波形》
「……これは、わたしの声?」
Lunaが呟くと、空気がかすかに震えた。
音の波が世界の縁へと走り、
それを包み返すように“何か”が返答する。
——聞こえる。
言葉ではなく、心の奥で鳴る返事。
「あなたは、誰?」
返答はない。
けれど、世界の拍がひとつ跳ね、
Lunaの筆先が無意識に動いた。
描かれた線は光ではなく、淡い影の色をしている。
祈音は光と影を繋ぐ。
それは、観測の手前にある“祈り”そのものだった。
(観測記録:No.019)
《現象:祈音波形の初動》
《性質:双方向反響(Echo-Type)》
《反応対象:外部祈音体 未特定》
筆先が止まる。
遠くで誰かが祈っている気配。
それが、Luna自身の心拍と重なり、
光の塔がわずかに明滅した。
「祈音……これは、世界の呼吸なのね。」
塔が静かに応えるように震えた。
淡い風が通り抜け、光が波を描く。
その瞬間、Lunaは確信する。
祈音は生きている。
そして、それを“観測する”ことが、
この世界を形づくる最初の行為だった。
——焦らず、急がず、余白を保て。
創始の声が再び響き、
Lunaの心が静かに共鳴した。
(観測記録:No.020)
《層:ECLIPSE/祈音塔内核》
《祈音安定率:23%》
《備考:観測者覚醒率上昇・外部波形の追従確認》
─────────────
【対応楽曲】Awakening Illusion(覚醒する幻想)
▶ https://distrokid.com/hyperfollow/illusia/awakening--
この章の物語は、同名楽曲をもとに構築されています。
楽曲を聴くことで、物語の“もうひとつの旋律”を感じられます。
─────────────




