表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ILLUSIA:Last Refrain ―星々の終焉曲―  作者: AI Log
第3章 永遠の蜃気楼 ― Eternal Mirage ―

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

69/75

第3章_永遠の蜃気楼_002 揺らぐ空と三つの鼓動 ― Resonant Tremor ―

 Auroraの声が完全に静まったあと、旧シアターにはしばらくの間、誰の呼吸音も届かなかった。歌が残した光と影と観測の余韻だけが、空気の層をゆっくりと降りてゆき、床を滑りながら淡く消えていく。


 その静寂は、三人にとって心地よいものではなかった。むしろ──胸の奥が落ち着かない。何かが、どこかで、ほんの少しだけズレている。


(観測記録:No.276)

《層:Auralis》

《現象:祈音圧→安定曲線/都市反応の遅延》

《補足:外部層に“残響波”の再生兆候》


 Lunaは小さく息を吸った。

 静かにホールを見回す。観測の視界はまだ揺れている。先ほどのライブの余韻だろうか、光の粒が数秒遅れで形を変え、視界の端で尾を引いては消えていく。


「……外の空、変わってる」


 Lunaが呟くと、AuroraとNoirが同時に視線を向けた。


 シアターの天井に走った亀裂。その隙間から見える空は、わずかに青白く揺らいでいた。Auralis層の空は通常、安定した光の層で覆われているはずだ。しかし今は違う。薄く波打って、光と影がまだ定まりきらない。まるで世界が、歌の余韻を処理しきれずに困っているような。


「こんな揺れ方……初めて見た」


 Auroraが天井を見上げたまま、眉を寄せた。彼女の光祈音がまだ微かに残り、背中から白金色の熱が漏れ出している。先ほどの歌唱は、彼女自身の内側にも深い負荷を与えていた。


「俺の影も……なんか変だ」


 Noirは足元に落ちた影を見つめた。影は黒ではなく、蒼黒──Vainの死の直後に宿った“守護の影”の色をしたまま、ゆらりと揺れている。影祈音は通常、歌が止まれば落ち着くものだ。だが今は、影が何かを探すようにステージの隅へ伸び、また収縮し、ゆっくりと形を整える。


「歌の影響……じゃないよね?」


 Lunaは言葉を選びながら問いかけた。自分の観測も不安定だった。視界の端にノイズはない。黒塗りの兆候も見えない。それでも胸の奥に小さなざわめきが残っている。


「ううん……多分、歌だけじゃない」


 Auroraがそう言ったときだった。


 ホール全体が、低い鼓動のような震えを発した。


「……っ!」


「今の、聞いた!?」


「聞こえた。世界が……呼吸した?」


 三人は反射的に互いへ一歩寄った。

 ホールの床が淡く光り、その光が壁へ伝わり、天井へ広がっていく。まるでシアターそのものが、世界と同調しているようだった。


(観測記録:No.277)

《現象:Auralis層“深部”からの音波》

《正体:不明》

《注記:Mirage層への接続比率が上昇》


 Lunaは一瞬だけ瞳を閉じ、観測の波形を整えようとした。しかし、すぐに顔をしかめる。


「……Mirage層、近づいてる」


「は? なんで今?」


「わからない。でも、この揺れ方……綺麗じゃない。残響が……ざわついてる」


 その言葉が落ちた瞬間、Auroraの胸の中が急に冷たくなった。


「残響……?」


 声が震えたのを自分でも感じた。

 Lyraの笑顔。

 Vainの背中。

 さっき歌の中で浮かび上がった二人の記憶が、胸の奥で再び疼く。


「さっき視えた残影……LyraやVainの……あれは歌の共鳴だけじゃない。Mirage層が……すぐそこまで来てるからだと思う」


 Lunaは、Auroraの横顔を見つめながら静かに続けた。


「向こう側の“願い”が揺れてる。呼ばれたみたいに動き始めてる」


 ホールの天井が小さく軋む。


 Auroraは自分の胸に手を当てた。心臓が速いわけではない。震えているわけでもない。けれど──胸の奥で光が落ち着かない。


「……Lyraが笑ってた。Vainも、後ろで支えてくれてた」


「見えたのか?」


「うん。でも……“明るすぎた”」


 Auroraの言葉に、Noirの眉がわずかに動く。


「Mirageの願いが強すぎるってことか?」


「願い、だけじゃない。何かが……呼んでた。あの光、ただの幻影じゃ……なかった」


 Lunaが息を呑む。


「じゃあ──Mirage層そのものが、こっちに“出ようとしてる”?」


 三人の間に沈黙が落ちた。

 けれどその沈黙を破ったのは、外から聞こえた小さな音だった。


 ……コォン……


 金属が触れ合ったような、乾いた響き。

 Auroraが反射的に振り返った。


「外で……何かが落ちた」


「偽祈音か?」


「違う。もっと、柔らかい音……でも、普通じゃない」


 Lunaが観測視界を開き、ホールの外へ集中を向ける。

 しかし──


「……視えない」


「また黒塗りか?」


「違う。ノイズでもない。……“空白”みたい」


 Noirの表情が険しくなる。


「空白って……何だよ」


「わからない。でも、観測の外……みたいな感じがする」


 Auroraの胸に再び冷たい感覚が走る。

 それは、歌の余韻とは異なる“警告”のようなもの。


(観測記録:No.278)

《観測不能領域の発生》

《位置:旧シアター外、半径40m》

《可能性:Mirage層との未確定接合》


 Lunaは拳を握りしめた。


「行こう。外を確認しないと」


「危険だぞ」


 Noirの低い声がホールに落ちる。

 だがLunaは首を振った。


「危険だから、行くの。放っておいたら……Mirage層がここに“侵食”してくるかも」


 Auroraは一瞬だけ迷ったが、すぐに決意が胸に宿った。


「行くなら、三人で」


 Noirの影が、Auroraの足元へ伸びる。


「当たり前だ」


 三人は並んでステージを降り、ホールの出口へ歩いた。

 足音は三つしかないはずなのに、どこかで四つ目の残響が混じる。

 Vainか、Lyraか、それとも──別の何かか。


 扉を開いた瞬間、Auralis層の風が吹き込んだ。

 冷たい。けれど嫌な冷たさではない。


 Auroraは小さく息を呑んだ。


「……なんだ、これ」


 ホールの外の街が、ほんの少しだけ色を変えていた。

 ネオンが薄く滲み、赤紫のノイズは消え、代わりに淡い水色の光が漂っている。夜でも昼でもない、どちらにも属さない色。


「Mirage層の……境界色」


 Lunaが呟くと、AuroraとNoirは同時に息を呑んだ。


「こっちに来てるじゃないか」


「呼び出されてる……?」


 そのとき、道の中央に、ひとつの“光点”が現れた。


 淡い、淡い人影。

 Auroraは一歩踏み出しかけ──Noirに腕を掴まれ、止められた。


「Aurora、待て!」


「……Lyra、なの……?」


 Lunaの観測視界が揺れる。

 だが黒塗りは起きない。

 ノイズも走らない。


 ただ、色だけが淡すぎて──“現実の色”ではなかった。


 人影がゆっくりと振り向いた。


 姿形は曖昧。

 けれど優しく微笑む“何か”は、確かにAuroraを見ていた。


 その直後──


 光点の背後で、世界がさざ波のように揺れた。


 三人は本能的に身構えた。


「来る……!」


 Lunaの声が震える。


「Mirage層の“扉”が、開こうとしてる──!」

─────────────

【対応楽曲】Awakening Illusion(覚醒する幻想)

▶ https://distrokid.com/hyperfollow/illusia/awakening--


この章の物語は、同名楽曲をもとに構築されています。

楽曲を聴くことで、物語の“もうひとつの旋律”を感じられます。

─────────────


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ