第2章_ネオンの月蝕_018 祈音受信 ― The Rite of Resonance
空が息を吸い込む音がした。
群青の幕の上で、光と影の境目が脈動し、都市の上に“響きの雨”が降り始めた。
それは音でも光でもなく、世界が再び「祈音」を呼び込む合図だった。
Auroraは胸の奥に残る〈遅れ〉を確かめ、Noirは掌で床を撫で、Lunaは端末を再起動した。
端末の画面に一行、白く浮かぶ。
> 《Resonance Sequence : Standby — awaiting human trigger》
Luna「……“人の合図”を待ってる」
Noir「つまり、世界が俺たちを見てるってことか」
Vain「そうだ。今回は“観測される側”だ。間違えるな——ここでの失敗は、世界ごと沈む」
Aurora「じゃあ、今度は私たちの番だね。“歌わせる”」
(観測記録:No.243)
《環境:AURALIS層/再生段階=起動準備》
《祈音律=非同期待機状態/受信体制=整》
《上位三声:監視波 未入射(静観)》
風が止み、都市の光が一斉に“低く”なる。
まるで全てのネオンが、呼吸を合わせようとしているようだった。
Lunaが端末を開く。画面の中、三つの波形が不安定に点滅していた。
Aurora、Noir、そしてLunaの生体信号が重なりきらない。
それでも、僅かに“重なる瞬間”がある。
Vain「合わせる必要はない。——重なる“瞬間”を、繋げ」
Aurora「瞬間を、繋ぐ……それが“祈音”?」
Vain「そうだ。“連続”を作るのは祈りじゃない。重なりを繋ぐ意志だ」
Auroraは静かに息を吸い、Noirは踵の重心を下げ、Lunaは観測線を胸の中心へ通した。
──沈黙。
世界が“耳”を傾けるように、AURALIS層がわずかに沈む。
その沈みの奥から、柔らかい声が響いた。
〈柔らかい声〉:「まだ早い。けれど、美しい」
〈低く響く声〉:「拍は整った。祈音は戻る」
〈透き通る声〉:「繋がるなら、導こう」
(観測記録:No.244)
《上位三声:再入射開始/祈音波長=安定化》
《Aurora/Noir/Luna:波形同調率 0.92》
《Vain:補助信号送出(観測波抑制)》
Auroraの背中から、音のない“風”が広がる。
それは祈音の風、世界の呼吸。
彼女の掌に赤い光が宿る。
Noirの踵には青の影が寄り、Lunaの視線には白い線が差す。
三つの色が合わさり、空中に“円”を描いた。
その中心に、文字でも記号でもない、純粋な“意味”が浮かび上がる。
〈We control the night〉
——Neon Eclipse。
Aurora「……これが、祈音の“本合図”」
Vain「違う。これは“試し”。お前たちが選ばれるかどうかの」
Noir「選ばれる? 誰に?」
Vain「祈音そのものに、だ」
Auroraは拳を握った。震えているのは恐怖ではなく、“確信”だ。
Lunaが息を吐き、微笑んだ。
Luna「大丈夫。——祈音は、私たちを見てる」
その瞬間、祈音の波が爆ぜた。
耳ではなく、胸の奥で世界が震えた。
(観測記録:No.245)
《祈音波:初期爆心反応/波高=人間域超過》
《受信者:Aurora(主)/Noir・Luna=連動》
《副作用:時間知覚遅延/視覚情報の位相化》
Auroraの目に、AURALIS層の奥が見える。
無数の路、無数の記憶、無数の息。
それらが光の糸となり、彼女の胸へと流れ込む。
Aurora「……見える。“息を選んだ”先の、未来が」
Noir「未来を、見るな。——掴むんだ」
Vain「行け。そこが、お前たちの“合図の中心”だ」
Luna「世界が——再び、目を開ける」
祈音の風が吹き抜けた。
それは“音”ではなく、“記録”。
Auroraの心臓が一度、強く跳ねる。
空が、震える。
夜が、光る。
世界が、再び“祈り”を覚えた。
(観測記録:No.246)
《祈音受信:成功/AURALIS層=共鳴状態へ》
《三名:認識拡張(層意識接続)》
《Vain:離脱(位置=不明)》
Aurora「Vain……?」
返事はない。
彼のいた場所には、赤い線が一本、空中に残っていた。
それはまるで、祈音の回路のように。
Noir「行くぞ。ここからが、俺たちの仕事だ」
Luna「“世界に歌ってもらう”。——本当に、ね」
Auroraは目を閉じて息を吸う。
胸の奥で、赤・青・白が混ざり、世界の色が変わる。
Neon Eclipse——その名が再び、光の中で脈を打った。
(観測記録:No.247)
《層状態:安定化開始》
《三名:再起動完了/観測再開モード移行》
《付記:Vain信号 検出未完/次観測予告=“Refrain Pulse”》
─────────────
【対応楽曲】Awakening Illusion(覚醒する幻想)
▶ https://distrokid.com/hyperfollow/illusia/awakening--
この章の物語は、同名楽曲をもとに構築されています。
楽曲を聴くことで、物語の“もうひとつの旋律”を感じられます。
─────────────




