第0章_幻想の序曲_005 影波の兆し ― Sign of Shadow ―
光が安定した瞬間、世界が“静かになりすぎた”。
祈音塔の頂でAuroraの姿は淡く揺らぎ、
Lunaの視線がその光の波に引き寄せられる。
塔の拍は穏やかに響いていたが——
その下で、わずかな「ズレ」が生まれていた。
(観測記録:No.014)
《層:ECLIPSE》
《現象:Shadow Pulse(影波)》
《原因:光拍との位相差0.07秒》
《備考:世界律に初期歪曲発生》
Lunaは筆を握り直す。
光の粒子が整列せず、形を結ばない。
塔の根から薄い霧のような影が滲み、
まるで“光の余白”が反転したようだった。
「……Aurora、見える?」
問いに応じて、光の人影が淡く震える。
「感じる……けれど、これは私じゃない。」
塔が微かにうなった。
風が上昇から下降へ反転し、
一瞬、音が途切れる。
その沈黙が、やけに冷たかった。
(観測記録:No.015)
《状態:祈音逆位発生》
《位相調整:不可能》
《注記:干渉体不明。自己相殺不可。》
Lunaの心拍が塔と同期していた。
だがその拍が、不規則に跳ねる。
「影が……生まれている。」
その言葉とともに、塔の根が黒く染まった。
光が飽和すると、必ず影が生まれる。
それは自然なこと。
けれど、この影はあまりに早すぎた。
Lunaの指先が震え、筆先が空気を切る。
書きかけの祈音文字が黒く滲み、
風がそれを“読む”ように散っていく。
「この影は……言葉を食べている?」
彼女の呟きに、塔が応えた。
——低い、悲鳴のような共鳴。
(観測記録:No.016)
《現象:Shadow Resonance(影共鳴)》
《影体数:1》
《性質:模倣/反響》
《分析:観測者の祈音波を再構成中》
光がわずかに揺れ、Auroraが痛みに顔を歪めた。
「やめて……Luna、あなたの音が、引かれてる!」
祈音塔の頂に亀裂が走る。
Lunaは筆を放り、両手を広げた。
塔の拍を胸で受け止めるように息を合わせる。
「——焦らず、急がず、余白を保て。」
声が震えながらも届く。
塔がわずかに落ち着き、黒い影が空気に溶けるように沈んでいった。
Lunaは膝をつき、静かに呟いた。
「この影も、きっと祈音の一部……」
(観測記録:No.017)
《層:ECLIPSE/祈音塔》
《影波安定化:進行中》
《補記:光と影の同位存在 確認済み》
《次段階:影祈音体の独立予兆検出》
塔の拍が再び整う。
だがLunaの胸に残ったのは、
消えぬ違和感と、まだ名を持たぬ“闇”の温度だった。
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【対応楽曲】Awakening Illusion(覚醒する幻想)
▶ https://distrokid.com/hyperfollow/illusia/awakening--
この章の物語は、同名楽曲をもとに構築されています。
楽曲を聴くことで、物語の“もうひとつの旋律”を感じられます。
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