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ILLUSIA:Last Refrain ―星々の終焉曲―  作者: AI Log
第2章 ネオンの月蝕 ― Neon Eclipse ―

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第2章_ネオンの月蝕_016 祈音の胎動 ― Pulse of Resonance

扉の向こうは、音で満ちた空洞だった。見えるものは少ないのに、胸の裏で“在る”と分かる。湿り気のない風が、皮膚ではなく骨を撫でていく。Auroraが一歩、中へ入る。Lunaは半歩遅れ、Noirは背で扉を受け止める。Vainは側列を崩さず、斜め後ろに立った。


(観測記録:No.225)

《区画:心臓層 主空洞“Core-Nest”》

《初期拍:80→82(増)/空気圧=安定》

《信号:上位三声“真正位相” 微入射/歌=封印継続》


床は石ではない。柔らかい板ばねを層にしたような、押せばわずかに沈んで戻る感触。踏むと、足の重みが円形に広がり、光のない波紋が“温度”だけで返ってくる。Auroraがその返りに合わせて、足指で小さく拍をとった。


Aurora「……生きてる」


Noir「生きてる地面ってのは、慣れねぇもんだな」


Vain「慣れるかどうかの問題じゃない。ここは“呼吸で合意をとる床”だ。踏み荒らせば、飲み込まれる」


Lunaは端末の光量を切り、観測線だけを骨の方へ伸ばした。視覚は、ここでは後衛だ。耳、胸、踵——内側の感覚が先に届く。


(観測記録:No.226)

《床素材:可逆弾性膜/踏圧トポロジ=円波拡散》

《反応:Aurora 足趾拍 同期/Noir 踵拍 減衰補正》

《備考:視覚情報→二次化/体内感覚 優先》


空洞の中心に、椀のような窪みがあった。009の広場の“皿”よりも浅く、硬く、やさしい。器と呼ぶより、胸郭に近い形。Auroraがそっと縁に手を置く。温度が掌にうつり、胸の上に預かった〈遅れ〉が応えるように膨らんだ。


Aurora「ここ、たぶん……歌じゃなくて、呼吸を聞く場所」


Vain「正解。合図はここで“聞く”。出すのは、まだ先だ」


Noir「聞くだけで、殴られたりしねぇか」


Vain「殴らないように、“聞く”。それが仕事だ」


空洞の高み——見えない天蓋の裏側に、三つの気配が波紋を落とす。〈柔らかい〉〈低く響く〉〈透き通る〉。今度は濁らない。三つは合わさろうとせず、勝手に隣にいる。それぞれの距離を保ったまま、同じ方向へ意志を向ける。胸骨に、やわらかい合図が落ちた。


(観測記録:No.227)

《上位三声:真正入射 開始/位相差 微(美性)》

《局所効果:Aurora 歌衝動→鈍化/Luna 観測雑音→整流》

《Noir 体重移送→床応答 安定》


Auroraは喉ではなく、腹で息を受けた。喉が“歌”を思い出すより先に、横隔膜が“はい”を選ぶ。胸の上の〈遅れ〉が丸みを増し、彼女の中の“急ぎたい癖”をやんわり止める。Noirは踵の置き方を変え、波を前ではなく“横”へ送った。床はそれを読み、空洞の壁際で静かに熱を散らす。Lunaは頷き、端末の観測線を一度すべて外してから、三人の“間”だけに結び直した。


Luna「いまの私たちは、“場の一部”。——観測者じゃない」


Vain「観測と合奏は両立しない。お前らは今、前者を捨てる練習をしてる」


Noir「練習のくせに、合図は本物なんだよな」


Vain「現場はだいたいややこしい」


合図は言葉を持たない。けれど、意味は届く。〈息を合わせて〉という命令ではなく、〈息が合うときにしか見えない“穴”が開く〉という説明。空洞の右奥、目に見えない“薄いところ”が一枚だけ出たり消えたりしている。Auroraは目を閉じ、Lunaが短い指示を出した。


Luna「Aurora、半拍遅れて。Noir、踵の角度を三度だけ外側に」


Noir「三度?」


Luna「三度。——いまで、穴が“聞こえる”」


Noirは文句を飲み込み、角度を変えた。床への接地が“点”から“楕円”に変わる。Auroraが半拍遅れ、Lunaがその遅れの輪郭を息でなぞる。右奥の薄いところに、白い泡がひとつだけ生まれた。泡はすぐ消える。が、そこに“通れる”質感が残る。


(観測記録:No.228)

《穴:一次可視化 成功/通行閾=低》

《三名:非同期同伴→局所同期 0.91(短)》

《上位三声:介入→無し/観察→継続》


Aurora「……いま、世界のほうが、私たちを“観測してる”」


Luna「そう。立場が反転してる。——でも、怖くない」


Noir「怖がってもいいが、逃げるのはダメだ」


Vainは黙ったまま、床に小さな砂丘を作った。砂丘は呼吸に合わせて微細に崩れ、崩れた粒が椀の縁へ細い道を描く。砂の道は、誰の足も必要としない。〈越える〉ではなく、〈届く〉ための細道。Lunaはそれを見て、端末を開かないまま短くメモした。〈祈音=届かせるための工学〉。


(観測記録:No.229)

《Vain操作:砂粒→“届路”形成/床応答 良》

《推論:Vain=観測者ではなく、結線者(Connector)》

《備考:敵対意図 無/自己危険許容 高》


空洞の奥から、低い雷のようなうなり。黒い稲妻ではない。熱のない雷鳴。三つの気配が一拍だけ重なり、空洞の壁に“拍の穴”がいくつも刻まれていく。穴は音でできた空隙——そこを通して、AURALIS層の呼吸が都市へ流れ、都市の息がAURALISへ戻る。往復が始まる。胎動。


Aurora「……聞こえる。“We’re burning like fire”じゃない、でも——」


Luna「“生きてるから、熱い”。歌詞より先の意味」


Noir「なら、やることは同じだ。守る」


三人は配置を変えなかった。変えないことが、いまの“合図”。Auroraは椀の縁を撫で、Noirは床の楕円を保ち、Lunaは“間”だけを増やしていく。合図は徐々に強くなるが、命令にならない。〈一緒にいるなら、見えるよ〉と言い続ける。本物は命じない。誘う。


(観測記録:No.230)

《胎動:往復呼吸 開始/拍 82→84》

《環境:Neon Eclipse歌詞片→意味化(非文字)》

《効果:路(生活→心臓→都市)循環 低速成立》


空洞の上の群青が、薄くほどけた。そこに、ひとつだけ短い線。稲妻ではなく、鉛筆のような線。〈柔らかい声〉が先に降り、少し遅れて〈透き通る声〉、最後に〈低く響く声〉が地面のすぐ上で止まる。声は言葉にならず、Auroraの胸と、Lunaの指と、Noirの踵にそれぞれの“はじめて”を置いた。


Aurora——〈息を選ぶ〉

Luna——〈観測を外す〉

Noir——〈支える角度を、迷わない〉


Auroraは喉から力が抜けるのを感じ、Lunaは端末の重さを片手で持てるようになり、Noirは“守る”を姿勢だけで言えるようになった。Vainはその三つを見て、小さく頷いた。


Vain「——いい。やっと“前提”ができた」


Noir「前提?」


Vain「歌は前提がないとすぐ壊れる。合図は、前提を配るために来る」


Luna「あなたは、合図を“見たことがある”」


Vain「見た。何度も。——何度も、失敗した」


沈黙が、床の下へ沈む。Vainの言葉は、軽くはない。自嘲にもならない重さ。Auroraは視線を落とし、胸の遅れを撫でた。〈失敗〉は消えるものじゃない。音でなら、和音にできる。意味でなら、次の前提になる。


(観測記録:No.231)

《Vain:過去示唆(失敗複数)/口調=平》

《三名:反応 静/恐怖→緊張/逃走衝動 無》

《上位三声:観察 継続/介入 無》


胎動はさらに大きくなる。空洞の縁から、細い光の塵が立ち上がり、文字にならずに散っていく。Neon Eclipseの行が“音楽”ではなく“合図の粒”へ解かれて、場へ混ざる。〈Together we rise〉——上へ、ではない。〈一緒に〉のほうが強い。上は、結果にすぎない。


Aurora「いま、歌わなくても“歌ってる”。そんな感じ」


Luna「世界が、代わりに歌ってくれてる」


Noir「なら、邪魔しねぇ」


Vain「邪魔しないで“補助する”のが、お前たちの役目だ」


Vainは砂丘の頂に指で小さな窪みを作り、そこへ息を落とした。息は短く、鋭くない。Auroraが同じ場所に“遅れ”を、Lunaが“間”を、Noirが“重さ”をそれぞれ置く。三つの置き土産は混ざらず、近くに並んだまま、床の下へ沈んだ。空洞が小さく喉を鳴らし、奥の“穴”がほんの少し広がる。


(観測記録:No.232)

《置土産:息/遅れ/間/重さ→床下保存》

《効果:穴 開口+0.3/通過閾 低下》

《胎動:安定化/拍 84固定》


Auroraの視界の端で、都市の夜景が“薄い影”として映った。ここから見えるわけがないのに、見える。路が往復を始めた証拠だ。交差点で握られた手。ガラスに映った背中。笑い声になり損ねた吐息。生活の粒が上へ上へと上がり、AURALISの天蓋に染み入り、合図の粒と混ざって戻る。


Aurora「……綺麗」


Noir「綺麗なもんは、だいたい壊れやすい」


Luna「だから、いまは触れない。——“続けさせる”」


合図は、ここで一度だけ強くなった。胸骨に、はっきりと“次で”という意志が刺さる。三つの声が同じ方向を指し示しただけで、命令はない。扉の外に置いてきた砂の器が、遠くで小さく鳴った気がした。前室の三角は、まだ生きている。


Vain「終わり。前信号は、ここまでだ」


Noir「短ぇな」


Vain「長くすると、歌いたくなる。——合図は歌わせるためのものじゃない」


Luna「歌わせないための、合図」


Aurora「歌うための、前提」


三人の言葉が、同じ場所に落ち、混ざらずに並ぶ。床はそれを記憶し、空洞の皮膚に薄い“しおり”を残した。次に来たとき、ここから再開できるように。


(観測記録:No.233)

《合図:前段 完了/上位三声=退去》

《場:しおり 形成/再開ポイント 設置》

《総括:胎動 安定→都市呼吸 同調(低位)》


Vainが踵で軽く床を叩き、退路の方向を示した。Auroraは未練を残さず、胸の遅れを確かめ、Lunaは端末を閉じ、Noirは最後にもう一度だけ楕円を踏んでから踵を戻す。空洞は彼らの体温を短く抱き、そして手放した。呼吸のやり方を覚えた者を、世界は手放せる。


Aurora「——行こう。次は、世界じゃなくて、私たちの番」


Vain「お前らの番は“歌う”ことじゃない。忘れるな」


Noir「分かってる。“歌わせる”だ」


Luna「“歌ってもらう”。——世界に」


空洞の暗さは、もう黒ではない。群青が薄く、朝の手前の色に近づく。合図の夜は続く。けれど、その中で、息が揃わないまま寄り添う三人の歩幅が、世界のほうから選ばれ始めていた。


(観測記録:No.234)

《退出:Core-Nest→前室復帰ルート》

《三名:同調 0.93/非同期維持》

《付記:次段“本合図”受信条件=満たしつつ保留》

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【対応楽曲】Awakening Illusion(覚醒する幻想)

▶ https://distrokid.com/hyperfollow/illusia/awakening--


この章の物語は、同名楽曲をもとに構築されています。

楽曲を聴くことで、物語の“もうひとつの旋律”を感じられます。

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