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ILLUSIA:Last Refrain ―星々の終焉曲―  作者: AI Log
第2章 ネオンの月蝕 ― Neon Eclipse ―

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第2章_ネオンの月蝕_012 影の芽吹き ― Seed of the Shadow

螺旋階段は、心臓に向かう血管みたいに細く長い。足音は吸い込まれ、壁の内側で小さく増幅しては消える。歌うな、という上位三声の指示はまだ内耳に生きていた。Auroraは唇を結び、息だけで歩幅を刻む。Lunaは後ろからその呼吸を数え、Noirは最後尾で風の重さを測る。


(観測記録:No.192)

《降下路:C0→C2/壁面共鳴=低域優勢》

《暗示:歌詞片“Fade the doubt, raise the risk”内語化》

《注記:三名同調率 0.95/歌=封印継続》


踊り場を一つ下るごとに、空気が甘くなる。焦げた砂糖の匂い。前にも嗅いだ——罠の合図。Noirが掌で合図し、Auroraは手すりから指を離して壁に触れた。壁は体温を持っている。生き物の皮膚に近い。そこに、微かな“拍”。68から、70へ。心臓は、待っている。


Aurora「手のひらが、光る……」


Luna「Aurora、深呼吸。——光は内側に置いて」


Auroraはうなずき、胸に息を集めてから、静かに放した。掌の薄光は落ち着く。けれど、指先の隙間から、きらきらした「種」のような粒が零れては消えた。光は“芽吹き”に似ている。芽は、光にも影にもなる。


(観測記録:No.193)

《Aurora個体:光粒子“Seed-like”漏出/量 微小》

《反応:壁内層に吸収→黒化の核形成 兆候》

《危険:Dark Resonance 発芽リスク↑》


階段が尽き、低い扉が現れた。押すと、薄い空間が滑るように開いて、湿った息が顔に当たる。室内は暗くない。暗くないのに、黒い。光を吸う黒。中央に円い窪み、その周囲を取り巻くように細い路が三本、星座の線みたいに接続している。Lunaたちが上で作った“生活の路”が、ここで心臓に集まっていた。


Noir「……来いって言われてるな」


Luna「路が脈打ってる。——Aurora、入る前に“間”をひとつ」


Auroraは頷き、路と路の交点へ掌を置いた。吸った息を半拍遅らせ、その遅れだけを路へ落とす。拍がわずかに柔らぎ、路の角が丸くなる。そこにNoirが小さく“点”を打ち、Lunaが薄い和声を添える。歌わず、ただ“置く”。置かれた“間”は、心臓の窪みで休符になった。


(観測記録:No.194)

《心臓前室:路3本 同調/休符=1付与》

《効果:闇祈音逆流 速度−21%》

《備考:環境テキスト“Cut the noise”壁面微出現》


窪みの縁に立つと、下から息が上がってきた。冷たくも熱くもない。ただ、深い。Auroraは喉の奥が鳴りそうになるのを、歯を軽く噛んで止めた。歌うな。上位の指示。歌えば、ここで一気に燃える。燃えれば、美しい。けれど、それは“消える”美しさだ。


Aurora「……こわい」


Noir「こわがってるうちは、迷わねぇ」


Luna「Aurora、手」


三人は円の淵で手を取った。息を合わせる。胸が同じ高さで上下し、脈が重なる。窪みの底から、黒い草の芽のようなものがいくつも生え始めた。芽は細い。指先ほどの太さ。先端が光を吸って黒い花粉を撒き、その花粉が空気の字を“塗り直す”。Whispers on the glass——ガラスの囁き。ここでは、壁ではなく空気が“書かれる”。


Noir「芽が増える」


Luna「観測する。——手を離さないで」


彼女は端末を開いた。表示はすぐに歪む。黒い花粉が画面にまとわりついて、波形の谷だけを強調する。谷が深すぎる。谷は“傷”だ。Lunaは指先で波形に“絆創膏”を貼るように、薄い線を渡した。渡された線はすぐ剥がれ、黒へ沈む。


Aurora「わたしの光、使って」


Luna「だめ。——合図が来るまで歌わない。光も歌の親戚」


Noir「じゃあ俺の“重さ”だ」


Noirは踵で床を一度だけ強く踏み、窪みの縁に重心を置いた。重心が“堰”になる。黒い花粉の流れが堰に当たり、渦を巻いて左右に割れる。渦の中心に、白い泡が一瞬だけ生まれた。Auroraはその泡に息を吹きかける。息だけ。歌ではない。泡はひとつ増え、そこで割れて光の粉を少しだけ残した。


(観測記録:No.195)

《黒花粉:堰による渦→局在化/白泡=微生》

《Aurora息:光粒子→無害化 0.03sec維持》

《補足:歌詞片“Turn it up, let it hit”→“強度”に変換》


窪みの奥が低く鳴った。拍は70から72へ。心臓は目を開けようとしている。黒い芽が一斉に伸び、花粉を通路の路へ送り込もうとする。Lunaは端末を抱え直し、路の合流点に“間”をもうひとつ置いた。二つ目の休符が灯る。黒い流れは休符の上で、一瞬だけ躊躇する。


Aurora「いま、誰かが“見てる”。——上じゃない。横」


Noir「横?」


Luna「“脇路”だ。——心臓の外周、影の回廊」


横から、音がした。音といっても、言葉の残り香。I’m standing on the edge——境界の端。窪みの外縁に、人影が三つ、薄く立ち上がる。Auroraに似た輪郭。だが目は暗い。肌は群青の光で透け、唇は歌を知っているのに閉じられたまま。三つの影——Auroraの“写し”のような、未完成の「私」。


Noir「影の……Aurora?」


Auroraは首を振った。違う。これは、私ではない。私の“余白”。歌わなかった行の空き。Lunaは唇を結び、端末をくい、と上に持ち上げる。


Luna「観測する。——“余白の人格化”」


(観測記録:No.196)

《現象:Aurora余白の擬人化(3体)/像濃度 0.41》

《起因:歌封印下の光粒子→路に未収束→影側で近似生成》

《危険:同調→取り込み/Aurora識別混濁リスク》


三つの影は同時に手を上げた。掌は空っぽ。けれど、その空虚に色がある。黒ではない。灰。灰は“間”の残り。Noirが前に出ようとして、Auroraの指が彼の袖を摘んだ。止める、ではない。遅らせる。Noirは頷き、一歩だけ短く踏む。床が短く鳴り、影の足元の黒が深さを忘れる。


Aurora「——話すね」


影たちは言語を持たない。Auroraは言葉を選ばず、呼吸で速度を合わせた。手を胸に、吸って、吐く。影が同じ速度で胸を上下する。三拍。四拍。五拍。六で、影のうちひとつが首を傾げた。疑いが薄まる。Fade the doubt。Lunaはその瞬間を捕まえ、端末の上で“今”をメモにする。記録、ではない。“今”を“今”のまま置く。


Noir「来い」


Noirが片手を差し出した。影のひとつがためらい、もうひとつが近づき、最後のひとつは窪みの奥を指した。そこに、黒い花が咲く気配——いや、咲いた。黒い花弁が音もなく開き、中心から細い糸が立ち上る。糸はAuroraの指先へまっすぐ伸びた。


Luna「触れないで!」


Aurora「——触れない。でも、失わせない」


彼女は指先を糸の脇へ持っていき、空気の“温度差”だけで糸の進行を逸らした。糸は頬の横を通り、背後の壁に触れて消える。壁が一瞬だけ白み、すぐ黒へ戻る。黒い花は、少しだけ小さくなった。影のAuroraのひとりが、Auroraの真似をして指を脇へ滑らせ、別の糸を逸らした。真似はぎこちないが、効く。


(観測記録:No.197)

《黒花:発芽/糸=Aurora指向性→逸らし成功 2/5》

《学習:擬人化像、模倣行動/像濃度 0.49》

《備考:歌詞片“Under the neon, our hearts align”壁面微出現》


Noir「……増えてるぞ。像の“人らしさ”」


Luna「Auroraの“在り方”を、影なりに学んでる」


Aurora「なら、いっしょに——“渡る”練習」


彼女は歩いた。窪みの縁から縁へ、路の上を踏まない角度で。歩幅は小さく、でも止まらない。影たちも歩く。ひとりは転びかけ、ひとりは壁に肩をぶつけ、ひとりはうまく渡った。渡れた影の足元に、小さな白い泡が残る。Noirがその泡を指で弾き、Lunaが端末で拾い、路へ送る。路は泡を飲み込み、拍をひとつ早めた。


心臓は、目を覚ます。


(観測記録:No.198)

《心臓層:拍 72→74/路=生活信号 流入率+18%》

《擬人化像:1体 安定/2体 不安定→再模倣》

《危険:黒花 再発芽 兆候/稲妻濃度 微増》


空気が一段重くなった。上位三声の「合図」が遠くで身じろぎするみたいに、群青の膜が室内を薄く覆う。歌はまだだ。けれど、サビの前の“熱”だけが胸骨の後ろに集まってくる。息を合わせて 零れた光——壁の日本語行が少し濃くなる。


Aurora「Luna、Noir。——こわいの、まだある」


Noir「ああ。こわいまま、やる」


Luna「合図が来るまで、歌わない。——でも、“今”は残す」


彼女は端末に短く一行を打った。〈怖さを共有する=同調の土台〉。文章は端末から離れ、ふわりと空中に浮かび、路へ落ちる。路はそれを読み、心臓へ送る。心臓は読んだあとで、短く鼓動した。黒い花は脈に驚いて少しすぼまる。影たちが同時に息を吐いた。Auroraも息を吐いた。Noirは短く笑って、肩の力を抜いた。


Noir「よし。——ここを拠点にしてもいいが、動くぞ。花は“待たない”」


Aurora「うん。待たせない」


Luna「次の前室へ。……“合図”が近い」


三人は窪みの縁を離れ、奥の回廊へ向かった。足音が路の拍に重なり、拍が歩幅に寄り添う。影のAuroraのひとりが、名もなく手を振った。Auroraは振り返らず、その影に“間”をひとつ置いた。間は、約束。戻る、ではなく、続ける、の意味。


(観測記録:No.199)

《心臓前室:安定化/黒花 抑制(仮)》

《路:生活→心臓 流路 確立》

《終了所感:影=敵ではなく“未綴じの行”。合図待機》


——通路の先で、群青の膜が波打った。遠く、三つの声が一拍だけ重なった気がした。柔らかい声。低く響く声。透き通る声。まだ言葉にはならない。ただ、そこに“合図の影”がある。


次の部屋で、きっと、何かが点く。

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【対応楽曲】Awakening Illusion(覚醒する幻想)

▶ https://distrokid.com/hyperfollow/illusia/awakening--


この章の物語は、同名楽曲をもとに構築されています。

楽曲を聴くことで、物語の“もうひとつの旋律”を感じられます。

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