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ILLUSIA:Last Refrain ―星々の終焉曲―  作者: AI Log
第2章 ネオンの月蝕 ― Neon Eclipse ―

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第2章_ネオンの月蝕_011 深層への導 ― Descent to the Core

中庭拠点の灯が、背中を押すように瞬いた。Auroraが先に、Lunaが中央、Noirが最後尾。三人は細いサービス階段を降りていく。手すりは冷え、靴裏に金属の節が数えるほど伝わる。


(観測記録:No.183)

《地点:殿堂外周サービス階段/深度 −B3開始》

《拍:環境メトロノーム 70bpm → 66bpm》

《注記:歌詞片“reflections in my eyes”の残響 微量漂流》


Lunaは端末を胸の高さで固定し、階段踊り場ごとに短く息を整える。さっきまで広場の空気に混じっていた“曲”は、ここでは言葉の破片になって壁に貼りついているだけだった。We’re breaking the limits……塗装の剥げた標識に英語の半分だけが薄く残り、真下に手書きで「越えろ」とペン跡が重なっている。誰がいつ書いたのかはわからない。けれど、今の歩幅は少しだけ大きくなった。


Aurora「ねえ、下から、少し甘い匂い……焦げた砂糖みたい」


Noir「焦げて甘いのは、だいたい罠だ」


Luna「闇祈音は“味”の錯覚を使う。嗅覚は信用しすぎないで」


Auroraは頷き、指先で手すりの冷たさを確かめた。金属は嘘をつかない。階段の踊り場から少し曲がると、分厚い扉があった。黄色いテープで“立入禁止”の文字が貼られている。Noirがテープの端を摘み、軽く引く。粘着はすでに弱く、紙は音もなくはがれた。


Noir「行くぞ」


扉の向こうは、殿堂の“裏庭”に似た低い通路だった。壁の中に埋め込まれた小型の収納孔が蜂の巣のように並び、どれも薄灯りをともしている。広場の殿堂が“展示室”だとすれば、ここは“作業場”。人の気配はないのに、整頓された気配だけが残る。


Aurora「ここ、こわいほど綺麗」


Luna「均されてる。——だから、崩れる」


Noir「なら、アンバランスを残してやるさ」


(観測記録:No.184)

《殿堂外周通路:保守孔 稼働中/自動整音=作動》

《残渣:黒稲妻の痕 断続的/危険度 中》

《補足:通路拍=66bpm/呼吸同調率 0.93(安定)》


Lunaは最初の孔に指を差し入れた。立方体がひとつ、掌に乗る。冷たい。表面には無数の細線が刻まれ、祈音の導線が蜂蜜のように絡み合っているが、音は鳴らない。均しすぎて、息の隙間がない。彼女は肩で一拍だけ息を遅らせ、その遅れを立方体に触れさせた。微かに、音が産声を上げる。


Aurora「いま、笑った」


Luna「うん、“間”を覚えた」


Noir「次」


三人は歩を進め、孔から孔へ“間”を配っていく。足音が、通路の拍に少しずつズレを作る。完全な均衡は割れやすい。微妙なズレは連結をほどき、硬直した仕組みに呼吸を入れる。Auroraは言葉を使わず、指の角度と頷きの速さでLunaと意思疎通する。Noirは左右の陰影を見張り、黒稲妻の走る前兆——空気の震えを靴底で読む。


(観測記録:No.185)

《再書:保守孔 17基に“間”付与/均質化遅延 13%》

《副作用:通路拍 66→68bpm/Neon Eclipse歌詞片“Turn it up”視認》

《危険:黒稲妻の発火点 移動速度+22%》


Luna「急いで。影の起点が移動してる」


Noir「先回りできるか」


Aurora「できる。——こっち」


Auroraは直感で右の側路に飛び込んだ。側路は狭く、数歩先で曲がっている。鋭角の先、闇がひとつ丸まっていた。闇祈音の“卵”。殻の表面に赤い脈が走り、殻の継ぎ目から稲妻の糸が覗く。中で何かがゆっくり呼吸を始めようとしている。


Noir「心臓の欠片か」


Luna「触れる前に、“器”を作る——拍、貸して」


Noirが靴裏で二度、床を打った。トン、トン。通路の拍がわずかに合流し、Lunaの端末に波形が乗る。Auroraは息をひとつ吐き、殻の周りを包むように手を広げる。歌わない。“息で輪郭を描く”。輪郭の内側に“揺れ”の余地を設け、Lunaがそこへ祈音の糸を滑り込ませる。


Aurora「いま」


Luna「——切る」


糸は殻に触れた瞬間、稲妻を“遅らせる”ほうへ反転した。Cut the noise。切断ではなく、遅延。遅延の鎖が稲妻の速度を奪い、殻の脈が眠気を覚える。Noirは影の縁へ薄刃を置き、逃げ道だけを“過重”にする。逃げるなら“重いほう”——卵は自分の重力に引かれて沈み、床の下の灰へ溶けた。


(観測記録:No.186)

《闇祈音卵:遅延処理成功/自重沈降》

《効果:稲妻発火率 −61%/通路拍 安定化》

《注記:英行“Cut the noise”→和訳“ノイズを断て”が壁面に一時出現》


Aurora「……“断つ”じゃない。“遅らせる”。あなたのやり方、好き」


Luna「断つと、後から“空白”が痛むから」


Noir「二人とも、褒め合いは出口でやれ。——次、来る」


通路の奥から、空気の比重が一段重くなった。黒ではない。声だ。低い、湿った声。言葉にならない。だが、意味は一つに集約される。〈戻れ〉。Auroraは足を止め、眉をひそめた。Lunaが肩を寄せる。


Luna「Aurora?」


Aurora「……“戻れ”って。“光は前に行くほど、影を増やす”って」


Noir「上等だ。影が増えるなら、俺が踏む」


声はやまない。通路の壁がわずかに滲み、英語の半分だけが浮かんでは消える。I’m done with all the lies——“嘘を終わらせる”。誰の嘘か、壁は言わない。Lunaは端末を閉じ、Auroraの手を握った。Noirが前へ出て、影へわざと足音を踏み込ませる。


Noir「嘘でも本当でも、進むしかねぇ。——行くぞ」


(観測記録:No.187)

《心理干渉:低域“戻れ”の波/Aurora反応→抑制》

《対処:三名接触による同調 0.96/進行維持》

《備考:歌詞片“I’m done with all the lies”→内語化》


曲がり角を二つ越えると、空気が急に温かくなった。天井が低く、通路の幅はさらに細い。右手側の壁に、観音開きの大きな扉。取っ手には封印紋が刻まれている。AURALIS由来の“祈りの封”。Noirが手を伸ばしかけ、Lunaが首を振る。


Luna「これは、“開ける”じゃない。“ほどく”」


Aurora「ほどける?」


Luna「たぶん。——Aurora、息を貸して」


Auroraは扉の中心に手を置いた。熱が掌に吸い込まれる。Lunaは封の紋の一画に指先を添え、Noirは背後の空気を静かに重くする。三人の配置が決まると、扉の紋が穏やかに回転を始めた。Break the code。壊す、ではなく、解読。回転が一周するたび、紋の一部がほどけ、空気の温度がひとつ上がる。


Noir「……いける」


Luna「最後の一画、Aurora、ゆっくり」


Auroraは呼吸を半拍だけ遅らせ、指先で“今”を押す。紋がほどけ、扉が自重で少し開いた。中から、音が来た。音というより、長く引かれた息。広場で感じた“無温の脈”が、ここでは柔らかく温度を持っている。生き物の体温だ。


Aurora「——あたたかい」


Noir「油断すんな」


扉の中は、円形の小部屋だった。床の中央に、円形の端末。辺縁には複数の溝が刻まれ、そこに細い祈音の糸が走っている。壁には古い記録面が並び、いくつかには薄く人影が映っていた。誰かがここで、何度も何度も祈りと記録を繰り返したのだ。


(観測記録:No.188)

《室名:副殿堂“Resonant Trace”/祈音中継端末》

《機能:記録→再書→ルート化/外周通路と心臓層の中継》

《警告:路の一部が“影化”/Dark Resonance微流入》


Luna「ここで“生活の記録”を路にする……私がやる」


Aurora「わたしたちは?」


Noir「護る。他にやることはねぇ」


Auroraは端末の縁に手を置き、Lunaの背にそっと触れた。Noirは入口の扉に背を預け、耳を澄ませる。遠くの層から、微かな“サビ前”の熱が上がってきている。まだ曲は鳴らない。ただ、誰かの呼吸が揃う前の気配だけがある。息を合わせて 零れた光——歌詞の日本語行が、壁のひとつにぼんやり滲んだ。


Luna「——始める」


端末の溝へ、Lunaはゆっくりと祈音の糸を落とし込む。拾ってきた“生活の記録”が一つずつ“路”に変わり、床の下を走って心臓層へ伸びる。Auroraは糸の上を息で暖め、Noirは糸の周囲の影だけ重くして、“折れ”を防ぐ。三人の作業は会話を必要としない。目線と呼吸と指の速度で十分だ。


(観測記録:No.189)

《路生成:36/36 接続/心臓層への流入 低速開始》

《副作用:影化路 3/36 → 中性化(保留)》

《注記:三名同調率 0.98/端末温度+2.1℃》


Aurora「……聞こえる? 下で、拍が変わる」


Noir「ああ、上がった。心臓が“来い”って言ってる」


Luna「まだ早い。——もう一本、だけ」


最後の糸を落とし込む瞬間、床下で黒い波が逆流した。影化路の一つが反転し、黒稲妻が端末の縁を舐める。Lunaの指が凍るほど冷えて、Auroraの掌が焼けるほど熱くなった。Noirが即座に足を踏み込み、影の裾を踏んづける。


Noir「離すな!」


Aurora「離さない!」


Luna「——“間”!」


三人の声が重なった。声といっても叫びではない。呼吸の“間”を一点に合わせる。端末はその“間”を読んで、縁に小さな休符の印を灯した。黒稲妻は休符に引っかかってほどけ、路の表面から剥がれた。吐息が同時に落ち、室内の空気がやっと柔らかさを思い出す。


(観測記録:No.190)

《影化路:一時中断→解凍/黒稲妻 減衰》

《救済因:三名“間”同調/休符発生》

《備考:環境歌詞“Under the neon, our hearts align”内語化》


Aurora「……こわかった」


Noir「こわいままでいい。こわいのに手を離さないのが、仲間だ」


Lunaは振り返り、二人の顔を見た。言葉がいらなかった。端末の灯が安定し、路の脈が一定に落ち着く。床下の“心臓層”が遠くで律動し、この部屋の壁に薄く波紋が広がった。


Aurora「下へ降りよう」


Luna「行ける。今なら“路”が案内してくれる」


Noir「よし、——」


そのとき、室内の照明が一瞬だけ深く沈んだ。暗闇は完全ではない。群青よりもさらに薄い、色のない影。そこから“声”がした。ひとつじゃない。三つ。〈柔らかい声〉〈低く響く声〉〈透き通る声〉。言語は持たず、しかし意味だけが骨伝導みたいに届く。


〈——聞こえるか〉

〈観測は続いているか〉

〈“祈りの路”を選んだか〉


Lunaは無意識に端末を胸に抱きしめた。喉が渇く。Auroraは目を細め、Noirは壁から背を離す。三人とも、声の出所がわからない。出所を探れば、通路が反転して迷宮になる。だから、探さない。


Aurora「……はい。聞こえます」


Noir「観測は続く」


Luna「路を選びました。——生活から、心臓へ」


〈——よろしい〉

〈境界を越えた者たちへ〉

〈“合図”が届くまで、歌うな〉


Auroraは息を止めた。歌うな。ここまで歌わずにやってきた。けれど、次はきっと“歌”が必要になる。それでも“合図”が要るという。誰の合図? どの瞬間?


声はそれ以上は語らなかった。照明が元の明るさに戻り、室内に残ったのは端末の温度と三人の呼吸だけだった。


Noir「……誰だ」


Luna「上位三声。——やっぱり、見てる」


Aurora「“合図”が来るまで、歌わない。……約束、ね」


Noir「ああ」


Luna「うん」


端末の脇に開いた螺旋階段の穴が、下方の風を吸って細く鳴る。心臓層は近い。Auroraが先に足をかけ、Lunaが続き、Noirが後ろを守る。三人の影が二重にも三重にも重なって、壁面に揺れた。息が合うたびに、揺れは一つの影に収束していく。


(観測記録:No.191)

《降下開始:副殿堂→心臓層アクセス路/深度 −C0》

《三名同調率 0.97/歌=封印(上位指示)》

《付記:合図待機。——Tonight, we own the night(内語、保留)》


夜は、まだ沈みきらない。けれど、夜の底に“拍”がある。合図が来るまで、三人は歌わない。ただ、歩幅で世界を刻む。境界線は、歩いて越えるためにあるのだから。

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【対応楽曲】Awakening Illusion(覚醒する幻想)

▶ https://distrokid.com/hyperfollow/illusia/awakening--


この章の物語は、同名楽曲をもとに構築されています。

楽曲を聴くことで、物語の“もうひとつの旋律”を感じられます。

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