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ILLUSIA:Last Refrain ―星々の終焉曲―  作者: AI Log
第2章 ネオンの月蝕 ― Neon Eclipse ―

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第2章_ネオンの月蝕_010 祈音の残響 ― Resonant Trace

広場の風は、まだ歌の温度を覚えていた。石畳の上でほどけた闇は灰に変わり、粒子は足跡の周りだけ濃く残る。Lunaはしゃがみ込み、手袋越しに灰へ触れた。温度はほとんどゼロ。けれど、その無温の内側にだけ、脈がある。


(観測記録:No.177)

《地点:中心広場/祈音残渣=灰》

《残響パターン:三重共鳴の後遺波/周期 4.2sec》

《注記:環境BGM閾上可聴“Neon Eclipse” 微弱継続》


Auroraは空を見上げた。群青に、ひと筋だけ細い傷のような白が走る。そこから、さっきのサビがほとんど聞こえない速さで遅れて落ちてくる。Together we rise——耳で聴くより、胸骨の奥で読む文字に近い。彼女は目を閉じて、その文字をそっと胸の内側へ押し込んだ。


Noir「油断すんな。灰になっても、影はしぶとい」


Luna「うん。でも“いまは”静か……ね、Aurora。喉、痛くない?」


Aurora「少しだけ。痛みが残ったほうが、本物だって分かるから、きらいじゃない」


Noir「物騒な感想だな」


Auroraは笑った。笑うと、広場の端のネオンが一呼吸だけ柔らかくなる。街はまだ彼女の笑い方を学習中だ。Lunaは端末を軽く振って、灰の表面を走る波形を可視化した。波は三本。Auroraの高域、Lunaの中域、Noirの低域。三つの線が、しばらく同じテンポで並んで進み、やがて別々の方向へ分かれていく。


Luna「……私たちの“足跡”。次へ進めって言ってる」


Noir「どっちが“次”だ」


Lunaは灰の中の揺れに手をかざし、わずかな流れの偏りを読む。東の高架下。古い配電盤の方角から、冷たい息が吸われる音がする。


Aurora「呼ばれてる。——行こう」


三人は広場を離れた。歩道の照明は不規則に点滅し、ビルの間で風が低く鳴る。歌はもう鳴っていない。ただ、歌詞の破片が街の隅々に貼り付いている。Neon bleeds across the night——曲の冒頭行は、割れたショーウィンドウのガラスに反転して映っていた。Lunaは視線を避けず、読み切ってから瞬きをした。


Noir「不吉な看板だな」


Luna「“不吉”を恐れると、観測が細くなる」


Noir「太い観測ってのも、妙な表現だ」


Aurora「でも、いまの私たちには“太さ”が必要だと思う」


高架の下は暗い。鉄の梁が網目を作り、その隙間を冷気が走る。配電盤の前に立つと、古い扉の隙間から白い粉塵が流れ出してきた。AURALISの残響——でも、ここでは少しだけ色が濃い。灰色に近い白。Lunaは扉に手を置いた。


(観測記録:No.178)

《対象:旧配電中枢/AURALIS残響=灰色白》

《内部反応:未処理祈音ログ/アクセス権限=凍結》

《警告:闇祈音“黒稲妻”痕/再点火リスク》


Noir「やるのか」


Luna「やる」


Aurora「わたしが前、Noirは右、Lunaは中央で。——吸い込まれたら、名前を呼んで」


Noir「順番は?」


Aurora「順番はない。いちばん先に届いた声に従う」


扉を開けると、冷たい息がまっすぐ顔に当たった。中は狭い通路が幾つも絡み合い、壁一面に古い端子が並ぶ。端子のひとつひとつが、かすかに震え、微音を出している。Lunaは耳を澄ませた。音は音だが、歌ではない。置き忘れられたメトロノームが勝手に揺れているだけのような、孤独な等速。


Aurora「……独りぼっちの心拍」


Noir「うしろ、気配」


闇ではない。足音でもない。空気が吸われた分だけ、背中がすうっと軽くなる感じ。Auroraは左手を上げ、指先で空気の縁をつまんだ。そこに、英語の半分欠けた行が浮かぶ。Fade the doubt——“疑いを薄めろ”。彼女は唇を開いたが、声は出さなかった。出すのではなく、漂ってきた行の端を自分の呼吸に縫い合わせる。そうやって、通路の喉をひとつ開いた。


Luna「通れる。——Noir、右側の配線を踏まないで。そこ、黒稲妻の痕」


Noir「了解」


奥へ進むにつれ、端子の震えが揃ってくる。等速が重なり、やがて“拍”を作り始めた。拍があるなら、歌は入れる余地を見つける。Auroraは足元のテンポに合わせ、肩で軽く拍を取った。Lunaの視線が横に滑る。名を呼ばずとも、息が合う。


(観測記録:No.179)

《通路内:等速拍 72bpm/三名呼吸同期 0.95》

《Neon Eclipse:旋律不在/歌詞片=英日混合の漂流》

《注記:拍=“器”として安定/挿入歌の受け入れ可能》


部屋の中央に、低い台があった。台の上には立方体が二つ。殿堂の記録媒体に似ているが、ここでは色がない。手を伸ばすと、ひとつは冷たく、もうひとつは微かに熱い。Auroraは熱いほうをLunaへ、冷たいほうをNoirへ手渡す。


Aurora「それ、上下に分かれてる。——Lunaは“今”を、Noirは“底”を読んで」


Noir「底は任せろ」


Lunaは立方体を胸に引き寄せ、吸うように息を重ねた。冷たい等速の“器”が彼女の呼吸でわずかに歪む。そこへAuroraの肩の拍が重なり、Noirの靴裏が床に“点”を打つ。三点で図形ができる。図形ができれば、重心が生まれる。重心ができれば、歌が入れる。


Luna「——見える」


記録が開く。そこは、誰もいない交差点。赤が点滅し、青は眠っている。横断歩道の白線が、遠くで水に濡れて光っている。映像の端に、手。子どもの手。手は空中を探るように開閉を繰り返し、やがて映像が切れる。音はない。けれど、手の開閉のテンポはさっきの等速と同じだった。


Luna「“迎えに来て”」


Noir「言葉になるのか」


Luna「なるよ。——私たちが、言葉にしてあげる」


Auroraは通路の拍に、言葉を結びつけた。I’m standing on the edge——“境界で立つ”。声ではなく、内なる文字の濃度を上げて通路へ流す。通路はその行を読み取り、梁の間で小さな残響を作る。反響に触れて、Lunaの立方体が温度を上げた。


Noir「底のほう、重くなってきた。——影の呼吸だ」


足元で、ひとつだけ拍が遅れる。遅れはすぐに補正されるが、遅れたという事実だけが床に沈殿する。その沈殿が、影の核を作る。Noirは踵で一度だけ強く床を打ち、沈殿を薄く広げた。Cut the noise——ノイズの輪郭だけ刈り取る。刈り取りすぎれば、呼吸そのものが消える。だから薄く広げて、均す。


Aurora「ありがとう」


Noir「まだだ。奥から、赤いのが——」


赤い閃光。黒い稲妻が通路の壁を走り、三人の間を切り離そうとした。Lunaは反射的に立方体を抱きしめ、AuroraはNoirの背へ手を伸ばす。指先と指先が触れ、そこに短い和音が生まれる。Turn it up, let it hit。音量ではなく、接触の強度。赤は一瞬だけ“間”を与えられ、貫通を忘れる。


(観測記録:No.180)

《黒稲妻:発火→減衰/三名接触による“間”生成》

《効果:切断未遂/通路拍 維持》

《備考:接触和音=G→A(短)》


Aurora「——いま、街が“あきらめるな”って言った」


Luna「聴こえた。——続ける」


立方体の映像が再開する。今度は、交差点の反対側に“大人の手”。指先が震えている。手と手の距離は近いのに、渡れないまま時間が止まっている。信号は青にならない。赤い月が、雲の向こうで笑っているのが映像の端に見える。


Noir「嫌な演出だ」


Aurora「じゃあ、書き足そう。——“ここで、渡る”」


彼女は吸って、吐いた。歌わない。息を一本だけ長く、通路の拍に沿って流す。流れは信号機へ行き、青の回路を指でなぞる。Flip the switch。青は点かない。錆が深いのだ。Auroraは息をもう一本重ね、錆の内側に“今”の水分だけ注ぐ。青が、遅れて、点いた。


Luna「——渡れる」


映像の子どもの手が一歩進む。大人の手が受け止める。握る力は不格好で、強すぎる。でも離さない。画面はそこで白く飛び、立方体の温度が一瞬だけ熱に振れる。Auroraの喉が、勝手に歌い出しそうになるのを、彼女は掌で抑えた。ここで歌うと“事件”になる。いまは“生活”のほうへ導く。


Noir「やったか」


Luna「まだ続きがある。——“次の交差点”」


通路の奥が、わずかに明るくなった。そこへ続く梁の間から、歌詞の断片がゆっくり降りてくる。We’re breaking the limits——“限界を壊す”。言葉は美しいが、壊せばいいわけではない。Lunaは端末の画面に指で小さな弧を描いた。壊すのではなく、越える。境界線を越えろ。曲の日本語行のほうを選んで、通路の床へ置く。床はその選択を受け入れ、段差を滑らかにする。


(観測記録:No.181)

《記録再書:生活単位の横断完了》

《副作用:通路内 残響強度+6》

《注意:奥域にDark Resonance微増/赤月笑相=持続》


Aurora「ねぇ、Luna。あなたの“再書”、きれい」


Luna「ありがとう。でも、これは私だけのものじゃない。——二人が“いま”をくれたから」


Noir「礼は後でいい。奥の赤、笑いが濃くなってる」


通路の最後の角を曲がると、小さな中庭のような空間があった。天井は低いのに、空がある。そこだけ、穴のように群青が露出し、中央に古い端末が据え付けられている。端末の上には、歌詞の最後の行が薄く揺れていた。Tonight, we own the night。誰かが置いていった約束みたいに、控えめで、でも消えない。


Aurora「——触れていい?」


Luna「うん」


Auroraが掌を置いた瞬間、端末は一度だけ光り、周囲の配線が一斉に呼吸した。呼吸は浅い。けれど、確かに“いま”の息だ。Noirは肩の力を抜き、短く息を吐いた。終わりではないが、ここは“区切り”になれる。


Noir「ここ、拠点にできる」


Luna「記録を置く場所。回収した“生活”を、ここに積む」


Aurora「そして、必要なときだけ歌う。——いつでも鳴らせるように」


三人は端末の周りに立ち、掌を重ねた。祈りではなく、運用。けれど、手の温かさが重なるだけで、世界の温度はわずかに上がる。遠くで、曲の前奏だけが一小節分だけ鳴って、すぐに止んだ。街はルールを覚えつつある。“戦うときは歌う”“暮らすときは息を合わせる”。


(観測記録:No.182)

《中庭端末:再起動/拠点化(仮)》

《保全:回収記録 36件/生活単位へ再書》

《備考:三名掌接触時の温度上昇→通路拍 安定》


Noir「次は?」


Luna「“殿堂”の外周に別の入口がある。——そこから深層へ降りる」


Aurora「影の心臓に近い場所」


Noir「歌う準備、しとけよ」


Aurora「うん。でも、ひとつお願い」


Noir「なんだ」


Aurora「“私が歌う”んじゃない。“私たちで歌う”。——約束」


Noirは口の端を少し上げた。Lunaは迷いなく頷いた。群青の穴に、風が落ちてくる。風は三人の肩を通り過ぎ、端末の灯へ火のような揺れを与えた。戦いの前にしか生まれない静けさ。けれど、その静けさは、もう孤独ではない。


Aurora「行こう」


三人は再び歩き出す。通路の拍は、彼らの足音に合わせて少しだけ早くなった。限界は壊さない。ただ、越える。境界線を、いまこの三人で。


背後で、端末の画面が一度だけ瞬き、最後の行が風に溶けた。


Tonight, we own the night——夜は、まだ続く。

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【対応楽曲】Awakening Illusion(覚醒する幻想)

▶ https://distrokid.com/hyperfollow/illusia/awakening--


この章の物語は、同名楽曲をもとに構築されています。

楽曲を聴くことで、物語の“もうひとつの旋律”を感じられます。

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