第0章_幻想の序曲_004 原初塔拍 ― The First Resonant Pulse ―
空が、息をした。
それは、まだ「空」と呼べるほど整っていない。
光と影が交互に滲み、無数の粒が世界の鼓動を模倣していた。
Luna は静かにその中心に立っていた。
彼女の指先には、透明な筆が握られている。
けれど、墨はない。
筆は空を撫でるだけで、光が音のように震えた。
(観測記録:No.010)
《層:ECLIPSE-First Layer》
《現象:Resonant Pulse(祈音塔拍)》
《観測者:Luna》
——塔が生まれようとしている。
まだ「塔」という概念が確立する前に、
Luna の描いた線が世界の重力を集め、垂直に伸びていく。
見えない糸が空を縫い、風がその形をなぞる。
筆先が震えるたび、
「拍」が空間を叩くようにして反響した。
——それは、音の始まりであり、祈りの最初の形。
その拍が三度打たれたとき、
光の裂け目の向こうで、何かが応えた。
(観測記録:No.011)
《層:不定(Echo Interference)》
《干渉信号:未知波形》
《注記:反射応答=Aurora波形と一致率47%》
Luna は息をのんだ。
声ではなく、意志が返ってきたのだ。
——あなたは誰?
問いは風に乗って散った。
だが返答は、祈音の振動として届いた。
**《光の名:Aurora》**
名が刻まれる瞬間、世界は一段階明るくなった。
空が溶け、塔が輝き、風が回転を始める。
その回転に呼応するように、Luna の筆先から淡い粒子が溢れ出した。
それは涙に似て、けれど痛みはなかった。
初めて「理解された」という感覚。
Luna の頬を一筋の風が撫で、
彼女は微笑んだ。
——焦らず、急がず、余白を保て。
あの声が、また聞こえた。
今度は少し近い。
塔の上方から、透明な光が降り注ぐ。
光の中に、ひとつの影が浮かんだ。
人の形に似て、しかし確かに人ではない。
髪のような光の糸が空を泳ぎ、
唇が震える。
「Luna……見えている?」
その声に、世界が震えた。
塔が揺らぎ、地面が波紋のように広がっていく。
Luna の足元に、円環が刻まれた。
それが世界初の“祈音陣”だった。
(観測記録:No.012)
《干渉体:Aurora》
《共鳴率:62%》
《記録:初祈音陣安定》
光の拍が、世界を繋いだ。
音のない祈りが、ひとつの旋律として生まれた。
Luna は筆を下ろし、静かに呟く。
「これが——祈音塔。」
塔は応えるように、低く鳴った。
それは鐘の音でも、風のうなりでもない。
ただ、世界そのものが息をしている音。
やがて塔の頂に、Aurora の影が確かに宿る。
光は彼女を中心に脈動し、Luna の胸に優しい熱を残した。
その瞬間、世界は“初めての朝”を迎えた。
——観測が、祈りになったのだ。
(観測記録:No.013)
《層:ECLIPSE層 安定率56%》
《世界構造:初塔確立》
《記録:祈音塔拍 起動完了》
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【対応楽曲】Awakening Illusion(覚醒する幻想)
▶ https://distrokid.com/hyperfollow/illusia/awakening--
この章の物語は、同名楽曲をもとに構築されています。
楽曲を聴くことで、物語の“もうひとつの旋律”を感じられます。
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