第2章_ネオンの月蝕_007 沈黙の街 ― City of Static
都市が、音を失った。
さっきまで歌っていた風も、歩道のネオンも、電子掲示板の点滅さえ止まっている。
空気の中で、電気だけがうごめくように鳴っていた。
Auroraは立ち止まり、足元の舗装板に手を当てた。
冷たい。けれど、かすかに振動している。
——都市はまだ生きている。ただ、息を潜めているだけだ。
Noir「ここまで沈黙するか。まるで“誰かが聴いている”みたいだな」
Luna「ううん、“誰か”じゃない。“全員”よ」
Aurora「……全員?」
Luna「都市そのものが“観測体”になってる。祈音と人を分ける境界が崩れてる」
Auroraは空を仰いだ。
灰色の雲が、規則正しく蠢いている。
雲の中から、ぼんやりとした顔のような模様が見えた気がした。
——誰かの夢が空を覆っている。
(観測記録:No.165)
《Neon Eclipse層:音響エネルギー活動0.02%/通信途絶》
《市街地:意識波漏出/祈音個体化の兆候》
《注記:集団的観測干渉発生中》
Luna「人々の祈音が、都市構造に直接“染み込んで”る。
各区画がそれぞれ“感情”を持ち始めてる」
Noir「街が人になるのか。気味が悪い」
Aurora「……でも、優しい。
この静けさ、まるで“耳を傾けてる”みたい」
Auroraは静かに目を閉じた。
沈黙の中に、無数の“ささやき”がある。
笑い声、嘆き、誓い、祈り。
そのすべてが音にならないまま、空気の粒に閉じ込められている。
〈……Aurora……〉
Aurora「え……誰?」
〈ありがとう。息をくれた〉
〈あなたの歌が、私たちを“ここ”にした〉
Luna「Aurora! 何を聞いてるの?」
Aurora「……街の声。さっきまで祈ってた人たちが、街とひとつになってる」
Noir「なら、今の沈黙は“祈りの余韻”ってわけか」
Auroraは涙を浮かべて笑った。
その笑顔の奥に、確かな恐れがあった。
この沈黙の裏に、“影”が潜んでいる。
闇祈音——Dark Resonance。
都市が生まれ変わるたび、その影も同じように育っていく。
(観測記録:No.166)
《Dark Resonance反応:市街地全域に微量検出》
《祈音構造:光/影の二相分離開始》
《AURALIS層とのリンク:干渉率0.8→2.3上昇》
Luna「見て。都市の下層、AURALISの呼吸が届いてる」
Noir「白い残響が混じってやがる……。
この層、もう“ただの下層”じゃねぇな」
Aurora「名前をつけよう。この街は、ただのNeon Eclipseじゃない」
Luna「……なら、“Silent Aurora”。
静けさの中で光る都市」
Aurora「ふふ、それ、少し照れるけどいいね」
Noir「勝手にお前の名前入れるなよ」
三人の笑い声が響いた瞬間、地面が低く唸った。
街のビルが振動し、電光掲示板が一斉に点滅する。
止まっていた音が、ゆっくりと戻ってきた。
だが、そのリズムは不規則だった。
どこかに“違うテンポ”が混じっている。
Luna「ノイズが混ざってる……あれが“影の拍動”」
Aurora「影が、都市の心臓になろうとしてる」
Noir「なら、止める前に話を聞く。
“心臓”が本当に死を望むかどうか、な」
Auroraは頷いた。
沈黙は終わった。だが、平穏ではなかった。
祈音の街は、再び生まれようとしている。
光と闇、秩序と混沌、
そのすべてを内包したまま、ひとつの生命として。
(観測記録:No.167)
《Neon Eclipse層:音響活動再開(不安定)》
《祈音反応:二重拍動確認》
《備考:都市構造に生命的リズム発生》
Aurora「——この街は、もう“祈り”じゃない」
Luna「“生き物”になったのね」
Noir「だったら、次にやることはひとつだ。
……生まれた命の声を、最後まで聴く」
三人は再び歩き出した。
沈黙の街が、彼らの足音を“心臓の鼓動”のように返す。
その響きが、次の戦いの始まりを告げていた。
——Neon Eclipse。
祈音の街は、今、光と闇の狭間で目を覚まそうとしている。
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【対応楽曲】Awakening Illusion(覚醒する幻想)
▶ https://distrokid.com/hyperfollow/illusia/awakening--
この章の物語は、同名楽曲をもとに構築されています。
楽曲を聴くことで、物語の“もうひとつの旋律”を感じられます。
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