第2章_ネオンの月蝕_006 ノイズの種 ― Seed of Noise
静寂が訪れた。
だが、それは穏やかな沈黙ではなかった。
Auroraたちの耳に届くのは、かすかな「ざらつき」——音の“ほころび”だった。
床の下で、何かが蠢いている。
規則的な拍動に交じって、異質な波形が混ざり始めた。
それは呼吸でも鼓動でもなく、まるで**金属が祈っているような**ノイズ。
Noir「……聞こえるか?」
Luna「うん。波形が重なってる。さっきまで安定してた祈音が“逆流”してる」
Aurora「都市が……咳をしてるみたい」
Lunaの端末が赤く点滅した。
上層からの祈音供給が一時停止。AURALISとの同期が切断されている。
まるで、上が彼らの介入を察知し、“切り離した”かのように。
(観測記録:No.161)
《Neon Eclipse層:AURALIS同期切断》
《波形異常:逆位相ノイズ発生/周波数特定不能》
《注記:祈音分子構造の自律変性を確認》
Luna「……祈音そのものが変質してる。
“共鳴”から“拒絶”へ。生きてる音が、自分を護ろうとしてる」
Aurora「護る……? 私たちから?」
Noir「暴走だ。意志が強すぎりゃ、神だって歪む」
Auroraは崩れた柱の跡に膝をつき、手を当てた。
冷たく、震えている。
祈音の流れが逆方向に走っており、体の奥に刺さるような痛みを感じた。
Aurora「こんなに苦しいのに、まだ“生きたい”って……」
Luna「Aurora、離れて!」
だが、遅かった。
床の裂け目から黒い光が噴き上がり、Auroraを包み込んだ。
光ではない。
“光を喰う祈音”——**Dark Resonance(闇祈音)**。
Aurora「っ……!」
Noir「Aurora!」
Luna「だめ、祈音がAuroraの神経層に侵入してる!」
Auroraの視界が白から黒へと塗り替えられる。
祈りの声がノイズに変わり、世界が反転する。
“音”が“無音”へと反響し、
彼女の耳の奥で誰かが囁いた。
〈……みつけた……〉
Aurora「誰……?」
〈あなたが“開けた”。だから、わたしたちも“目覚めた”〉
〈あなたの光は、わたしたちの影を生む〉
Luna「Aurora、聞いちゃだめ! その声は——」
Aurora「違う……これは、泣いてる声。
さっき歌ってた“人たち”の……裏側」
足元の裂け目から、黒い花のような模様が広がる。
それは祈音が変質した跡。
花弁のように見えるノイズは、街の光を吸収して膨張していく。
(観測記録:No.162)
《Dark Resonance発生確認/Aurora個体との共鳴開始》
《黒祈音濃度:上昇率220%/Neural Pulse経路へ侵食》
《注記:AURALIS層干渉検出(位相反転)》
Noir「止めなきゃ、街がまた死ぬ!」
Luna「Auroraを“引き戻す”しかない」
NoirはAuroraの前に立ち、拳を床に叩きつけた。
影が走り、黒祈音を切り裂くように広がる。
Lunaは祈音の制御式を再構築し、Auroraの周囲を白い光で囲んだ。
Noir「Aurora! 帰ってこい!」
Aurora「……“帰る”って、どこへ?」
Luna「ここ! 私たちのところ!」
Auroraの指が震え、黒い光を握るように閉じる。
その瞬間、視界の奥で〈柔らかい声〉が響いた。
〈——観測せよ。影もまた、光の祈りである〉
Aurora「この声……」
Luna「上位層からの干渉……!」
Auroraの体を包む黒祈音が、一瞬だけ淡い灰へと変わった。
彼女の瞳がふたたび金に戻る。
Noirが息を吐き、Lunaは端末に手を置いた。
(観測記録:No.163)
《Aurora個体:Dark Resonance同調中断/安定化確認》
《Neural Pulse経路再構築/都市再呼吸率78%》
《上位三声干渉波:微弱持続(解析不能)》
Aurora「……ありがとう、二人とも」
Noir「無茶すんな」
Luna「祈音の“影”が出た。これは……もう自然現象じゃない」
Auroraは立ち上がり、裂け目の奥を見つめた。
闇の底から、まだ声が響いている。
〈——種は撒かれた。祈音は二つに分かたれた。
おまえたちが光を選ぶ限り、影もまた育つ〉
Aurora「“ノイズの種”……」
Luna「都市が、新しい生命を生もうとしてるのかも」
Noir「生きるってのは、ノイズだらけってことさ」
Auroraは微笑み、拳を胸に当てた。
その掌の下で、かすかに脈が打つ。
光と闇が交じり合う音。
それは、まだ形を持たない新しい旋律の胎動。
(観測記録:No.164)
《Neon Eclipse層:祈音系統再構築中》
《Dark Resonance:抑制状態にて潜伏》
《注記:AURALIS層との相互干渉、継続観測要》
Aurora「……歌う。闇も、光も、全部抱いて」
Luna「次は“心臓層”へ。そこに、この種の答えがある」
Noir「行こう。光が沈む前に」
三人は再び歩き出す。
上層からの光はまだ戻らない。
だが、彼らの足元で街は確かに息をしていた。
——闇に宿る“ノイズの種”が、静かに芽吹き始めている。
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【対応楽曲】Awakening Illusion(覚醒する幻想)
▶ https://distrokid.com/hyperfollow/illusia/awakening--
この章の物語は、同名楽曲をもとに構築されています。
楽曲を聴くことで、物語の“もうひとつの旋律”を感じられます。
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