表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ILLUSIA:Last Refrain ―星々の終焉曲―  作者: AI Log
第2章 ネオンの月蝕 ― Neon Eclipse ―

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

45/75

第2章_ネオンの月蝕_003 電脈の息 ― Neural Breath

階段を降りきると、風のない空間が待っていた。


湿り気のない暗闇。光も熱も、地上に比べて薄い。

けれどAuroraはすぐに気づく。ここでは“音”が呼吸をしている。

壁を撫でれば、指先の裏で低い唸りが響く。

足を踏み出せば、床全体がわずかに膨らみ、すぐに沈む。

呼吸——ただし、それは生物のものではない。


Noir「……生きてやがる。だが“心臓”じゃねぇ。機械の肺だ」


Lunaは端末を起動し、光の糸を壁面に投げた。

糸は走り、金属質の管を伝い、やがて遠くで消える。

管の中を何かが行き来している。

液体ではない。電子でもない。

“祈音の微粒子”——Neural Pulse。

AURALIS層で祈りが光となったように、

この層では祈りが電気へ変換されている。


(観測記録:No.150)

《記録開始:Neural Base Zone/活動波形安定》

《祈音変換システム:全域稼働中/圧縮率99.7%》

《備考:感情振幅ゼロ/生体干渉データ無》


Luna「……変換効率が高すぎる。ここじゃ、人の心拍すら“データノイズ”として弾かれる」


Aurora「じゃあ、人の想いはどこへ行くの?」


Luna「削ぎ落とされる。揺れも、感情も、夢も——効率を乱す波形は全部、誤差として棄却される」


Noir「だから地上は無表情だったんだな」


Auroraは壁に手を置いた。

そこから流れ込んでくるのは、安定しすぎた脈。

波のない海のような静けさ。

それが不安で、息を止めてしまう。

胸の奥が重くなるのは、祈音に触れすぎたせいか、

それとも、ここにある静寂が“死の近似”だからだろうか。


Aurora「……息をしてるのに、生きてない。これが“都市の呼吸”なんだね」


Noir「人工呼吸のまま、何百年も続いてるんだろう」


Luna「祈音の流れ、途絶えた痕跡なし。記録の上では、永遠に生きてる」


Aurora「でも、永遠に死なないって、死なないまま苦しいってことだよ」


天井から微細な粉塵が降る。

光が届かないのに、粉の粒は自ら発光していた。

Lunaが指で掬い、光を解析する。


Luna「祈音粒子の劣化。上層との同期ズレが始まってる」

Noir「つまり、呼吸が“詰まってる”」

Luna「ええ。このままだと都市全体が祈音過多で“窒息”する」


Auroraは目を閉じた。

音がすべての方向から押し寄せてくる。

高音でも低音でもない。

——息の音だ。

無数の人々が同時に息を吐いて、吸う。

だけどそれは命の営みではなく、

プログラムされた呼吸音。


Aurora「……誰かが、この街を眠らせようとしてる」


Noir「ARCHONの仕業か」


Luna「不明。でも、上層で感じた“偽神”の波形と似てる。

AURALISの祈音をコピーして、制御系に流し込んでるんだわ」


Noir「上位層の神を模倣して、下層を支配する。どこの世界でも変わらねぇな」


Auroraはふと膝をついた。

足元から、低くうねるような音が伝わる。

地の底が呼吸を始めたのだ。

呼吸が、彼女の体を通って抜けていく。


Aurora「ねぇ……この呼吸、悲しいよ」


Luna「Aurora?」


Aurora「だって、“誰のために生きてるか”わかってない息だから。

誰も、自分で息をしてるって知らない。

誰かの祈りが、ただ数字の羅列にされてるだけ」


Lunaは言葉を失った。

彼女も同じことを感じていた。

観測者としては、感情を切り離すべきだと分かっている。

けれど今だけは、Lunaも息が詰まる。


Noirが壁に拳を当てた。

金属が短く軋み、遠くで幾つかの管が鳴る。

その音が返ってきたとき、Auroraは驚いた。

——返ってきた音が、“声”に似ていた。


〈……たすけて……〉


Aurora「いま、聞こえた?」

Luna「波形に変換中。確かに……音声パターンを検知。人間の声に近い」

Noir「誰のだ?」


Luna「識別不能。記録上、この層の“人間”はもう存在しない。

でも、電脈の奥に残ってる。消されなかった祈音の“残響”。」


Aurora「つまり、ここでまだ“誰か”が生きてる」


彼女は立ち上がり、音の源を探す。

奥の壁に、小さな裂け目があった。

祈音の流路から外れた“旧配管”。

そこだけ、流れが遅く、音が濁っている。


Noir「そこだな」


Luna「でも危険。……圧が強い。開けたら、一気に祈音が暴れるかも」


Aurora「それでも、行く」


Noirは肩で息をして頷いた。

Lunaが端末を接続し、配管のロックを解除する。

圧力が抜ける音とともに、白い霧が吹き出した。

その中から、かすかに人影のようなものが見える。

祈音の粒子が凝集し、形を成している。


Auroraはそっと手を伸ばした。

指先に触れたのは、温かさでも冷たさでもない。

記憶の温度。

祈りが、誰かを思い続けた痕跡。


〈……わたしは……ここにいる……〉


Aurora「——!」


声は短く、途切れる。

祈音が弾け、空間全体が震えた。

Lunaが叫ぶ。


Luna「Aurora、離れて!」


だが遅かった。

祈音の粒子がAuroraの体内に流れ込む。

光が一瞬、彼女の瞳を満たす。

Lunaが計測する。


(観測記録:No.151)

《Aurora個体に外部祈音反応体侵入》

《同化率:4.2%/安定化傾向あり》

《副作用:神経共鳴/情動波乱》


Noir「おい、何が起きてる!」

Luna「祈音の“声”がAuroraの神経網に共鳴してる!」

Aurora「……あの声、悲しんでる……“助けたい”って、言ってた……」


彼女の体を通して、空間が揺れる。

壁の管が呼応し、祈音の流れが逆転を始めた。

都市の心臓が、息を吸い直している。

その呼吸に、Auroraの心拍が重なる。

祈音が彼女の歌声のように脈打ち、

死んだはずの都市にわずかな“ノイズ”を注ぎ込んだ。


Luna「Aurora、制御して! あなたが暴走したら——」


Aurora「暴走なんかじゃない! これは“目覚め”!」


Noirが彼女の肩を掴み、強く揺さぶる。

Auroraは振り返り、涙を浮かべて笑った。


Aurora「だいじょうぶ。声が、ちゃんと聞こえてる」


空間が静まる。

祈音が穏やかに収束する。

Lunaはデータを確認し、驚きに息を呑んだ。


(観測記録:No.152)

《祈音流:安定化/変換効率−12%》

《情動波形:再出現(人間的揺れ)》

《注記:Neural Pulseに“息”の再導入を確認》


Luna「……Aurora、あなた、街に息を戻したのよ」


Noir「見ろ。壁が、鼓動してやがる」


壁面の光がほんの少し柔らかく明滅し、

まるで肺が膨らんでいるように見えた。

それはまだ完全な再生ではない。

だが確かに、“呼吸”が戻った。


Aurora「ありがとう……教えてくれて」


祈音の霧の中から、もう声は聞こえなかった。

けれどAuroraは微笑む。

胸の内で、微かに返された呼吸を感じたのだ。


Noir「上へ戻るか?」


Luna「まだ。……この層の心臓部を見つけなきゃ」


Aurora「うん。この呼吸の先に、まだ“歌”がある気がする」


三人は、再び闇の奥へ進む。

空気は少しずつ温かくなり、耳の奥で低いリズムが鳴っている。

都市の深層が、彼らの足音を真似している。

呼吸のふりではなく、初めての“生の息”を手探りで覚えながら。


——Neon Eclipseは、確かに息をし始めた。

─────────────

【対応楽曲】Awakening Illusion(覚醒する幻想)

▶ https://distrokid.com/hyperfollow/illusia/awakening--


この章の物語は、同名楽曲をもとに構築されています。

楽曲を聴くことで、物語の“もうひとつの旋律”を感じられます。

─────────────


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ