第1章_覚醒する幻想_012 Noirの夢 ― The Shadow that Prays ―
(観測記録:No.103)
《記録開始:夢界層・Noir個別心象域》
《対象:Noir — 影祈音共鳴開始》
闇が落ちる音がした。
それは静寂ではなく、深い“重さ”だった。
Noirはゆっくりと目を開ける。
周囲には崩れた街。
建物の輪郭は残っているが、誰もいない。
ただ、影だけが歩いていた。
Noir「……また、夢か。」
空を見上げても、光は届かない。
代わりに、空の底に祈音塔の黒い輪郭が見える。
その塔は、祈りのように沈み、崩れていく。
「——やっと来たか。」
声がした。
Noirが振り返ると、そこに“もう一人の自分”がいた。
同じ顔、同じ声、けれど瞳が違う。
もう一人のNoirは微笑んでいた。
だがその笑みには、痛みが混じっていた。
影Noir「お前は、誰のために祈る?」
Noir「……祈りは理論だ。秩序を保つための——」
影Noir「嘘をつくな。祈りに秩序などない。
あるのは、喪失を埋めたいという願いだけだ。」
Noir「……」
(観測記録:No.104)
《記録補遺:心象干渉強度上昇》
《対象:Noir/自己分裂反応進行中》
街の影がうごめく。
すべての壁、地面、瓦礫が形を変え、Noirの“罪の記憶”を映し出す。
——かつて、自分が祈音を暴走させた光景。
Auroraを救おうとして、世界を壊しかけた。
あの“崩壊の記録”が、影として再生されていた。
Noir「……やめろ」
影Noir「見るんだ。お前が何を祈ったのか」
影がNoirに触れた瞬間、
街が音を発した。
低く、重く、沈むような音。
世界が、影の祈音を奏でていた。
〈低く響く声〉「祈りとは、影を照らすこと。」
〈柔らかい声〉「光が生まれるのは、闇があるから。」
Noir「三声……」
Noirの胸の奥に熱が走る。
影と影が重なり、心臓の鼓動が二重に響いた。
——ひとつは怒り、もうひとつは悲しみ。
だがその二つが混ざったとき、音が変わった。
それは“黒い光”だった。
光なのに、闇のように深い。
影の中で、祈音の波が舞い上がる。
(観測記録:No.105)
《記録更新:Noir/祈音構造変調》
《獲得対象:“影祈音の欠片”》
Noir「……これが、俺の音か。」
影Noir「お前は光を求めすぎた。
だから影になった。
でも、影もまた祈ることができる。」
Noir「祈りは罪じゃない。
俺たちは、誰かのために祈ることを選べる。」
影が微笑む。
その輪郭は光に溶け、空へと消えた。
Noirは崩れた塔を見上げ、拳を握る。
「俺は、もう二度と見失わない。」
〈低く響く声〉「お前の影は、再生の器。」
〈透き通る声〉「その祈音は、世界の裂け目を縫う。」
Noirの足元に黒い羽が舞い降りた。
それは影のようでいて、温かい。
指先で触れると、羽は光になり、彼の掌に溶けていった。
(観測記録:No.106)
《記録終了:Noir個別夢界層》
《備考:影祈音安定化/欠片融合開始》
——次観測対象:Luna。
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【対応楽曲】Awakening Illusion(覚醒する幻想)
▶ https://distrokid.com/hyperfollow/illusia/awakening--
この章の物語は、同名楽曲をもとに構築されています。
楽曲を聴くことで、物語の“もうひとつの旋律”を感じられます。
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