第1章_覚醒する幻想_011 Auroraの夢 ― The Song She Forgot ―
(観測記録:No.099)
《記録開始:夢界層・Aurora個別心象域》
《対象:Aurora — 記憶共鳴開始》
——音が、見える。
Auroraの世界は、最初から光ではなく旋律で満たされていた。
一歩進むたび、空気が音を生み、風景が歌になって揺れる。
海の波は和音、鳥の羽ばたきはハープの爪弾き。
すべてが、かつて彼女が奏でた“祈音”で形づくられていた。
Aurora「ここ……懐かしい……」
遠くの丘に、小さな祈音塔の影が見えた。
塔は半分崩れていて、屋根の代わりに光の糸が伸びている。
その足元に、子供の姿。
——もう一人の自分。
少女「ねぇ、どうして歌うの?」
Aurora「え?」
少女「あなたの声、きれい。でも、誰のため?」
Auroraは答えられなかった。
胸の奥が、きゅっと締めつけられる。
昔、誰かの笑顔のために歌っていた気がする。
けれど——その“誰か”の顔が、どうしても思い出せない。
(観測記録:No.100)
《記録補遺:心象干渉波確認》
《対象:祈音塔・構造破損箇所に共鳴反応》
塔の方から、細い旋律が聞こえてきた。
風ではない。塔自身が“記憶”を奏でている。
Auroraは歩き出す。
地面に足をつけるたび、音符が光の粒になって舞い上がる。
空気は柔らかく、けれど冷たい。
音が近づくにつれ、胸の奥に“誰かの名前”が浮かびそうで、消える。
Aurora「……誰かを、呼んでいた。
でも、私の声は——届かなかったんだ」
塔の中は、真っ白だった。
壁も床も、音の粒でできている。
その中央に“壊れたリュート”が落ちていた。
弦が切れ、木は焦げている。
Auroraはそっと手を伸ばした。
指先が触れた瞬間、弦がひとりでに震えた。
音が、空間を満たす。
それは懐かしい旋律だった。
けれど、終わりが来ない。
何度も何度も同じフレーズを繰り返す。
——その旋律は、“最後を知らない歌”だった。
Aurora「終われない歌……これが、私の欠片?」
〈柔らかい声〉「そう。あなたの“止まった時間”」
〈透き通る声〉「祈音は未完のまま、夢に還った」
Aurora「あなたたちは……三声(The Trinities)?」
〈低く響く声〉「答えはまだ、早い」
光が弾けた。
塔の壁が透け、過去と現在が重なる。
舞台のような幻の中で、
幼いAuroraが歌っていた。
——誰かのために。
——誰かを、癒やすために。
けれど、その“誰か”はもういない。
観客席は空っぽで、残っているのは“音”だけ。
Auroraはひとり、舞台に立つ。
「……ねぇ。もし届かないなら、
私はもう一度、世界に歌うよ。」
その瞬間、塔の光がAuroraを包んだ。
壊れたリュートが音を放ち、
割れた弦から“光の糸”が伸びていく。
(観測記録:No.101)
《記録更新:Aurora/心象安定化完了》
《獲得対象:“旋律の欠片”/祈音塔の核心》
光の中で、Auroraは小さな結晶を手にしていた。
それは、心臓の鼓動に合わせて微かに鳴る。
「これが……私の音……」
〈柔らかい声〉「まだ欠けている。だが、それでいい」
〈低く響く声〉「欠けたままの祈りこそ、響きを生む」
Auroraはその言葉を聞きながら、胸に欠片を抱いた。
光が薄れ、風が止む。
夢の世界は静まり返り、彼女の足元だけが輝いていた。
Aurora「……待ってて。二人にも、きっと音があるから」
彼女は振り返り、微笑んだ。
次の瞬間、光が走り、景色が反転する。
足元の床が“水面”になり、Auroraの姿が沈んでいった。
(観測記録:No.102)
《記録終了:Aurora個別夢界層》
《備考:欠片獲得確認/心象域安定》
——次観測対象:Noir。
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【対応楽曲】Awakening Illusion(覚醒する幻想)
▶ https://distrokid.com/hyperfollow/illusia/awakening--
この章の物語は、同名楽曲をもとに構築されています。
楽曲を聴くことで、物語の“もうひとつの旋律”を感じられます。
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