第1章_覚醒する幻想_010 残響の目覚め ― Refrain of Dawn ―
(観測記録:No.095)
《記録開始:AURALIS層・夢界遷移点》
《対象:Aurora/Luna/Noir — 意識再構築開始》
音が消えても、世界は鳴っていた。
祈音の波がゆっくりと薄まり、かわりに柔らかな光が三人を包む。
Lunaが最初に目を開けた。
「……ここ、どこ?」
地平は溶けるように揺れ、空は光の川で満たされていた。
Auroraがその中心に立ち、静かに呟く。
「夢みたい。……でも、目が覚めてる感覚もある」
Noir「夢界層(Mirage-Layer)——祈音が休む場所だ」
風は吹かない。
それでも髪が揺れるのは、世界そのものが呼吸しているからだった。
三人は無言のまま見上げた。
空には、ひとつの巨大な“祈音塔の影”が浮かんでいた。
だがそれは逆さまに——“下”から伸びていた。
Aurora「……あれ、逆さま?」
Luna「塔が……空の中に沈んでる」
Noir「層が反転している。現実の残響が夢界を形づくっている」
Aurora「じゃあ、これは……誰かの夢?」
Noir「いや、世界自身の夢だ」
(観測記録:No.096)
《記録開始:Mirage-Layer/初期安定域》
《対象:祈音反射波/三声干渉痕》
〈柔らかい声〉「——欠けた旋律を探しなさい」
〈低く響く声〉「観測は、夢の奥にも息づく」
〈透き通る声〉「あなたたちはまだ、“覚醒”していない」
三人は同時に顔を上げた。
声は空のどこからでも聞こえ、どこにも存在していなかった。
Aurora「また……あの声だ」
Luna「ねぇ、あの人たちは何者?」
Noir「三声(The Trinities)——層を越えて世界を見ている観測体。
俺たちが“どれだけ見えているか”を確かめている」
Aurora「つまり……テスト中ってこと?」
Noir「そんなところだ」
風がないのに、足元で“音”が走った。
床は鏡のように滑らかで、歩くたびに波紋が広がる。
波紋の中で、Lunaが自分の影を見る。
だが、その影は“遅れて動いていた”。
Luna「これ……私の動きじゃない」
Aurora「影が、記録を取ってるみたい」
Noir「観測の残響だ。夢界では“記憶そのもの”が動く」
Aurora「記憶が動くなら、思い出も生きてるのかな」
Luna「……たぶんね。まだ書かれてないページが、夢の中で綴られてる」
(観測記録:No.097)
《記録開始:夢界層・心象安定域》
《対象:Aurora/Luna/Noir — 記憶共鳴開始》
三人の胸の奥で、同時に音が鳴った。
まるで誰かが遠くで弦を弾いたような、かすかな響き。
Auroraは息をのむ。
「……これ、私の中の音?」
Noir「いや、世界の“記憶”がお前の音を借りて鳴っている」
Luna「つまり、私たちは世界の“夢の登場人物”みたいなもの?」
Noir「それでも、観測は本物だ。
夢もまた、記録のひとつだ」
Auroraが空を見上げる。
そこには、祈音塔の“残響”がゆっくりと形を変えていた。
塔の周囲に、虹のような光の帯が走る。
そして、音が戻った——いや、“別の音”が生まれた。
〈柔らかい声〉「夢は、再生の呼吸」
〈透き通る声〉「あなたたちは、その肺を動かす者」
〈低く響く声〉「欠片を探しなさい——それが次の門を開く」
Aurora「……欠片?」
Luna「祈音のかけら……」
Noir「心の奥にある、“何かを手放した記憶”だ」
Auroraは胸に手を当てる。
指先が微かに熱を帯び、光が漏れる。
「……あった。何かが、私の中で呼んでる」
Noir「それを追え。夢は“見つける者”を待っている」
三人はゆっくりと歩き出した。
足元の波紋が消え、かわりに光の道が浮かび上がる。
道は三方向に分かれ、それぞれに異なる色を放っていた。
Aurora「……まるで、誘われてるみたい」
Luna「分かれるの?」
Noir「夢界は心の層。
それぞれの“記憶”が、別々の形で呼んでいる」
Aurora「でも、また会えるよね?」
Noir「夢は巡る。必ず」
Lunaは静かに頷いた。
三人が互いを見つめ合い、
ひとつの言葉を同時に口にする。
——「祈音に、また会おう。」
三人がそれぞれの光の道へ歩み出した瞬間、
空が音を取り戻した。
その音は、祈りのようで、別れのようでもあった。
(観測記録:No.098)
《記録終了:夢界層・初期遷移安定》
《備考:三者分離確認/次観測地点—個別心象域》
——次なる夢、記録開始を待つ。
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【対応楽曲】Awakening Illusion(覚醒する幻想)
▶ https://distrokid.com/hyperfollow/illusia/awakening--
この章の物語は、同名楽曲をもとに構築されています。
楽曲を聴くことで、物語の“もうひとつの旋律”を感じられます。
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