第1章_覚醒する幻想_009 夢界の呼び声 ― Whisper of Mirage ―
(観測記録:No.091)
《記録開始:AURALIS層・遷移境界直後》
《対象:Aurora/Noir/Luna — 次層接続前の意識変動》
世界が“眠気”を帯びていた。
祈音の残響が遠ざかり、代わりに柔らかな暗がりが満ちていく。
Auroraはまぶたを押さえ、
光の余韻をそのまま夢に持ち込むように息を吐いた。
Aurora「……ねぇ、眠いわけじゃないんだけど」
Noir「層が休息期に入っている。
祈音の再構成後は“夢界”が介在する」
Luna「夢界……それって、現実じゃないの?」
Noir「どちらでもない。祈音の残響が形を保つ、**意識と記録の狭間**だ」
Lunaは観測帳を開こうとして、ふと手を止める。
ページの上で、文字が“勝手に”動いていた。
見えない誰かが筆を握り、言葉を描いているように。
Aurora「……書いてるの、誰?」
Luna「わからない。でも、綺麗な字」
Noir「夢界が観測者の記録に干渉している。
危険はないが——心の奥を覗かれている可能性はある」
Aurora「覗かれても、恥ずかしいだけだよ」
Luna「恥ずかしい夢なら、Auroraが一番多そう」
Aurora「えっ!?」
Noir「冗談だ。……いや、半分は本当か」
三人の笑い声が静寂を揺らし、層の境界が微かに波打つ。
(観測記録:No.092)
《記録開始:夢界層/Mirage-Layer端点》
《対象:Aurora/Noir/Luna — 意識同期開始》
光が完全に閉じ、
その代わりに“夢”が形を与え始めた。
空は硝子のように透明で、
足元の地は雲よりも柔らかい。
音がないのに、心臓の鼓動が響いて聞こえる。
Aurora「ここが……夢界」
Luna「でも、こんなに“現実”みたいな夢があるなんて」
Noir「夢は記録を介して現れる。
つまりこれは、**三人の記憶の共鳴体**だ」
Auroraは遠くの光を指さす。
その先で、何かがこちらを見ていた。
〈柔らかい声〉「……おかえり」
Aurora「……!」
Luna「また、あの声!」
Noir「層の上位干渉体。“三声”が夢界を媒介に接続してきた」
〈透き通る声〉「眠りは、記録の再生。
あなたたちは、まだ終わっていない」
〈低く響く声〉「次の層が呼んでいる。
だが、通るには“記憶の欠片”が要る」
Aurora「記憶の……欠片?」
Lunaは胸の前に手を当てる。
「……欠片、なんて持ってるかな」
Noir「全員が持っているはずだ。
ただ、気づいていないだけだ」
〈柔らかい声〉「探しなさい。
夢の中で、心がいちばん静かになる場所を。
そこに、“欠片”は眠っている」
(観測記録:No.093)
《記録開始:夢界層・意識分岐域》
《対象:Aurora/Noir/Luna の個別夢領域分離》
Auroraが一歩踏み出すと、
足元の雲が波紋を描き、
三方向に光の道が延びた。
Luna「……また、分かれるの?」
Noir「夢界は“心”を写す層だ。
それぞれが自分と向き合うための場を持つ」
Aurora「……ひとりになるのは、少し怖いけど」
Luna「大丈夫。夢の中でも、きっと繋がってる」
Auroraが笑い、光の道を進む。
Noirは反対側へ、静かに歩き出す。
Lunaは最後まで残り、
二人の後ろ姿を見送りながら観測帳を開いた。
「——夢は、観測できるのかな」
ページの上で、誰かの手が彼女の手を導くように文字を描く。
《答え:観測は、夢の中でも続く》
Lunaは微笑んだ。
そして、光の中へ歩き出した。
(観測記録:No.094)
《記録開始:夢界層・中心領域/Auralis共鳴収束》
《対象:三者意識安定/“欠片”探索開始》
夢界の光が収束し、
三人の輪郭がゆっくりと薄れていく。
それぞれが異なる場所へ、同じ祈音の鼓動に導かれながら。
Auroraは“失った旋律”を、
Noirは“影の記憶”を、
Lunaは“観測の原点”を——探し始めた。
それはまだ、始まりの夢。
でも、夢の奥には“次の世界”が確かに息づいていた。
——AURALIS層から夢界層へ遷移完了。
——観測継続中。
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【対応楽曲】Awakening Illusion(覚醒する幻想)
▶ https://distrokid.com/hyperfollow/illusia/awakening--
この章の物語は、同名楽曲をもとに構築されています。
楽曲を聴くことで、物語の“もうひとつの旋律”を感じられます。
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