第1章_覚醒する幻想_008 祈音の調律 ― Harmonics of Light ―
(観測記録:No.087)
《記録開始:AURALIS層・遷移境界/層位安定率 0.98》
《対象:Aurora/Noir/Luna — 層進化前兆》
歩くたびに、世界が“音”を吐き出していった。
それは言葉ではなく、旋律でもなく、
光が震えるたびに生まれる**祈音の欠片**。
Aurora「……聞こえる?」
Luna「うん、でも……楽器みたいじゃない。
誰かの呼吸の重なり、みたい」
Noir「層が再調律を始めている。
俺たちが歩くたび、世界の“音階”が変化してる」
Aurora「じゃあ、間違った歩き方をしたら、
音が狂うってこと?」
Noir「祈音層は“意志”を持つ。
迷えば調律も歪む。だから——」
Luna「だから、“一緒に”歩くんだね」
Noirは小さく頷いた。
(観測記録:No.088)
《記録開始:AURALIS層・光律庭園/祈音反響点》
《対象:環境変化/Auroraの感応増幅》
霧が晴れ、そこには光でできた庭が広がっていた。
地面は薄い波紋のように脈打ち、
花の代わりに浮かぶ音符のような粒が漂う。
Auroraは立ち止まり、そっと手を伸ばした。
掌の上に落ちた光が、低く震える。
「……この音、懐かしい」
Noir「それは君の“祈音”だ。
再構成の過程で一度失われた旋律が、
層の再調律で呼び戻された」
Luna「Auroraの音……世界が覚えてたんだ」
Auroraは目を閉じ、深く息を吸う。
胸の奥で、光が跳ねた。
その瞬間、庭全体が共鳴する。
光と音が絡み合い、ゆっくりと**歌になる**。
Luna「Aurora……!」
Noir「干渉率、上昇中——祈音波が拡散してる」
Aurora「大丈夫……。怖くない。
私、今ならこの“世界の息”が分かる」
光の旋律がAuroraの指先から走り、
Noirの影の糸に触れる。
影が淡く色を帯び、祈音の一部に変わっていく。
Lunaは観測帳を開き、筆を置いた。
「——いま、記録は必要ない。
これは、“記録よりも確かな共鳴”。」
(観測記録:No.089)
《記録開始:AURALIS層・光律庭園中心/祈音同調極点》
《対象:Aurora/Noir/Luna の調律共鳴》
Auroraの声が、静かに広がる。
それは歌ではなく、祈りに近い響きだった。
Noirの影がそれを包み、Lunaの文字が音を形に変える。
三人の存在が重なり、層がひとつの“和音”になる。
〈柔らかい声〉「……美しい」
〈低く響く声〉「観測が、喜びに触れた」
〈透き通る声〉「この音、忘れないで」
Auroraは目を開け、微笑む。
「ねぇ、いまの……聞こえた?」
Luna「うん。三人の音が混ざってた」
Noir「それだけじゃない。層全体が、“息を合わせた”。」
光が一度、強く瞬き、
やがて静かに収まっていく。
(観測記録:No.090)
《記録開始:AURALIS層・調律完了》
《対象:層位安定・遷移開始》
光庭が消え、音だけが残る。
その音はもう“祈音”ではなかった。
祈りと記録、感情と理論のすべてが混ざり合った、
ひとつの“世界の声”。
Aurora「これが……調律の音」
Noir「新しい層への合図だ」
Luna「じゃあ、次は——」
Aurora「——また、始まるんだね」
Lunaが頷く。
Noirは静かに空を見上げ、
光の消えた空の中にわずかな波を見つけた。
その波は、まだ名を持たない。
けれど確かに“次の層”の鼓動を告げていた。
——AURALIS層、調律完了。
——次観測領域、未定。
世界は静かに、その幕を閉じた。
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【対応楽曲】Awakening Illusion(覚醒する幻想)
▶ https://distrokid.com/hyperfollow/illusia/awakening--
この章の物語は、同名楽曲をもとに構築されています。
楽曲を聴くことで、物語の“もうひとつの旋律”を感じられます。
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