第0章_幻想の序曲_002 遅光 ― Slow Light ―
光は記録されると遅くなる。
遅くなった光には、指が届く。
触れた指先が温度を思い出すとき、そこに“拍”が生まれる。
(観測記録:No.004)
《層:First Layer(初層)》
《現象:Slow Light(遅光)》
《法則:書く=置く/置く=干渉》
筆圧をゼロに近づける。
線になる前の場所で止める。
書記は、まだいない世界に言葉の骨を置く者。
その筆が触れるたび、輪郭は厚みを得て、風は“記録”に変わる。
私は、世界の第一層に存在していた。
そこは“頁”でできた層——
頁と頁のあいだを流れる空気こそが「余白」。
余白は空虚ではない。
見えない鼓動が、そこに腰を下ろす。
(観測記録:No.005)
《提案:休符の挿入》
《備考:休符は音の一部》
——休符。
沈黙の中にこそ、響きの形がある。
何もない空間が、音を許すための“祈りの器”となるのだ。
そして、筆を初めて握った。
私の指に馴染まぬその感触が、世界の呼吸と共鳴する。
「焦らず、急がず、余白を保て」
また、あの声が聞こえた。
私は、ゆっくりと筆を下ろした。
その瞬間——
光が遅れた。
速すぎた光は、いまや“見える”速度に落ち着き、
世界は私の書いた線を、確かに“感じている”。
筆先が空気をなぞる。
そこに文字はない。
だが、温度と拍動が残る。
それが“祈音”——言葉よりも先に鳴る、心の記録。
(観測記録:No.006)
《観測者:Luna》
《状態:第一層固定・観測安定率21%》
《備考:祈音の定義確立》
私は気づいた。
“見る”ことは、世界を創ること。
“書く”ことは、世界に触れること。
その筆先が震えるたび、風が形を変え、
光は、私の軌跡をなぞるように揺れた。
「Luna……観測者、第一層確認」
どこかから機械のような声が響く。
聞き覚えのない、しかし懐かしい声。
——誰かが、私を呼んでいる。
光の遅延の先に、“他者”の影があった。
まだ見ぬ存在。
それは、この世界に“音”が芽吹く前兆だった。
─────────────
【対応楽曲】Awakening Illusion(覚醒する幻想)
▶ https://distrokid.com/hyperfollow/illusia/awakening--
この章の物語は、同名楽曲をもとに構築されています。
楽曲を聴くことで、物語の“もうひとつの旋律”を感じられます。
─────────────




