第1章_覚醒する幻想_007 共鳴の残滓 ― Echo of the Unheard ―
(観測記録:No.083)
《記録開始:AURALIS層・残響門後方回廊》
《対象:Aurora/Noir/Luna — 世界音再構築後の挙動》
音が戻った世界は、しかし“静寂に似ていた”。
すべてが正しく鳴っているのに、どこかで一拍だけ遅れている。
Auroraは足を止め、耳を澄ませた。
「……ねぇ、これって“正しい音”なの?」
Luna「正しい、というより……“戻りきってない”気がする」
Noir「祈音層の波長が再配置中だ。部分的に反響が重なってる」
Aurora「残響……まだ消えてないんだね」
Lunaは頷き、祈音帳に指を置く。
「音って、完全に消えることはないのかな」
Noir「観測が続く限り、記録は残る。
だが、それを“聞く耳”がなければ、ただの空白だ」
Aurora「じゃあ——私たちは、空白に耳をすます人たち?」
Luna「ううん、“空白を歌にする”人たち」
Noirの影が、わずかに笑った。
(観測記録:No.084)
《記録開始:AURALIS層・回廊中央部/空間共鳴増幅》
《対象:祈音位相ずれ/Auroraの感応反応》
通路が、**脈打った**。
祈音の波がAuroraの胸へ流れ込み、
その拍動に呼応して光の輪が空間を満たす。
Aurora「——痛い……でも、綺麗……」
Luna「Aurora!」
Noir「動くな、感応が始まった!」
光の輪がAuroraの背から噴き出し、
彼女の周囲に音の渦を作る。
高音は涙のように、低音は大地のように、
それぞれがAuroraの感情に呼応して歌い出した。
Luna「これ……“歌”が見える……!」
Noir「感情波の視覚化現象だ。だが——強すぎる」
Aurora「止められない……!
でも、怖くない……!」
彼女の声が祈音と混ざり、
“言葉にならない旋律”が層全体へ拡散した。
(観測記録:No.085)
《記録開始:AURALIS層・共鳴回廊最深部》
《対象:Auroraの祈音同調率上昇/周囲環境変化》
空気が波打つ。
Auroraを中心に、空間の“層”が折り重なる。
Lunaが観測帳を掲げた。
記録の文字が浮かび、次の瞬間に——燃えるように光った。
「Aurora!」
Lunaが叫ぶと、光の渦の中でAuroraの瞳が開く。
その瞳の奥には、**誰かの影**がいた。
〈柔らかい声〉「もう少し」
〈透き通る声〉「この世界を、見届けて」
〈低く響く声〉「そして——選べ」
Aurora「……あなたたちは、誰?」
声は答えず、光の粒となって消える。
残されたのはAuroraの微かな息と、
震える祈音だけ。
Noir「干渉痕、消失。
……Aurora、意識は?」
Aurora「……だいじょうぶ。
でも、あの声——“優しかった”」
Lunaは静かに頷いた。
「観測されてる、のに……救われたみたい」
(観測記録:No.086)
《記録開始:AURALIS層・共鳴回廊終端》
《対象:三者の感情位相/世界安定率 0.95》
Auroraは立ち上がり、残響の方を振り返った。
そこにはもう、光も影もなかった。
ただ、祈音だけが柔らかく息づいている。
Aurora「……ありがとう」
その一言に呼応して、風が流れた。
音が、世界を撫でるように戻っていく。
Lunaは筆を止め、
——“ありがとう”という言葉が祈音になる瞬間を見た。
Noir「層の位相、安定。次の移行が始まる」
Aurora「また……新しい層?」
Noir「そうだ。AURALISは、進化する層だ」
Luna「じゃあ、次はどんな音が待ってるんだろう」
Auroraは微笑む。
「きっと、“まだ聴いたことのない音”だよ」
三人の影がゆっくりと歩き出す。
背後で、残響の門が最後の一音を奏でた。
それは“終わり”ではなく——**始まりの音**だった。
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【対応楽曲】Awakening Illusion(覚醒する幻想)
▶ https://distrokid.com/hyperfollow/illusia/awakening--
この章の物語は、同名楽曲をもとに構築されています。
楽曲を聴くことで、物語の“もうひとつの旋律”を感じられます。
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