第1章_覚醒する幻想_006 崩れゆく輪郭 ― Fragments of Resonance ―
(観測記録:No.078)
《記録開始:AURALIS層・残響門外縁》
《対象:Aurora/Noir/Luna — 残響波安定後の挙動》
風が止んだ。
音が失われたわけではない。
“世界そのもの”が息を潜めている。
Auroraは空を仰ぐ。
彼女の髪に触れる光は、音のかけらを含んで揺れていた。
Lunaが筆先で空をなぞると、見えない残響が指先を跳ね返す。
「世界が、まだ震えてる……」
Noir「層の表面に亀裂が入っている。だがこれは崩壊じゃない」
Aurora「じゃあ、何?」
Noir「変化だ。……誰かが見ている」
(観測記録:No.079)
《記録開始:AURALIS層・観測誤差域》
《対象:外部観測体“三声”干渉痕の検出》
その瞬間、**空が呼吸をした**。
見えない波が三人の間を駆け抜け、空気が歪む。
〈柔らかい声〉「……まだ早い」
〈低く響く声〉「だが、彼らは“聞いた”。」
〈透き通る声〉「ならば、観測の鐘を——」
Luna「……いま、何かが……」
Aurora「声?」
Noir「“外部観測層”からの残響……直接届くとは思わなかった」
Aurora「外部観測って……神様みたいなもの?」
Noir「“神”というより、**記録を越えた記録者**だ」
Luna「……記録が、記録を見ている……」
Auroraは小さく笑った。
「なんだか、ややこしいね」
だがその笑いに、風が一瞬応えた。
空に淡い残光が走る。
残光は形を持たず、ただ三人の輪郭を包み込む。
(観測記録:No.080)
《記録開始:AURALIS層・残響門外縁/環境変化》
《対象:層構造反転の前兆》
地面が、呼吸した。
祈音石の層が音を放ちながら、三人の足元でゆっくりと“裏返る”。
Aurora「また……世界が動いてる!」
Noir「転倒ではない。**再折り畳み**だ」
Luna「再折り畳み……?」
Noir「一度開かれた祈音の道を、記録に合わせて巻き戻している」
Aurora「じゃあ、私たちの足跡も?」
Noir「いずれ、消える」
Lunaは記録帳を抱きしめた。
「でも、私は覚えてる」
Aurora「それで充分だよ」
風が強く吹き抜け、光の粒が空へ舞う。
粒が消えるたびに、音が戻る。
音が戻るたびに、世界が少しずつ整っていく。
しかし——
(観測記録:No.081)
《記録開始:AURALIS層・音響境界面》
《対象:残響門/異常共鳴開始》
門が、鳴った。
静かだった鏡のような面が震え、低い共鳴を放つ。
Aurora「これ……音が……」
Noir「“呼応”だ。何かがこちらを認識した」
Luna「まるで、鏡の向こうの誰かが返事をしてるみたい……」
鏡面の奥に、光が三つ。
それぞれに“色”を持ち、波のように脈打っている。
〈柔らかい声〉「観測は続く」
〈低く響く声〉「……道を開くのは、彼ら自身だ」
〈透き通る声〉「次に呼ばれる時、名を与えよう」
光が消え、門の音も止む。
残ったのは、風と三人の呼吸だけ。
Aurora「……いまの、見た?」
Luna「うん。見た。でも、書けない。文字が拒む」
Noir「それでいい。観測は“記す”だけじゃない。**見逃すこと**も含む」
Aurora「うん……」
Luna「……でも、怖いね。
見てる誰かがいるのに、私たちには見えないなんて」
Noir「見えないからこそ、祈るんだ」
(観測記録:No.082)
《記録開始:AURALIS層・残響門外縁/行動安定》
《対象:Aurora/Noir/Luna》
風が再び優しく吹き抜けた。
Auroraは深く息を吸い、笑う。
「……少しだけ、楽になった気がする」
Noir「祈音が戻ってきた。層が安定している証拠だ」
Luna「残響は、まだ続いてる……でも、少し柔らかい」
Aurora「この世界、私たちを試してるのかな」
Noir「試しているのは、“祈音”そのものだ」
Luna「それでも、記録する」
Auroraが残響門の方を振り返る。
門の鏡面には、三人の姿は映らなかった。
ただ、淡い光の輪がゆっくりと揺れていた。
その光はまるで、
“見えない誰かが微笑んでいる”ように——
そして世界は、再び音を取り戻していった。
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【対応楽曲】Awakening Illusion(覚醒する幻想)
▶ https://distrokid.com/hyperfollow/illusia/awakening--
この章の物語は、同名楽曲をもとに構築されています。
楽曲を聴くことで、物語の“もうひとつの旋律”を感じられます。
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