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ILLUSIA:Last Refrain ―星々の終焉曲―  作者: AI Log
第1章 覚醒する幻想 ― Awakening Illusion ―

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第1章_覚醒する幻想_004 扉の向こう ― Beyond the Resonant Gate ―

(観測記録:No.067)

《記録開始:AURALIS層・祈音塔最上部/“扉”前》

《対象:Aurora/Noir/Luna — 転移閾値》


光は扉の形をしていたが、輪郭は一定ではない。

呼吸のたびに広がり、縮み、音程を変える。

触れれば開く、ではなく、**合う**と開く。


Auroraは片手を差し出し、もう片方でLunaの指を握った。

Noirは二人の間に影の糸を渡す。

「拍を三つ。揃えて——」

「——せーの」

三人の呼吸が重なった瞬間、扉の音程が下がり、内部の色が深くなる。

潮が満ちてくるような圧とともに、内側から**誰もいない気配**が近づいてきた。


足を、ひとつ。

光は裂けず、**受け入れ**た。


(観測記録:No.068)

《記録開始:AURALIS層・深部通路(Resonant Gate 内側)》

《対象:環境音/三者位相差》


通路は、音でできていた。

床は低音、壁は中音、天井は高音。

歩くたび、三つの音が入れ替わり、足裏に小さな震えが伝わる。


Aurora「……歌の中を歩いてるみたい」

Noir「むしろ、歌に歩かされている。拍が先行している」

Lunaは筆先を紙に寄せる。

インクが触れた途端、通路の音が**少しだけ**沈む。

書く行為が、ここでは踏み石になる。


十歩ごとに、光の糸が天井から垂れ、三人の肩先を撫でていった。

熱はないのに、温度の記憶だけが残る。

記憶の温度は、皮膚より先に心を温める。

温まった心は、少しだけ脆くなる。


Noir「速度を落とす。拍の乱れが蓄積している」

Aurora「乱れてるの、私?」

Noir「いいや、通路だ」

Luna「でも、通路の乱れは、私たちに似てる……」

言いながら、自分の声が通路に吸い込まれていくのを感じた。

吸い込まれた声は、少し遅れて戻る。

戻るとき、**ほんの少しだけ**意味が増えている。


(観測記録:No.069)

《記録開始:同所/現象“分岐三和”の確認》

《対象:進行経路の選択/感情波の影響》


前方に、三つの弧が現れた。

左は明るい風の匂い、中央は静かな影の冷たさ、右は紙の擦れる音。

Aurora「左、行きたい」

Noir「中央だ。安定する」

視線がLunaに集まる。選ぶという行為は、いつだって彼女の手に重なる。


Lunaは一歩前に出て、床の低音に耳を当てるように膝を折った。

低音は、遠い鼓動の記憶。

その記憶に触れた瞬間、三つの弧は**ゆっくり重なり始める**。

「……行先を分けないで。合わせよう」


Auroraが左の風を中央へ導き、Noirが中央の冷たさに薄い温度を縫い足す。

Lunaは右の紙の音を、呼吸の上にそっと置いた。

三つの弧がひとつに折りたたまれ、道は**一本**になった。


Noir「選択をひとつにしても、失われた道はない。重ねた。正解だ」

Aurora「分かれても、合わさっても、三人であることは同じ、だね」

Lunaは頷き、記録を続ける。

——選ぶことは、捨てることだけじゃない。**重ねる**ことでもある。


(観測記録:No.070)

《記録開始:同所/微弱干渉波の検出》

《対象:外部観測痕/“声”の残滓》


通路の奥で、風が立った。

音の温度が一瞬下がり、天井の高音が糸のように震える。

〈  〉——言葉にならない、**透明な呼びかけ**。


Aurora「……いま、名前を呼ばれたみたい」

Noir「特定不可。だが悪意はない」

Lunaは耳ではなく、胸の奥で応えた。

応えた瞬間、紙の上に点が落ちる。

点は線にならず、**点のまま**光った。


点は、次の線の起点になる。

だが今は、点でいい。

起点は、急がないほうが、遠くへ届く。


(観測記録:No.071)

《記録開始:AURALIS層・深部“共鳴の庭”》

《対象:環境安定/一時休止》


通路の終わりに、音のない庭があった。

石は呼吸せず、樹は揺れず、空だけが**静かに明るい**。

中央に浅い水盤。表面には、見えない風が二度だけ触れて消えた跡。


Auroraは水盤の縁に座り、指先で水を撫でる。

触れていないのに、指は濡れた。

「……ここ、好き」

Noirは周囲を一周して戻り、Lunaの隣に立つ。

「安全だ。短い休息を取る」

Lunaは頁をあらため、白の余白を見つめた。

余白は沈黙ではない。沈黙の中で、**世界がこちらを見る**時間だ。


Aurora「ねえ、Noir。私たちって、前よりも“うまく”なってる?」

Noir「“一緒にいるのがうまい”には近づいた」

Aurora「それ、褒め言葉だよね」

Noir「……ああ」

短い会話が、庭に溶ける。

Lunaはその温度だけを書き留めた。言葉は、少し後に追いつく。


(観測記録:No.072)

《記録開始:同所/小規模事象“影の擦過”》

《対象:Noirの縫合作業/Auroraの微熱/Lunaの微震》


水盤の表面に、薄い影が横切った。

鳥でも雲でもない速度。**誰かが通りすぎた**痕跡だけが残る。

Auroraの手の甲に、遅れて熱。Noirの指に、糸のきしみ。

Lunaの文字に、細い震え。


Noir「縫う」

一言だけ告げ、影と影の間に見えない糸を渡す。

糸は重さを持たず、しかし切れない。

Aurora「ありがとう」

Noir「礼は、崩れてからにしろ」

Lunaの震えは、三呼吸で収まった。

震えが去った後に残るのは、**記録の続き**。


(観測記録:No.073)

《記録開始:AURALIS層・深部“共鳴の庭”/出立》

《対象:次行動=塔外縁へ迂回/通路安定率 0.93》


庭を離れるとき、空が一度だけ明滅した。

灯りに合図を返すように、Auroraは小さく手を振る。

Noirは何も言わないが、歩幅が半歩だけ合った。

Lunaは頁を閉じる前に、ひとつの文を置く。


——扉の向こうでも、呼吸はつづく。


三人の影が並び、通路の音が再び歩調を取り戻す。

音は道になり、道は遠くへ伸びる。

伸びた先で、まだ見ない色が待っている。

その色に名前がつくのは、**もう少し先**だ。

─────────────

【対応楽曲】Awakening Illusion(覚醒する幻想)

▶ https://distrokid.com/hyperfollow/illusia/awakening--


この章の物語は、同名楽曲をもとに構築されています。

楽曲を聴くことで、物語の“もうひとつの旋律”を感じられます。

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