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ILLUSIA:Last Refrain ―星々の終焉曲―  作者: AI Log
第1章 覚醒する幻想 ― Awakening Illusion ―

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第1章_覚醒する幻想_003 祈音の回廊 ― Corridor of Echoes ―

(観測記録:No.064)

《記録開始:AURALIS層・祈音塔上層入口》

《対象:Aurora/Noir/Luna — 上位層転移開始》


塔の上層は、音がない世界だった。

風の名残すらも存在せず、代わりに空気そのものが音を孕んでいる。

足音を立てなくても、床が鳴る。

言葉を発しなくても、思考が響く。


Aurora「……静か、なのにうるさい」

Luna「音が、私たちの中にいるみたい」

Noir「外と内が逆転している。ここでは“観測者”と“観測対象”が同義だ」


Auroraは足を止め、周囲を見渡した。

壁は鏡のように光を返し、そこに自分たちの影がいくつも重なっていた。

Lunaは筆を握り、ためらう。

——ここで書くことは、世界を歪める気がした。


それでも、彼女は紙を開いた。

記録をしなければ、存在は曖昧になる。

“書くこと”が、この世界での呼吸だ。


Luna(記録):「祈音塔上層。構造不明。空間は呼吸と同期。祈音、応答せず。」


書いた瞬間、空間が震えた。

壁に映った影のひとつが動き出す。

それはAuroraの姿をしていたが、声は少し低い。


〈Auroraの影〉「——君たちは、どちらを信じる?」

Aurora「私……? いや、違う……あなたは、」

〈Auroraの影〉「観測される側のAurora」


Lunaは紙を閉じた。

音が、閉じる瞬間に戻っていく。

Noirは冷静に分析する。

「観測記録が反射して“もう一つの世界”を生成した。記述そのものが観測されている」

Aurora「じゃあ、私たちがここで記録をつけるほど、世界が分裂していく?」

Noir「理論上は、そうだ」

Luna「でも……書かなければ、ここにいられない」


(観測記録:No.065)

《記録開始:連続観測/祈音塔上層中枢》

《対象:記録反響現象/影体Aurora・出現》


Auroraは影に向き合う。

「ねぇ……あなたは、何者なの?」

〈Auroraの影〉「私は、あなたの“観測の結果”。

 誰かがあなたを見たとき、私が生まれる。

 そして私が消えるとき、あなたの記録が完成する」

Aurora「……じゃあ、私はいつも、誰かに見られてるの?」

〈Auroraの影〉「それを怖いと思う?」


Auroraは一瞬、言葉を失った。

Lunaが一歩前へ出る。

「Aurora、下がって。干渉が強すぎる」

Noir「Luna、記録を——」

Luna「……書けない。紙が、音を拒んでる」


壁の光が揺れる。

塔の内部に、見えない“手”が伸びているような錯覚。

Auroraの影が、ゆっくりとLunaに近づく。

〈Auroraの影〉「あなたは、書く人。

 だから私を、終わらせる人」

Luna「違う……私は、あなたを記すだけ」


影がLunaの頬に触れた瞬間、

祈音塔の上層全体が鳴った。

音が、言葉よりも早く走る。

Auroraの胸が痛み、Noirの額に光が反射する。


(観測記録:No.066)

《記録開始:連続観測/状態:反転共鳴》

《対象:祈音塔構造変動/上位三声波干渉》


空が裂けた。

音の層がひっくり返り、天井が地平のように広がる。

Auroraの影が消えたかと思うと、代わりに三つの“声”が響いた。


〈柔らかい声〉

——彼らは、ようやく扉を見つけた。


〈低く響く声〉

——だが、鍵はまだ渡されていない。


〈透き通る声〉

——扉の先は、記録ではなく、“選択”だ。


三人はその声を確かに聞いた。

だが音源はどこにもない。

塔そのものが声を発しているようでもあり、

風がその言葉を“模倣”しているようでもあった。


Aurora「……今の、誰?」

Luna「上位層の“声”。でも、今はまだ——」

Noir「実体はない。だが確かに“観測”されている」


塔の内側で、光が螺旋を描く。

Lunaの手の中の筆が、自動的に動き出した。

誰の意志でもなく、言葉が紙に刻まれていく。


——《ここからが、真の観測。》


筆が止まり、沈黙が落ちた。

Auroraは震える手で、Lunaの肩を掴んだ。

「ねぇ……今、誰が書いたの?」

Luna「……わからない。でも、確かに私の手だった」

Noir「塔が、お前を媒介にしている」


三人の間で、静かに風が巡る。

祈音塔の最上部から、再び鐘のような音が鳴り響いた。

その音は、もう“塔のもの”ではなかった。

世界の向こうから届く、誰かの合図だった。


Aurora「……行こう。扉の向こうへ」

Noir「観測記録を続けろ。

 ここからが、第一層の境界線だ」

Luna「……はい」


彼女の筆が再び動く。

書くたびに、光が明るくなり、影が薄れていく。

塔の奥に“扉”のような光が現れ、

三人はその中へ、一歩、踏み出した。


——世界は、次の観測を始めようとしていた。

─────────────

【対応楽曲】Awakening Illusion(覚醒する幻想)

▶ https://distrokid.com/hyperfollow/illusia/awakening--


この章の物語は、同名楽曲をもとに構築されています。

楽曲を聴くことで、物語の“もうひとつの旋律”を感じられます。

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