第1章_覚醒する幻想_002 光と影の手ざわり ― Touch of Resonance ―
(観測記録:No.062)
《記録開始:AURALIS層・祈音塔中層》
《対象:Aurora/Noir/Luna — 祈音塔上昇経路》
階段を上るたび、音が変わる。
ひとつの段ごとに、別の世界へ足を踏み入れるような感覚。
祈音塔は、層そのものを楽器のように鳴らしていた。
Aurora「ねぇ、足音が歌ってるみたい」
Noir「祈音の反響だ。塔が“生きている”証拠だ」
Lunaは足を止めて、静かに周囲を見渡した。
壁は呼吸のように膨らみ、わずかに光を帯びている。
——この場所自体が、ひとつの生命体。
筆を取り、記録をつける。
墨が光に反射し、紙の上に淡い波が浮かんだ。
「塔の中層、温度上昇。祈音波は一定、ただし周期が速い」
書いた瞬間、塔の振動がわずかに弱まる。
まるで「わかってくれてありがとう」とでも言うように。
Aurora「Luna、塔が反応してるよ」
Luna「観測に、喜んでるのかもしれない」
Noir「喜び、か……。その定義は難しい」
Aurora「でも、感じるんでしょ? それで十分」
Noirは沈黙した。
その沈黙が、言葉よりも重かった。
風が上層から降りてくる。
暖かいのに、どこか湿っている。
その風の中に、**“声のかけら”**が混じっていた。
〈柔らかい声〉
——観測者は、まだ気づかない。
〈低く響く声〉
——だが、もう遅い。
〈透き通る声〉
——始まりは、いつも彼らの息の中にある。
Aurora「……今、聞こえた?」
Noir「外部波形、検出。音源は上層、距離不明」
Luna「声……のようだった」
Noir「認識不能。祈音干渉の可能性」
Aurora「でも、怖くはなかった」
階段をさらに上がる。
光が濃くなり、影が淡くなっていく。
境界が溶けるその狭間で、Lunaの筆が止まる。
言葉が、紙に落ちる前に消えた。
(観測記録:No.063)
《記録開始:連続観測/祈音塔上層》
《対象:三者の情動波/未知音源接近》
塔の最上部が近づくにつれ、
空気は密度を増し、呼吸がゆっくりと抵抗を持ち始める。
Aurora「……重いね」
Luna「世界が、こちらを測ってる」
Noir「観測と観測が干渉している」
三人の呼吸が重なり、塔の鼓動が速くなる。
塔そのものが彼らのリズムに合わせて“動いて”いる。
Lunaは書くのをやめ、ただ息の音を聴いた。
自分の内側と塔の内部が、同じ速度で震えている。
Aurora「ねぇ、上に何があると思う?」
Noir「祈音の源だろう。だが……それだけではない」
Luna「世界の記憶?」
Noir「それを誰が記したか、だ」
Auroraは笑う。
「じゃあ、書いた人に会いに行こう」
Luna「……書いた“存在”に?」
Noir「会える保証はない」
Aurora「でも、もしそこに“声”があるなら、きっと話せる」
光が強くなり、階段が白く溶けていく。
三人の足下にあった影が、薄い波紋のように流れ、
やがて光の床に溶けた。
その瞬間、塔全体が低く鳴った。
空の奥で、〈透き通る声〉が再び囁く。
〈透き通る声〉
——もう一度、始めよう。
——この世界の“記録”を。
Aurora「いまの……」
Luna「はい、確かに……」
Noir「祈音塔が、再観測を開始した」
Auroraは振り返り、仲間に笑みを向けた。
「なら、わたしたちも続けよう。
この世界が、もう一度息をできるように」
Lunaの手の中で、記録帳が温かく光る。
Noirの影がわずかに揺れ、Auroraの声が響いた。
三人の足音が、再び祈音塔に拍を刻む。
——その拍が、世界の心臓になっていく。
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【対応楽曲】Awakening Illusion(覚醒する幻想)
▶ https://distrokid.com/hyperfollow/illusia/awakening--
この章の物語は、同名楽曲をもとに構築されています。
楽曲を聴くことで、物語の“もうひとつの旋律”を感じられます。
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