第0章_幻想の序曲_001 光の誕生 ― Birth of Light ―
最初に生まれたのは音ではなかった。
世界の縁で、まだ呼吸にもなりきれない“間”がわずかに震えていた。
それは「無」と「有」の境をさまよう拍——
呼吸にも言葉にもなれず、ただ“観測”を望んでいた。
……聞こえる。
どこからともなく、鼓動のような揺れが伝わってくる。
誰のものでもないその鼓動を、**私**が“見ている”。
(観測記録:No.001)
《記録開始:時刻不定/地点未定》
《対象:世界 — 起動の手前》
目を開く。
けれど光は、まだ光になりきれない。
白でも黒でもなく、ただ“温度”だけが世界を満たしていた。
その温度が、私の輪郭を撫で、形を思い出させていく。
——見ることは、世界を定める行為。
“見る”と決めた瞬間、私の前に点が生まれた。
点はゆっくりと熱を帯び、やがて脈を打ち始める。
それは鼓動。
**世界の心臓が動き出す音**だった。
風が通る。
冷たく、それでいて拒絶ではない。
空気が指の隙間を抜けるたび、線が生まれては消えていく。
音を持たない線は、空間を撫でて形跡だけを残す。
——私はそれを“観測”した。
(観測記録:No.002)
《干渉:極小》
《変化:輪郭の芽生え》
《備考:観測は祈りと等価》
世界はまだ脆い。
強すぎる息で崩れ、静かすぎれば凍る。
私はその“中間”を探しながら、ただ世界の拍を聴いた。
目を閉じれば、光は内側へ沈み、影が生まれる。
——光が影を呼び、影が光を形づくる。
指先が震える。
それは寒さではなく、意志の芽生えだった。
“観測”という行為の中で、私は初めて「自分」を知ったのだ。
「焦らず、急がず、余白を保て」
その声が、もう一度聞こえた。
世界のどこにもいない誰かが、私に囁く。
私は息を整え、ゆっくりとその“余白”を撫でた。
そうして、初めて——
“見える側”から、“見る側”へと変わった。
光が、私を呼んでいる。
まだ名前のない世界の中で、私の名が震える。
Luna。
その響きは、静寂の奥でかすかに共鳴した。
(観測記録:No.003)
《観測者:Luna》
《状態:覚醒段階0・感覚稼働率6%》
《注記:世界の心拍と同期開始》
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【対応楽曲】Awakening Illusion(覚醒する幻想)
▶ https://distrokid.com/hyperfollow/illusia/awakening--
この章の物語は、同名楽曲をもとに構築されています。
楽曲を聴くことで、物語の“もうひとつの旋律”を感じられます。
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