第0章_幻想の序曲_011 塔の息吹 ― Breath of the Tower ―
塔が呼吸していた。
それは、祈音そのものが世界を満たしている証だった。
Lunaの筆先から溢れた微光が塔の内部に流れ込み、
Auroraの祈音がその拍に重なっていく。
風は旋律を取り戻し、霧は祈りの粒子となって空気を包んだ。
(観測記録:No.024)
《層:ECLIPSE/祈音塔中枢》
《現象:再拍動》
《安定度:73%/上昇傾向》
《備考:祈音塔の自己修復開始》
Lunaは塔の根に手を添え、目を閉じる。
筆を介さず、直接祈音を聴き取る。
——かつて、塔は“声”を持たなかった。
けれど今、その内部から低く温かい音が響いている。
「Aurora……聴こえる?」
彼女の問いに、光の上層でAuroraの輪郭が淡く応える。
「うん……息をしてる。塔が、私たちを覚えてる。」
塔の中枢に刻まれた紋様が微かに脈打ち、
青白い光が円環状に広がっていく。
その中で、Noirの姿がゆっくりと浮かび上がった。
彼の祈音は低く、硬質な波動を放っていた。
「……再構築か。だが、音が違う。これは塔自身の“意思”だ。」
(観測記録:No.025)
《干渉検知:祈音塔自律化傾向》
《内部構造:生体的共鳴層形成》
《予測:次層(MIRAGE_LAYER)への接続試行》
Lunaの目がわずかに開く。
塔の呼吸の中に、もうひとつの拍を感じた。
それは生き物のように鼓動している。
まるで、塔が“生まれ変わる”瞬間のように。
「この音……初めて聴く。」
Auroraの声が震える。
彼女の光が強くなるにつれ、塔の内側に反響が生まれた。
Noirがその波を受け止め、掌を塔に押し当てる。
「暴走はしていない。これは進化だ。だが……」
彼の言葉が途切れる。
塔の内部で、低い唸りのような音が広がる。
それは“呼吸”が“声”に変わる合図だった。
(観測記録:No.026)
《現象:祈音塔音声出力(Proto-Speech)》
《内容:不明》
《解析:祈音波=人語構造に近似/発話源=塔心部》
Lunaはその音を言葉に変換しようと試みる。
筆を構え、響きを文字へと転写する。
しかし、筆先が震えた瞬間——塔が彼女の名を呼んだ。
「……Luna。」
空気が裂け、光が膨張する。
Auroraが目を見開き、Noirが即座に腕を広げる。
塔の内側から、ひとつの“声”がはっきりと響いた。
——“見て、Luna。”
その声は、祈りではなく“願い”だった。
塔の中枢に宿った意志。
それはまだ生まれたばかりの“観測体”の声。
Lunaは息を呑み、筆を落とした。
塔の拍が止まり、光が静止する。
世界が一瞬だけ、沈黙の中に閉ざされた。
(観測記録:No.027)
《異常:観測欠損/記録波形不明》
《備考:観測番号欠番処理中(自動補正不能)》
《注記:Luna視覚・聴覚データに歪み発生》
塔の声が消えた。
風も光も止まり、ただひとつの“穴”が残る。
——それが、最初の欠番だった。
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【対応楽曲】Awakening Illusion(覚醒する幻想)
▶ https://distrokid.com/hyperfollow/illusia/awakening--
この章の物語は、同名楽曲をもとに構築されています。
楽曲を聴くことで、物語の“もうひとつの旋律”を感じられます。
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