五章
――朝がくるのが楽しみになった。
今まで怯えていたことが、今は何もない。
恐怖と不安と罪悪感……ずっと心を蝕んできた筈のそれは、いつしか氷のように溶けて消えていた。
それは他でもない、彼と出逢ってから自分の中で育まれた確かな変化だった――。
いつものように、スプレーで髪を黒く染めることはしなくなった。コンタクトケースを洗面台の縁に置き、度の入っていない眼鏡も置いた。金糸のような髪に翠色の瞳を持つ少年が一人、鏡の前に佇んでいた。
「……少し遅めの、高校生デビューかな」
週が明けた今日、初めてこの姿で学校へと赴く。
生まれ持った容姿についての事情は入学時に両親から話を通していたから、東先生からの理解はとうに得ていた。ただ、自分自身が歩み出すことができなかっただけで……。
緊張はしている。けれど俺の本当の“色”が好きだと肯定してくれたヒトがいる。愛しくて、大切な想い人がいる。そのヒトが共にいてくれるだけで、どんなことにも負けないで突き進めるような気がした。
ピロン……!
その時、スマホから軽快な着信音が響いた。
パッとスマホを見ると、そこには想い人の名前があった。
『真琴、家の前に着いたぜ』
『今すぐ出る……!』
それだけ打ち返すと、最後に身だしなみを確認してから鞄を持って外に出た。
「おはよ、真琴」
すぐ家の前に、忍くんが立っていた。
「おはよう、忍くん」
鍵をかけてから駆け寄ると、俺の姿を見た忍くんは嬉しそうに微笑むと言葉を紡いだ。
「真琴、隠すことやめにしたんだな。――うん、やっぱりその“色”のほうがいいよ。真琴は魅力的だもの」
「今まで自信がなかったけど……ようやく決心がついたから。それもこれも全部、忍くんのお陰だよ」
自分の姿を偽ることなく、在るが儘の姿を晒すこと。
誰かの目や物差しを気にすること。
そんなことは無意味なことだと、忍くんは気付かせてくれた。
「……みんな、驚く、よね?」
「いいんじゃん? 驚かせとけば。東センセも説明はしてくれるだろうし、いざとなったらオレが守ってやるよ」
「頼もしいなぁ。やっぱり忍くんは俺にとって“薔薇の王子様”だなぁ」
「……ッ! その“王子様”ってのやめろよ。気恥ずかしい」
「えー? 俺からしたら似合ってて格好いいって意味なのに」
珍しく照れている忍くんをからかうように弄りながらも、一緒に登校する。学校が近づくにつれ行き交う生徒達の姿は増えていき、同時にザワザワとした喧騒が至るところから聴こえてきた。
「なあ、おい。アイツ誰だ?」
「隣りにいるの、あの神岸だよな……」
「えー! 嘘、格好いい! 王子様みたい!」
「転校生とかかな? 先生達、そんな話してたっけ?」
同級生や上級生など、様々な方向から視線が突き刺さる。今までなら、姿が目立たないようにとひたすらじみに、静かにひっそりと気配を殺してばかりいた。
けれど今は隣りに忍くんがいる。
「やっぱ、噂になりそうな勢いだな」
「こうも反応が大きく変わると、人ってなんだか分かりやすいというか……」
「馬鹿らしいだろ? 人の目や物差しばかりを基準にするのが」
「そう、だね……」
思わず苦笑しては、同意してしまう。
そうして色んな生徒の囁き声が散らばる中クラスに入ると、ちょうど東先生もやって来てホームルームが始まった。東先生は早速、俺の事情を説明しながらも『今までどおり』過ごすようにとクラスメイト達に念を押して退室していった。
(今までどおり……いけばいいけど)
内心ポツリと呟きながらも、嫌な予感は的中した。
入学してからというもの壁の花を決め込んでいたというのに、授業の合間やら移動時間のたびに男女問わず声をかけられ、好機の視線が至るところから突き刺さった。
唯一、自由になれるのはお昼の時に逃げ込める旧校舎の秘密の場所と、放課後の同好会の時間くらいだった。
「フフ、スッゲー人気っぷりだなぁ」
「わ、笑わないでよ。こっちはゲンナリしてるのに……。人の声は煩いし、人混みには酔うし、女子達の噂話で持ちきりみたいだし……」
せっかく勇気を出して隠すことをやめたものの、やはり元通りに地味なままでいたほうが良かっただろうかと、早速一日目から後悔をし始めていた。
「昔は、気持ち悪いとか、変な色って……言われてたのに」
過去に言われた悪口を思い出すと眉尻を下げる。
だがすぐにそれを察したのか、忍くんは優しく頭を撫でてくれた。
「所詮他人なんてそんなもんなんだよ。人の噂も七十五日っていうだろ? もうちょっとの我慢だよ」
「……あと、七十四日も我慢しなきゃならないってこと?」
密かに絶望しながらも、俺達は普段通りに旧校舎の中庭で昼食を摂っていた。桜はとうに散り、葉桜だけが残った日陰の中で首筋を通り抜けていく風にホッと息を吐く。
(もう少ししたら夏か……。そしたら外で食べるのは厳しくなるかな? どこで食べようかな?)
ぼんやりと一人でそんなことを考えていたその時だった。
「そう言えば、真琴は“薔薇の君”の噂って知ってるか?」
思いも寄らない問い掛けを忍くんからされた。
以前自分が似たような問い掛けをしたなぁ、とデジャヴのような気持ちを抱きながらも首を横に振った。
「“薔薇の君”……? なにそれ? 前に話題にした“百合の君”じゃなくて?」
「あ、やっぱり知らなかったか。どこの誰かは知らないけどさ、今朝、オレと真琴が歩いてる姿を見てそう名付けた奴がいるみたいだぜ?」
「まあ、忍くんは格好いいから……そんな異名が付くのは分かるけど――」
「――なに言ってんだ? “薔薇の君”の異名が付いたのは、真琴のほうだぞ」
「げほ……ッ! ゴホ……! う、嘘!?」
忍くんの口から紡がれた、とんでもない言葉に思わず俺は咳き込んだ。それも当然だ。黒髪と黒眼のコンタクト、そして眼鏡とマスクを取ったというだけなのに、まさか一日でそんな異名が付くなんて誰が予想するだろうか。
「じょ、冗談だよね?」
「いや、今のところ女子達の話題はソレで持ちきりっぽいぞ」
「……ってことは、俺と忍くんの関係が薔薇見えてるってこと?」
「まあ、前からずっと一緒にいたし……そう思われてたとしても今更だよな。にしても、女子達の妄想力ってスゲーのな」
マイペースに、そしてどこか他人事のように呟きながら忍くんはお弁当を食べている。改めて、まさか自分達が薔薇のようだと言われると、それはそれで非常に恥ずかしかった。
「薔薇、かぁ……」
忍くんから渡された花束のこともあってか、薔薇の花にはそこそこ思い入れがある。そう考えると“薔薇の君”と呼ばれるのも案外悪くないかもしれない。
「取り敢えず真琴は、人の視線とか噂話を気にしないようにするところからだな。前はまったくの無関心だっただろ?」
「そ、そうだけど……。さすがにいきなりは難しいかも。ずっと周りがザワザワしてるし。忍くんみたく上手く躱せたら良いんだけど……」
「そりゃまあ、経験かな」
経験と言われ、うぅと唸りながらも東先生が言っていたように、なるべく今までどおり振る舞おうと決意した。
ジリリリ…………!
その時だ。昼食の終わりを事前に告げるアラームが鳴った。午後の授業に遅れないよう片付け、急いで教室へと戻る。まだザワザワとした空気が残っていたけれど、なんとか普段通りを装って授業を受けた。
――そうして、放課後。
俺達は逃げるように教室から出ると、『バリスタ同好会』用に使うコーヒー豆や器具類を見に行こうと駅前にある商業施設内にある専門店を訪れていた。
器具類は忍くんの家にある物を使うとは言っていたけれど、実際にどんな物があるのか、デザインやメーカーなどをネットだけの情報や評価だけでなく実物を見たいと思ったからだ。
店には家庭用のコーヒーメーカーの他に、所謂ドリップ式で抽出するタイプの道具も揃っていた。
「校長先生が言っていたとおり、ドリップ式だけでも色々な器具があるね。ペーパーフィルター用に、この布製のがネルドリップ? あとはステンレスフィルターとか。……どんな違いがあるのか、忍くん知ってる?」
「あー、まあ最低限。素人知識程度でいいなら……、ペーパーフィルターは一般的というか使うのが比較的楽かな。コーヒーを淹れたときの特徴でいうなら、コーヒー豆の余計なオイルを吸収するから、口当たりとしてはアッサリしてるほうだと思う」
「それじゃあ、こっちの布製のネルドリップやステンレスフィルターっていうのは……?」
「ネルドリップは、使い捨てのペーパーフィルターと違って何度も洗って再利用できるよ。あと両面……触ってみたら分かるけど、フワッとした起毛がある面とツルッとした面があるだろ? それで淹れ方も変わるし味にも変化がでるんだ」
そう言って忍くんはネルドリップの見本用のフィルターを一枚取ると渡してくれた。
「あっ、本当だ」
忍くんが説明してくれたように、両面で指先に触れる感覚が異なる。フワッとした面のほうは、なんとなく洗うのは大変そうだなと言う印象を受けた。
「ネルドリップの面白いところはさ、起毛面を内側にすると、ペーパーフィルターみたいにコーヒー豆のオイルが吸収されてアッサリした味になること。逆に起毛面を外側にするとコクが出て深い味わいやまろやかさが出るんだ。コーヒー豆のオイルがその分抽出された感じ」
「そ、そんな違うの……? でも一つで二種類試せるのは、なんかお得だね」
ふむふむと頷きながらも、ネルドリップのフィルターを棚に戻すと次はギラギラとしたステンレス製のフィルターを見つけた。
「これがステンレスフィルターか」
円錐形をしたフィルターはどこか紙製や布製とは違いギラギラしていて、圧力というか重厚感が増していた。
「うん。良く見てみ? ステンレスフィルターってペーパーフィルターやネルドリップと違って目が粗いだろ? それにステンレス製だから、コーヒー豆のオイルや微粉がダイレクトにドリップされるんだよ。だから、人によっては重く感じたり舌触りにザラザラしたのが残るから、これは好みがだいぶ別れる」
だから一般的にはペーパーフィルターかネルドリップがいいよ、と忍くんはお勧めしてくれた。
「フィルターの器具だけでこんなにあるなんて……」
「驚いた? 真琴は普段家でコーヒーを飲む時どうしてんの?」
「し、市販のコーヒーメーカーだけど」
「市販のか。なるほどねぇ」
笑われるかなとソワソワしたけれど、忍くんは笑ったりからかうことなく、腕組みをするとうーんと唸った。
「それならさ、ついでにコーヒーミルのほうも見に行く? 色々あって面白いよ。市販のコーヒーメーカーを使ってるんなら、豆は挽かれたばかりのしか使ったことがないだろうし」
「う、うん……! 行く! 見に行きたい!」
「ん。それじゃあ行こっか」
隣りを歩きながらも、俺よりもずっと道具に詳しい忍くんに感心していた。コーヒーや紅茶は嗜好品で贅沢品だと言う人もいる。けれどこうして飲み物一つにとっても様々な道具や技術、美味しい淹れ方を研究できると思うと、研究しがいのある題材なんだなと心がワクワクした。
忍くんはまるでお店の何処になにが置かれているのかを知り尽くしているのか、スイスイと店内を泳ぐかのように歩いていく。家でもコーヒーを飲んでいたり、道具に詳しいことからもしかしたら行きつけのお店なのかも、と密かに思った。
「この店、コーヒーミルの種類が多くてさ、見応えあるんだよ。一人分から挽けるミルや、一気に大量の豆を挽ける電動のミルとか、あとは珍しいのだと鋳型で重いけど縦挽きするタイプのミルとか」
「へぇ~。よくCMとかで見かけるミルって、横に回すタイプが多いよね? 縦挽きとどう違うの?」
「単純に言うけど、挽きやすさかな。一般的なイメージの、横に回転させて挽くタイプのミルって重心が不安定で意外と回しにくいんだよ。力も結構いるしさ。けどこの鋳型の縦挽きは重心が安定してるのもあってかなり挽きやすい。重いけどね……ちなみにオレん家にあるのはこの鋳型のヤツ」
そう言って忍くんは黒くて高級感のある鋳型のコーヒーミルを指差した。
「やっぱり、挽きたての豆で淹れたコーヒーって美味しい?」
「うん、美味しいよ。だからその美味しさを真琴にも知って欲しくてさ。ほら、美味しいモノとか気に入ったモノってさ、好きな人と分かち合いたいモノじゃん?」
そう言って、忍くんは魅力的な笑顔を浮かべた。
(好きな人……)
改めて忍くんの口から発せられた直球すぎる言葉に、鼓動が跳ねる。前ならきっと動揺して慌てていたけれど今ならその想いも理解できた。
「うん、そうだね。俺もコーヒーに合いそうなお菓子とか忍くんに共有したいなぁ」
「いいな。真琴が教えてくれるお菓子に合う豆とか、見繕わないとな」
そんなことを和気あいあいと話していると、不意にガシッと肩を忍くんに掴まれた。
「真琴。挽きたてのコーヒー飲んだことないならさ、今からウチに来ないか? お菓子買って帰ってさ、試し飲みしてみない? ブラックが苦手なら、カフェオレとかから慣らしていけばいいし。ミルクフォーマーとか使ってフワフワにしてさ」
「カフェオレ……フワフワにできるの?」
「ああ、ミルクフォーマーって道具があるから、簡単にできるよ」
「凄い……」
忍くんの家ではよほどコーヒーを楽しむのだろう。
そこまで道具が揃っているならお店でも開けそうだと思いつつ、キョロキョロと周囲にお菓子屋さんがないかと見回した。そして、
「それなら、あそこのチョコレート屋さんに寄りたいな。チョコレートってコーヒーにも合うから、一緒に楽しめると思うんだけど……どうかな?」
「いいんじゃね? ――やった! それならウチでお茶会な。使用人達には連絡入れとくから」
「あ、ありがとう……。急にお邪魔してすみませんって一緒に伝えて欲しいな」
(使用人さんかぁ……)
改めて凄い家なんだよなぁと以前お世話になった時のことを思い出しながら、俺は一足先にチョコレートの店へと足を向けた。
――そうして日も暮れ始めた頃。俺は改めて忍くんの家にお邪魔しては、リビングに足を踏み入れた。
(やっぱり広い……そして使用人さんも多い)
玄関からリビングに来るまでの間に、何人もの使用人さんとすれ違いその度に緊張しながらも挨拶をした。
俺はてっきりキッチンなどでコーヒーを淹れるのかと思っていたら、案内されたのはリビングだった。
「此処でいつもコーヒーを淹れてるの?」
「そうだよ。ほら、こっちこっち」
そう言って手招かれるがまま後を着いて行くと、リビングの一角に広めのカウンターがあり、そしてそこにはひと通りの道具が並べられ、瓶詰めにされたコーヒー豆が幾つも陳列していた。
「なんだか、本当にお店みたい……」
「ん? そんなことないって。まだエスプレッソマシーンとか決めきれてないのもあるし」
「ひぇ……」
(エスプレッソマシーンも置く予定なんだ……)
ますますお店が開けそうだ、そう思うと変な声が溢れた。
「さてと、そんじゃ真琴は何が飲みたい? オレが淹れてやるよ。ペーパーフィルターもネルドリップもステンレスフィルターもあるから、どんな淹れ方もできるよ」
「え……? えっと、それじゃあ……ネルドリップで淹れたカフェオレを飲んでみたい」
「オッケー。じゃあちょっと待ってて」
忍くんはそう言うと、慣れた手付きで道具を準備し始めた。
「改めて思うけど、忍くんって博識だよね」
「んー? そんなことないって。ただの下手の横好き」
「そうかなぁ」
そんな言葉を交わしながらも、忍くんが淹れるネルドリップのコーヒーをじ~っと見つめた。
「ひと手間かかるけど、挽きたてはやっぱり良いよ」
そう言うと忍くんは、お店で言っていたように鋳型のコーヒーミルに焙煎された豆を入れ、ガリガリパキパキと豪快な音を立てながら豆を挽き潰していく。初めは物凄い音をたてていた豆も、次第に跳ねるような音と共に香ばしい匂いがゆっくりと溢れてきた。
「良い匂い……。なんだか、ナッツみたいだ」
「おっ、気づいた? 深煎りの豆でそういうの選んだんだよ」
嬉しそうに微笑みながら、挽きたての豆の粉をネルドリップの布地に移すとマグカップの上に乗せ、沸騰する直前のお湯を少しだけ注ぐ。蒸らして数秒……そして再びお湯をゆっくりと注いでいく。
「丁寧に淹れるんだね。コーヒーメーカーとじゃ、段違いだ」
「まあ、どっちが良いも悪いもないよ。所詮は趣味とか、嗜好品なんだから」
そう言いながら、忍くんは淹れたてのコーヒーにミルクフォーマーでフワフワにしたホットミルクを注ぐと出来立てのカフェオレを出してくれた。
「ほい。飲んでみて」
「い、いただきます」
緊張しながらも、一口目をゆっくりと口にする。すると匂いはナッツのように香ばしいにも関わらず深いコクの中に優しい甘味を感じられた。
「なにこれ……、すっごく美味しい……! 香りがね、フワって通り抜けてんだよ! コクも苦味もあるのに、確かな甘味も感じられてね、とにかく凄く好き!」
「フフ、そんなに気に入って貰えるなんて今日誘ってみて良かったよ。真琴は深煎りの豆が好みなのかもね」
「下手の横好きってさっきは言ってたけど、全然そんなことないと思うよ? あっ、そうだ! 買ってきたチョコレートも食べようよ。あの店ね、俺のお勧めなんだよ」
忍くんが自分用のコーヒーを淹れている間に、ガサガサと紙袋から箱入りのチョコレートを取り出す。箔の刻まれた箱の中には、プラリネを中心とした大粒のチョコレートが六つ、宝石のように彩られていた。
「ビーントゥバーって知ってる? カカオ豆の調達から焙煎、成形までを全部自社でやってることを指す用語なんだけどね、ここのお店がそうなんだよ」
「へぇ~。ビーントゥバーなんて言葉、初めて知ったよ。一粒一粒が綺麗だし、手間暇かけてんのなぁ」
「絶対にコーヒーに合うと思うんだ。忍くん、食べてみて?」
そう言って勧めると、俺は再びカフェオレを口にする。好きな人が淹れてくれたという幸せを噛み締めると同時に、自分も美味しいコーヒーを淹れてあげたいという気持ちが募った。
「俺、絶対に忍くんに美味しいって言ってもらえるようなコーヒーを淹れられるようになるから。頑張るね」
「フフ、楽しみにしてるよ。……んむ。此処のチョコレート本当に美味しいな! 真琴が勧めるだけはあるな」
「へへ、実はチョコレートがお菓子の中で一番好きなんだよ。だから忍くんに是非食べて貰いたくて」
互いに互いの好きな物を勧め合う。
そんな幸せな時間を過ごしながら、夜は少しずつ色濃く深くなっていく。夜の帳が下りる中、俺達はいつまでも話し続けた。