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最強

「!あの人!1人で行ったら危ないよ!」


先ほどから目まぐるしく変わる状況に呆然としていた私は、無謀にも1人で突っ込んでいった彼女を見て大声でそう叫ぶ。


「あなたがマヒルさんですね」

「えっ?そうだけど・・・あなたは?」

「私はユウと言います。弟さんに頼まれて助けに来ました。無事でよかったです」


すると、そんな慌てる私にユウと名乗る同年代ぐらいの()が話しかけて来るのだが


「それと、そんなに慌てずともトバリ社長なら大丈夫ですよ。まぁ見ていてください」


彼女こんな状況下にも関わらず凄く落ち着いた様子をしていて、そんなクールな態度を取る彼女に対し私はどう反応すればいいかわからず、ひとまずは彼女に言われた通り、異形へ1人向かって行ったトバリと呼ばれた女性へ目を向けることにした。


そして、向けた視線の先では両者が正に激突する寸前で、異形は自分の間合いに入ってきた彼女に対し、リーダーを真っ二つにしたあの刃のような腕を振り下ろすと、対するトバリさんは自身の持つ青い大剣を思いっきり上部へ振り上げ、振り下ろした腕と剣が激しくぶつかり周囲に大きな衝撃波を駆け巡らせる。


互いの得物がぶつかり合い鍔迫り合いのようになる両者だったが・・・その状態も長くは続かない。

何故なら、トバリさんがその鍔迫り合いの状態から、握っていた剣を強引に振り抜き異形を弾き飛ばすと、それによって体制を崩した奴の右前足と口から出た腕を一瞬で切り飛ばしてしまったからだ。


「なっ!」


強い!私たちが手も足も出なかったあの黒い異形を、あんなにも容易くまるで赤子扱い!


体の各部位を切り飛ばされてしまった異形は、苦しそうな声をあげ地面でのたうち回るが


「何よ、でかい図体してる癖にピーピー喚いて情けない。まるでおしめの取れないお子ちゃまね、あなた」


彼女はそんな奴の姿に呆れた口調でそう言い放ち、地面で(うめ)き転がっていた異形は、しばらく経ってようやくフラフラ起き上がると、立ち上がった瞬間に突然口を大きく開け、口内に大量の魔素を集中させ始めた。


あの様子・・・もしかして彼女ごと周囲一帯を吹き飛ばすつもりじゃ!?


どんどん溜まっていく赤黒くて禍々しいエネルギー。

そこに集まる膨大な魔力は、離れた位置の私でも感じ取れる莫大な圧を放ち、その破壊力の程を容易く想像することができる。


「トバリ社長ーー、敵の射線、こっち向いてますよー」

「言われなくてもわかってるわよ。大丈夫だからユウは引き続きそっち見てて」


そんな危機的な状況だと言うのに、2人のやり取りには焦りの色はまったく見えず、彼女はこちらをチラッと一瞥して適当に返事を返すと、剣を背負い直しホルスターから銃を抜き取り奴にその銃口を真っすぐに向けて・・・


「丁度こいつの試運転もしたかったとこだし、試し撃ちにはもってこいの相手ね」


「えっ?何?銃を構えて何を・・・まさか!あれと正面から撃ち合うつもり!? そんな無茶苦茶な!」

「ですから、そんなに心配せずとも大丈夫ですよ。ああ見えてトバリ社長はS等級です。あの程度の相手に負けたりしません」

「って、S等級!?」


・・・このご時世、異形に関わる依頼を請け負う者には、国が発行する討伐許可証もといライセンスが必要で、ライセンスは各々の実力に応じ上からS、A、B、C、Dの等級がある。

中でもS等級は日本全土でも数人しかいないレベルの人達で、まさか彼女がそのS等級の1人だなんて・・・


そんな彼女は黒い異形へ対抗するよう構えた銃へ魔力を集中させており、銃に集まる魔力はとても一人の人間が発しているような魔力量と思えず、溢れた余剰エネルギーが青い稲妻のように周囲へ迸っている。


両者が発する光と音は次第に激しさを増し、私たちがいる空間を昼間のように明るく照らしていたが、バリバリと鳴っていた音が不意に途切れて、辺りが静かになったと思ったその次の瞬間。


赤と青の極大の閃光がそれぞれお互いに向かって解き放たれ、異形側の赤い閃光とトバリさん側の青い閃光、二つの光がそれぞれ地面をえぐりながら直進しそのまま中央で激しくぶつかり衝突すると・・・

トバリさんの青い閃光が赤い閃光をものともせずに突き破り、何ともあっけなく異形のことを貫いてしまったのだ。


上半身を一直線に貫かれ、ぽっかりと大きな穴が開いた黒い異形。


「犬っころ風情が、私と力比べしようだなんて向こう100年は早いのよ」


彼女は異形にそう言い銃を回転させながらホルスターに仕舞うと、それに合わせるかのようにして黒い異形も崩れ落ちる。


強い、これがS等級の実力・・・ただただひたすらに強い。


目の前で見せられた現実離れした光景を前に、私の頭からは語彙力を失った子供のような感想しか出てこず・・・また、どうやら彼女のその強く鮮烈な姿は私の脳を深くまで焼き付けてしまったようで、私は彼女からずっと目を離せないままでいた。


「これで面倒なのも片付いたことだし・・・ユウ、ドローン飛ばしてアサイに連絡入れといてくれるかしら?」

「もうやっておきましたよ」

「あら、手際がいいわね。ご褒美に頭でも撫でてあげましょうか?」

「いえ・・・戦闘後の汗臭い手で私に触らないで下さい」

「ちょっと!汗臭くなんてないわよ!失礼な()ね!」


その後は、そんな風にじゃれ合っている2人を眺めている内に、長らく来ることのなかった救助もあれだけ待っていたのが嘘かのように直ぐやって来て、怪我人の手当てや現場の後始末を行い・・・

無事救助された私達7人は、念のため病院で検査を行うとのことで、現在は軍の方に送られながら都市の病院へと向かっている最中である。


そんなこんなで・・・私の今までの人生において最も最悪で、悪運のよかった1日も、ようやく終わりへ差し掛かろうとしていた。





「今日は疲れ様!依頼も無事終わったことだし、みんな遠慮せず飲み食いして頂戴ね!」


都市に戻り、大きなケガもなく直ぐ検査から開放された私は、廃都市にいる間弟の世話をしてくれていた女将さんの下へ彼を迎えに行ったのだけど・・・


お店に着くと、そこには何とトバリさん達もいらしており、私は一言お礼を言おうと彼女達の下へ顔を出した結果、何故かみんなと同じテーブルに腰を下ろし、打ち上げの席に参加する流れになっていたのだった。


「おい、何自分が奢るみたいなノリで喋ってんだ。あたしの奢りだよ、あ・た・し・の!」

「細かいことは気にしなくていいのよ女将さん。とりあえず私はビール3つね」

「この馬鹿女は!酒は1杯ずつ頼めって毎回言ってんだろ!」

「何よぉ・・・どうせすぐ全部飲むんだからいいじゃないの」


「ユウ、おまえは弱いんだからあんまガブガブ飲むんじゃねえぞ」

「心外ですねアサイさん。私は生まれてこの方お酒に酔ったことなどありませんよ?」

「それは毎回記憶が飛んでるだけだ」


そうして始まったお酒の席は開幕早々かなり騒がしく、トバリさんもどこかアンニュイな感じが漂よう雰囲気に反しとてもよく喋る方で、ちょくちょく口を滑らせては周囲に遠慮なくひっぱたかれており、そんな緩い空気の為か出会って間もない私でも楽しく時間を過ごすことができていた。


「私ふぁ、普段あんにゃツンケンした態度とっちゃったりしましゅけどぉ。ほんろはトバリ社長のこと、もうほてもほてもだいしゅきでぇ。ダャメにゃ社長の世話をやぐのは、わだじの生きがいになっでるんでずううう」


だが、そうやって過ごす内にさっきまでとは別人のようにベロベロになったユウちゃんが、トロンとした目で愚痴だか何だかわからないことを呂律の回らない口で語り出していて


「えっと・・・彼女、大丈夫かな?何だかだいぶきちゃってるみたいだけど?」

「大丈夫よ。ユウのこれはいつものことだから。ほらユウ、あなたってばお酒弱いのにまたそんなにいっぱい飲んじゃって、水でも飲んで少し落ち着きなさいな」

「うう、トバリ社長~~~社長はそのままず~~っとアホなままで、わだじにお世話ざれづづげでぐだざいねぇ~~」

「ハイハイわかったけど、私は決してアホではないのよ?いいこと?ユウ?」

「アホでずううううううううううう」


うわぁ・・・あんなにクールな感じだったユウちゃんが、こんな醜態を晒してしまうとは・・・お酒ってなんて恐ろしいんだろう・・・


目の前でアルコールの恐怖をまざまざと見せつけられた私は、その様子を見て自分もなんだか飲み過ぎてしまったかなと思い、夜風に当たって酔いを覚まそうと泥酔したユウちゃんの相手で忙しいトバリさんを尻目にお店の外で少し涼むことにした。


「今日は災難だったね、マヒル」

「女将さん・・・」


すると、客足も減って手持無沙汰になったのだろうか、女将さんもやって来て労うようにこちらへ話しかけて来る。


「でも大きな怪我もなく、無事帰ってこれたようで何よりだよ」

「トバリさんのおかげでなんとかね。凄く強かったんだよトバリさん」

「そうさねぇ。パッと見はただの飲んだくれのアホ女だけど、腕だけは立つからねあの馬鹿は・・・」


この褒めてるのか馬鹿にしてるのかわからないような気安い物言い・・・2人は結構長い付き合いなのかな?


「まぁアイツのことはいいさ、お前さんはこれからどうすんだい?今んとこは続けんのかい?」

「いや・・・あそこはもう辞めようかなって。お給金は悪くなかったけど、目先の利益優先みたいな部分が大きかったし、それでまた今日みたいな目に会うのも嫌だから」

「賢明な判断だね・・・次の当てはあるのかい?」

「う~ん、それは・・・どうしようかなぁ」


そう、今の職場を辞めることは都市に戻って直ぐ決めたんだけど、その後のことについては正直言ってノープラン。

特に当てがあるわけでもないし、どうしたものかと思ってはいるけど・・・


そんな折、ふと何気なしに店内を覗くと、さっきと変わらずユウちゃんを介抱しているトバリさんの姿が目に映り、それを見て先ほどトバリさんが話していたことについてふと思い出す。


そう言えばトバリさん、さっきあの3人で葬除(そうじ)屋をやってるみたいなこと言ってたっけ・・・

トバリさんの所は人を募集してたりするのかな?そこで働けたらなんだか楽しそうな気がするけど・・・


「何だ、あのバカの所に行きたいのかい?」

「えっ、いや、その、なんて言うか、あの・・・うん、そうかも知れない」


そして、随分あからさまに彼女を見つめていたからか、どうやら女将さんには私の考えを見抜かれてしまったようで・・・でも仕方がないかな。

あの黒い異形に襲われる中、颯爽と助けに来てくれたトバリさん。

吊り橋効果的なものもあったかも知れないけど、凄くカッコよかったからなぁ・・・


「確かにあいつは馬鹿みたいに強いし、見てくれも良くて何でもそつなくこなす、ああ見えてかなりハイスペックな奴だけどね。飲んだくれで、適当で、無駄遣いも多いし、貧乳で、おまけに口も悪いアンポンタンな女だよ」


うん、カッコよかったんだけど・・・女将さんってばトバリさんのこと随分ボロクソ言うなぁ・・・貧乳でアンポンタンって・・・


「ふっ、まぁそんなダメな部分も多い馬鹿な女ではあるけど・・・悪い女ではないさね」

「えっと?」

「あいつのとこなら大丈夫だろう。物は試しだダメもとで1つ頼んでみるといい」

「女将さん・・・」


『マヒルちゃ~ん。ユウが寝ちゃって寂しいからこっち来て相手してよ~アサイと2人で飲んでてもつまらないのよ~』


「ほら、ちょうどあの酔っ払いも呼んでるよ、行っておいで」


そっか、そうだね。あまり考えてばかりいても仕方がないし、ダメで元々。

ここは女将さんの言った通り!お願いするだけしてみよっか!


「うん・・・私、行ってくるね!女将さん!」

「ああ」


女将さんからの後押しもあり、そう決意を固めて意気揚々と彼女の下へ突撃して行く私。

結果、その日はみんなと一緒に夜通しお酒を飲み続け、翌朝は人生初の二日酔いになり痛みに呻く羽目になったけど・・・

トバリさんからいいお返事を貰えたことだけは、最後にここで報告させてもらおうと思います。


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