救出
「それで?何かわかった?」
街を出てホバーを走らせていた私たち2人は、途中でアサイから連絡を受け、そのままホバーを走らせつつ彼が集めた情報について報告を受けていた。
「簡単にだがな・・・まずあいつの姉貴、マヒルっつたか。今送った画像の嬢ちゃんがそのマヒルって娘で、年齢21のライセンス等級はB。その嬢ちゃんを含めた民間の葬除屋部隊24名が廃都市で異形の襲撃により安否不明・・・ここまでは概ねさっきの話通りだ」
そうね、思ったより大所帯だったけどそこまでは聞いていた通り。
で、この画像の娘が救出対象のマヒルちゃんか・・・ふむ、元気そうな雰囲気の娘さんね。
確かにあの小生意気なガキンチョのお姉さんって感じがするわ。
「で、この部隊の隊長さんが、一応A等級の葬除屋だったみたいだが・・・まぁ、A等級がいてこの有様ってことは、相手は指定災害級レベルの異形と考えた方がいいだろうな」
「うえ~また面倒な」
「最後に1つ、どうやら軍の方も出撃はせずとも偵察用のドローンぐらいは飛ばしてたらしくてな。知り合いからちょっくらその映像を融通してもらうことができた」
「あら、引きこもりの癖に随分顔が広いじゃない?お姉さんちょっと関心しちゃったわ」
「やかましいわ、ともかくそのドローンの映像を送るから確認してくれ」
そして送られてくるドローンによる俯瞰視点での現場映像、そこには障壁に囲まれたシェルターを襲う黒くて大きい狼のような異形が映し出されていた。
このワンちゃんが噂の黒い異形かしら?全身つるつるでまた何とも気色悪い姿だけど、それは一旦さて置き・・・
うん、廃都市にもまだ障壁の使える施設が残ってたの、これならあのガキンチョのお姉さんも生きてる可能性が高そうね。
「場所は?」
「廃都市南東にある広場の少し先だ。ついでに位置情報も送っておく」
「そう。なら目的地もはっきりしたことだし先を急ぐわ。後少しで通信も入らなくなるから、何かあったら早めに連絡して頂戴」
「ああ、わかってる」
「それじゃあね」
そう言い通信を切った私たちは、ホバーを更に加速させ荒野をもうスピードでかっ飛ばして行くと、その視線の先に崩れた外壁や廃墟などが姿を現し始め、廃都市が目と鼻の先にあることを知らせて来る。
「見えてきましたね」
「ええ、いつ見ても陰気で寂れた心霊スポットみたいな街だけど・・・広場までの道順は?」
「目の前の門を潜って大通りを道なりに進んで下さい」
「了解」
そのまま外壁にある朽ちた門を潜り抜け、ユウの指示に従い大通りを突き進むこと数分弱。
目的地に近づいた私たちの視界には、遠目からではあるが映像で見た黒い異形が一心不乱に障壁を殴り続ける姿が見て取れ、その様子からシェルターはまだ健在であることを確認することができた。
うん、どうやらシェルターはまだ無事みたい。何とか間に合ったかしら。
『ピキッ』
と、内心そう思ったのも束の間。
その時、突然何かが割れたかのような音が聞こえたと思えば、障壁にどんどんヒビが広がりいきなり崩れだしてしまったのだ。
「ちょっ!後少しなんだからもうちょい踏ん張りなさいよ!根性ないわね!ユウ!」
「はい」
「この辺瓦礫とか邪魔な建物多いし、こっからなら自分の足で行ったほうが早く着くわ。私は一足先に行かさせもらうから、後はよろしく頼むわよ」
「了解です。気を付けて行ってください」
あの位置ならこのままホバーで進むより、瓦礫やビルを跳び超え直線距離を突っ切った方が僅かだけど早く着く。
1分1秒争う中そう判断した私は、ホバーの運転をユウに任せすぐさまそこから飛び出し、全速力でシェルターまで向かって行く。
そうして急ぎ駆け付けて行ったシェルターの前には、建物の壁を壊し内部へ侵入しようとしている黒い異形が見えていて、奴はどうやら目の前のことに夢中で周囲に気がまわっておらず、こちらに隙だらけの姿を晒している。
躾のなってない間抜けなワン公が!ボディががら空きなのよ!
私はその様子を見るや否や、地面を陥没させるほどの勢いで足を踏み込むと、そのがら空きのボディへ向かい某特撮ヒーローばりの蹴りをぶちかます。
「しゃあああああ!おらあああああ‼ 」
『ドゴォ‼』
「ぶごおおおおおおおおおおおお」
私の蹴りが見事横腹にクリーンヒットした異形は、気持ち悪い雄たけびを上げながら吹き飛ばされ、そのまま少し先のビルと激突し建物を倒壊させながら瓦礫の中へ埋もれていく。
「気色の悪い叫び声ね・・・そんなんじゃ女の子にモテないわよ」
私はそんなマヌケな姿を晒す異形へ吐き捨てるよう悪態を吐くと、崩れた壁からシェルター内部の様子を確認。
そうやって覗いたシェルターの中には、数名の生存者が存在していて、皆がそれぞれ驚いたような表情でこちらを見ている。
ひーふーみーの・・・ざっと見たところ生き残りは7人か。
出発時の人数は24人って聞いてたけど随分やられてしまったみたいね。
マヒルちゃんは無事でいるかしら。
当初聞いていた人数と比較しかなり数が減っていたため、頭の中を一瞬嫌な考えがよぎったが
「・・・さて・・・それで、ええと・・・あっ!いたいた!あなたがマヒルちゃんね」
よくよく見て見ると左の手前側辺りいた娘が、先に確認した画像と同一人物で、無事に目当てのマヒルちゃんを発見することができた。
一瞬もしかしてとも思ったけど、何とか生きていたようね。
運がいいわ、不幸中の幸いってやつかしら。
「あなたの弟に頼まれて助けに来たけど、何とか間に合ったみたいね。運が良いわよ、あなた」
私はそんなマヒルちゃんに、得意の美少女スマイルを浮かべ話しかけるのだが、肝心のマヒルちゃんは突然のことに頭が追い付いていないのか、何処か夢心地のようなボーっとした様子で私のことを見つめている。
あら?もしかして私のあまりにもカッコいい登場シーンに心を奪われちゃった?
やれやれ、やってしまったわ・・・私ってばホント罪な女、カッコよすぎるって言うのも考え物かしらね。
「トバリ社長、状況は?」
なんて、お馬鹿なことを考えている内に、どうやらユウもこちらへ追いついたようで
「見ての通りよ。目の前にマヒルちゃん含め生存者が7人いて、あっちの瓦礫の下には蹴り飛ばした例の黒い異形が1匹」
私は蹴り飛ばした異形のいる方向に視線を向けながら、現状を軽く説明する。
さて、そろそろ起き上がって来るかしらあいつ。
「ユウは生存者のほうを見てて頂戴。私は引き続きあいつにお灸をすえてくるから」
そう言うと私は背負っていた剣を引き抜き、異形の埋もれた瓦礫へと足を運ぶが、そのまま奴の下へ向かいながら空を見上げてみれば、出発する前は明るかった空もすっかり日が落ちてしまい輝く月が朽ちた街並みを照らしている。
まったく、普段ならとっくに仕事を終えてアルコールに溺れてる時間なんだけど、生憎と今日はお残業だからね。
まぁ街に戻れば今夜はタダでお酒飲み放題なわけだし、手早く片付けて女将さんに死ぬほどご馳走してもらうとしましょうか。
「ほらワン公。一体いつまでお寝んねしてるのよ?私は一刻も早く帰りたいの。さっさと起きてかかって来なさいよ」
未だ瓦礫に埋もれたままの異形をそうやって挑発すれば、言葉は通じずとも馬鹿にされたことは理解できたのか、奴は積み重なっていた瓦礫を弾き飛ばしその場から勢いよく起き上がる。
『ゴ、ゴボォ、ゴ、ゴゴゴゴ、ゴボアアアアアアアアアアアアアアアアアア!』
そして気味の悪い目でこちらを睨みながら、喉の奥に何かが絡まったかのような濁った叫び声をあげると、口から刃物だか何だかよくわからない腕のようなモノを生やし、私へ向かって駆けだして来た。
「うわっ、気色悪・・・どこのエイリアンよあれ」
興奮した様子で駆け寄って来る黒い異形。
その様子を冷めた目で眺めていた私は、迫りくる異形を前にため息を1つこぼすと、手に持った青い大剣を横なぎに構え、こちらも奴へ向かって駆け出して行くのだった。