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依頼

あら、女将さんじゃない?

彼女がここまで足を運ぶなんて珍しい、何か困ったことでもあったのかしら?


「女将さんがここへ来るなんて珍しいわね。どうしたの?腰でも痛めたのかしら?あなたももう婆・・・じゃなくて、いい齢なんだから、いつまでも若いつもりでいないで大人しく養生してた方がいいわよ」


と、彼女の来訪を疑問に思いつつお口にチャックができない困った私は、うっかり口を滑らせ女将さんのタブーについて言及してしまい。


「ギュン!」


次の瞬間には女将さんの手が凄い速度で伸びて来て、私のか弱い頭に彼女の指が深くめり込んでいた。


「そう言うあんたは相変わらず口の減らない小娘だね。口は災いの元って知らないらしい。あたしはいつだってピチピチでアバンギャルドな永遠の17歳だよ、そうだろう?」


女将さんは私の頭にアイアンクローをかまし、凄まじい握力で頭蓋骨を掴みながらそう問いかけて来ており・・・


ヤバい!掴まれた頭がギシギシと軋んで凄く嫌な音を発してる!

このままだと頭が潰れたトマトみたいに悲惨なことになっちゃう!


「い、痛いわ女将さん。た、確かに女将さんはいつ見てもお若い永遠の17歳よ!ピチピチとかアバンギャルドとか古臭いこと言ってる婆だなんて、これっぽちも思ってないわ!

だから、どうかその頭を掴んでいる手を!私の頭を掴むその手を離して欲しいのだけど・・・って痛い!痛い!痛い!そんなに力を入れちゃダメよ!中身が全部飛び出ちゃうじゃない!」


「トバリ社長もホント懲りないですね。黙っていると死んじゃうんでしょうか?」

「ほっとけ、酒の飲みすぎで頭がやられてんだろ」


あの薄情な2人は社長がピンチだというのにそれぞれ好き放題言ってるし、少しぐらいは助ける素振りを見せなさいよ!あなた達は私の部下でしょう!


「ホントにこの馬鹿は、そもそも用があるのはあたしじゃないよ。あたしは依頼人を連れてきたのさ」


そう言ってようやく頭から手を離してくれる女将さん。

くっ、今ので絶対IQ下がったわ。世界で唯一無二のインテリジェンスな頭脳なのに。


私は頭部をさすりながら恨めしそうに女将さんに視線を向けるが、そうして彼女の方を眺めていると、背後に12~3歳くらいの男の子が立っていることに気がついた。


もしかして、このショタっ子が女将さんの言う依頼人かしら?

何よ依頼人って言うから誰を連れて来たかと思えば、まだまだケツの青いガキんちょじゃないの。


と、彼のその幼い容姿を見て内心そのようなことを思っていると


「ねぇホントに大丈夫なの?こんな頭の弱そうな、ない乳女で」


突然ショタから凄まじく鋭利な罵倒の言葉が飛び出し、あまりにいきなりかつクリティカルな一言だったため、私は思考が停止し思わず硬直してしまったのだが、直後に背後からアサイの吹き出す声が聞こえため、すぐさま我に返って現実へと復帰する。


とりあえず、アサイの馬鹿は後で(しめ)るとして・・・何なのかしらこのガキんちょは、私達初対面よね?

何でいきなりこんな罵詈雑言が飛んでくるのよ?私にはガキに罵倒されて喜ぶような特殊な性癖はないんだけど。


「ふふっ、あらあらこのガキは、初対面なのにずいぶん生意気な口を利くじゃない?あんまり舐めた口利いてると子供とは言え痛い目見ることになるわよ?え?」


その罵倒にカチンときた私は、相手が子供だろうと関係なしに、みっともなくメンチを切ってやるのだが


『パン!』

「あべしっ!」


それを見た女将さんから即座に頭をしばかれてしまう。


ちょっと!どいつもこいつもさっきから頭ばっかり攻撃して!今日だけでIQが10は下がったわよ!


「子供相手に何してるんだい大人げない。坊やも、こう見えてこいつは腕が立つんだ。

その辺の変なのに頼むよりもよっぽどましだよ、わかったかい?」

「わかったよ・・・」


女将さんの言葉に素直にうなづくガキンチョ。

女将さん・・・昔から子供には甘いんだから、ちょっと口を滑らせただけで私にはすぐアイアンクローかましたくせに。


「何か言いたげだね」

「何でもないわよ・・・ええ」


内心は不満たらたらだけれど、下手なこと言ってまたどつかれてもアレだし・・・

もういいわ、依頼したいことがあるのだったわよね。

それならさっさ話を聞くことにしましょう。




「姉ちゃんを・・・マヒル姉ちゃんを助けてほしいんだ!」


その後、皆がそれぞれ適当に席へ着くと、少年は開口一番にそう言い、ことの詳細について話を始めた。


依頼者の少年、年齢13歳で名前はショウゴ。

彼の話によると少年にはマヒルという名の1人の姉がいて、今朝早くより彼女を含む民間の葬除(そうじ)屋一団が廃都市へと出発。

そしておおよそお昼を過ぎたあたりに「大型の黒い異形に襲われ部隊が壊滅、至急救援求む」とのメッセージが入ったドローンが送られてきたそうだ。


ちなみに何故ドローンなんて回りくどい方法で連絡して来たかと言うと・・・

廃都市は、高濃度の魔素の影響で通信機器が使えず、連絡手段はドローンのような物理的な手段に限られており、それはすなわち向こうと連絡を取るのが難しいと言うことと同義で、彼女達の安否は現時点で不明。


行方不明者の身内である少年には、先ほど役所からそのことを伝えられたそうだが、突然そんなことを言われても子供である彼にはどうすればいいか全くわからず・・・

なので、彼が唯一頼れる存在である女将さんへ助けを求めに行ったところ、彼女はこうして私の所へ少年を連れてきた・・・そういう顛末みたいだけれど。


「廃都市は現在立入禁止ではありませんでしたか?」

「そうね、でも立入禁止って言っても入口が物理的に塞がれているわけじゃないから、入ろうと思えばいくらでも入れるし、理由も大方想像は付くけど・・・でもそれはそれとして、こう言う事態が起きた場合って普通軍が救助に向かうでしょ?あいつら一体何やってるの?」

「生憎軍はこないだの騒ぎの対応で主力が殆どが出払ってる。半端な戦力での救助活動は二次災害を引き起こすってんで、部隊の出動をためらってるのさ」


私の問いに、少年に代わり女将さんがそう説明する。


この前の騒ぎって、確かあの猿共の大量湧きのことか・・・まだうだうだやってたの、あれ。


「はぁ・・・それじゃあ今回軍は頼りにできないってことね。まぁ今の廃都市は何やらヤバい異形がうろついてるって噂だし、主力不在の軍が及び腰になるのも仕方ないことなのかしら」


そんな私の言葉を聞いた少年は、どんどん出てくる悪い話に表情を暗くしますます顔を俯かせてしまう。


「そう脅かすようなことばかり言うんじゃないよ。こいつにとっちゃたった1人の姉ちゃんで、あたしにとっても昔からの顔なじみの1人だ。そんな奴が危ない目に会ってるってんで、何とか助けになってやりたいんだが・・・生憎一介の飲み屋に出来ることなんざたかが知れてる。結局あたしにできるのは、飲んだくれでアホで口の悪いダメ女のあんたに、こうして頭を下げることくらいしかなくってね」

「それはわかったけど・・・女将さん、全然頭なんか下げてないわよね?むしろ途中私のことを馬鹿にしてたような気すらするのだけど、気のせいかしら?」


まったく、言動と態度が全然一致してないのよ女将さんは・・・

でも女将さんの言い方はともかくとして・・・さて、どうしたものかしらね。


廃都市には現在ヤバイ異形がいて、主力不在の軍は二の足を踏んで出撃しない。

今から部隊を呼び戻したとしても時間がかかるし、そもそも彼女達が生きてるかどうかも現状不明。

昼過ぎの連絡から既に5時間近くはたってるハズだし、手遅れである可能性もかなり高い・・・う~ん。


時々唸りながら、そうやって今聞いた話を頭の中でまとめていると、先程からずっと俯いていた少年。

何を思ったのか、彼が突然私たちに向かって頭を地面に擦りつけて来た。


「お願いします!俺にできることなら何でもします!お金もなんとかして払います!だからどうか姉ちゃんを、姉ちゃんを助けてやってください!」


そう言いながら必死になって頭を下げる少年。


あ~マジか~土下座とかもうホント勘弁して頂戴・・・しめっぽい空気は苦手なのよ私。

ったく・・・あ~~も~~仕方ないないわね!


「ユウ、ホバーに荷物詰め込んで、いつでも出せるよう準備しておいて」

「了解です」

「アサイは彼女達が襲われた時の状況とか現場の場所とか・・・その辺りのこと手当たり次第調べておいて」

「あいよ」

「・・・助けてくれるのか?」

「しめっぽい空気は嫌いなの。そんな態度されるくらいだったら、さっきみたいに生意気なこと言われてる方がましよ。あなたはここでせいぜいそのお姉さんに運があるよう祈ってなさい」


そして彼にそう言い残すと、私はホルスターに銃をしまい、コートを羽織って立てかけていた剣を背負い、足早に格納庫へと向かって行く。


「世話をかけるね」

「別に、いつものことよ。そのかわり今日は帰ったら奢って頂戴ね」

「・・・今日だけだよ」


そのまま女将さんと言葉を交わし、彼女へ後ろ手を振りながら中へ入って行くと、そこでは準備を終えたユウが大型ホバーの後部に跨り、私が来るのを待っていた。


「いつでも行けますよ、トバリ社長」

「オッケー。それじゃあさっさと出発しましょうか」


時刻は午後6時。

太陽も沈み始め、夜の帳が降りつつある夕暮れ時。

私たちは廃都市へ向かい勢いよくホバーを発進させた。

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