かまってちゃん
朝からきもーいミミズ狩りに勤しみ、奴らから魔核を回収した私達。
そんな私達2人は、集めたその魔核を売却するため、都市の中心にある役所まで向かっていた。
異形は通常その体内に魔素が凝縮結晶化した物質、魔核を持っていて、結晶化した魔素の塊である魔核は都市防衛の要である障壁の維持や電力供給などのエネルギー源、また武器や防具、兵器関係に、果てはそのまま爆弾としても利用できるなど、その用途は非常に多岐に渡る。
そのため魔核には数多くの需要があり、市場での取引も頻繁でモノによっては結構高値が付くこともあるけど、生憎今日獲ってきた魔核は純度の低いありふれたモノで、そこまで値が張るような代物ではない。
でもそういった純度の低い魔核でも、それなりの値段で引き取ってくれる場所があり、それが今向かっているお役所だ。
都市を囲う障壁や発電所の管理をしてる役所では、街のインフラ維持のため常に大量の魔核を必要としており、こういったありふれたモノでも一定の額で引き取ってくれる。
だから、今日みたいに依頼もなく暇を持て余してる日には、こうしてちょっくら異形を狩って、小遣い稼ぎをしてるってわけなのよ。
「はぁ~疲れた。あんな気持ち悪いミミズの相手にその解体までやって、もう最悪な気分ね」
「何言ってるんですか、戦闘も解体も殆ど私にやらせてサボっていた癖に、最悪なのは私の方ですよ」
そんな役所へ向かう道中、先のことを思い出して愚痴を吐く私へ、ユウはあきれたような目をしてこちらを咎めて来る。
「あら、随分人聞きの悪いこと言うわね。私は別にサボっていたわけじゃなく、社長としてユウのことを温か~く見守っていただけ・・・いわゆる監督責任って奴よ、監督責任。
つまり、私は管理監督者としての責務を全うしてただけで、ちゃーんとお仕事をしていたのだから、そこのところ決して勘違いしないでほしいのだけど・・・って、ちょっと?聞いてるの?ユウ?」
「聞いてないです」
そして、それに対して捲し立てるように言い訳をする私を放って、1人先へ行ってしまうそっけない彼女。
冷たい・・・ユウったら何て冷たい反応なのかしら・・・もし私がウサギさんだったらそのつれない態度に寂しさのあまり死んでいたわよ。
いいでしょう・・・そっちがそんな態度をとるなら、わかったわ。
仮にも社長である私にそんな塩対応するいけない娘には、一度思い知らせてやる必要があるわね。
覚悟しなさい。
私を適当にあしらうと、余計面倒なことになるとその身に直接わからせてあげるわ。
彼女のそのあまりに冷たくそっけない対応に、少々教育的指導が必要だと思った私は、無防備に歩くユウの背後にそそくさと忍び寄ると、彼女の背中をジッーと眺めてロックオンし、そのまま勢いよく彼女に抱き着き、ユウの華奢な体を両腕でがっしりホールドする。
「あなたって娘は!さっきから私にあんな雑なリアクションばっかり取って!もっとちゃんと構ってくれないと寂しいんだけど!ウサギちゃんなんだけど!私は!」
「ちょっ!何なんですか!突然わけのわからないこと言いながら抱き着いて!あーー!!邪魔くさいんでそんなべたべたひっつかないでください!」
ユウはそんないきなり抱きついて来たを私を引きはがそうと腕の中でもがいているが、こちらも負けじと彼女を抱きかかえ、2人でギャアギャア不毛な争いをしながら道を進んで行く。
そうやってしばらく歩いていると、途中からユウは疲れてしまったのか抵抗するのを諦め、最終的には私に抱き着かれたまま目的地まで歩いていた。
ふっ、勝ったわ・・・
謎の達成感を感じつつ、ユウに引っ付いたまま進み続けること5分弱。
私達の目の前には無駄に大きく立派な庁舎が姿を現し、その光景が目的地である役所に着いたことを知らせて来る。
どうやら着いてしまったようね。
仕方ない、今日のところはこれぐらいで許してあげましょうか。
寛大な私に感謝するといいわ。
目的地に着いたため、とりあえずユウの体から手を放しようやく彼女を開放する私。
「あっ」
だがその瞬間、ユウからは何やら名残惜しそうな声が漏れ、一瞬だが残念そうな表情をした彼女が私の視界へ映り込む。
「!あらあら何よ、そんなに名残惜しそうな顔をしちゃって。あんなに邪険に扱ってたのに満更でもなかったんじゃないの。ほんとにいつもいつもユウは素直じゃないんだから。
ほら、何なら今度はそっちから抱きていて来てもいいのよ。恥ずかしがらずに私の胸に飛び込んでおいで『パアン!!』って痛いわ!!」
「もう知りません!私は魔核を換金してきますので!トバリ社長はその辺の柱とでも乳繰り合っていればいいです!」
それを見た私は、調子に乗って彼女を揶揄ってしまうのだが、顔を真っ赤にしたユウからビンタの一撃を貰い、彼女は1人で役所に入って行ってしまう。
痛たたた・・・ユウったらあんなに照れちゃって、相変わらず可愛いんだから。
さて、私はどうしようかしら。
ユウが戻ってくるまでやることもないし、適当に掲示板でも覗いておこうかしらね。
そんなこんなで、1人になってしまい手持ち無沙汰になった私は、仕方ないので役所にある掲示板で時間を潰そうと、自分も中に入って建物中央に鎮座する大型の立体スクリーンまで歩いていく。
都市の中心に位置するこの役所には、日々様々な情報や依頼が集まるため、それらを掲示する立体構造型のスクリーンが室内には設置されている。
そしてその掲示板を覗けば、今言った通り依頼に関する内容や、危険な異形の情報、昨今の時事的なニュースなど様々な内容が掲載されており、私は暇つぶしがてらしばらくそれらをポーっと眺めていたが、特段私の興味センサーに引っかかるような話があるわけでもなく・・・
うーん、何だかつまんない話しか載ってないわね。
このまま掲示板を眺めててもアレだし、またユウにちょっかいでもかけに行こうかしら。
内心そんな風に思いながら、目線をずらし掲示内容を一通り確認していると、その掲示の中の1つに要注意事項と書かれた派手な項目が浮かんでいるのを発見し、それが気になった私はとりあえず内容に目を通してみることにする。
「えーと何々、現在廃都市となっている第二防衛都市内部にて、黒い巨大な四足歩行型の異形による被害報告が多数あり。
当個体は非常に危険度の高い異形と推定されるため、軍の対処が完了するまで廃都市への立ち入りを禁ずる・・・か、ふむ」
危ない異形がいるから近づくなね。
そう言えばちょっと前からそんな噂が流れてたかしら。
まぁ普通のいい子ちゃんなら、そんなこと言われてわざわざ近づくような真似しないのでしょうけど。
廃都市は魔素の濃度が周辺より高く、珍しい異形がたくさんいる小遣い稼ぎに最適の場所。
そんな忠告知ったこっちゃないって輩は少なからずいるでしょうね。
いい子ちゃん筆頭の私は当然そんなことしないけど、世の中思った以上にお馬鹿さんが多いから・・・
なんてことを考え、しばらくその掲示を確認していれば、魔核の売却を終えたのか、ユウが足早にこちらへ駆け寄って来た。
「ここにいましたか。こちらは無事換金も終わりましたけど・・・何か目新しい話でもありましたか?」
「そうね・・・廃都市に危ないのがいるから近寄るなってさ」
「ああ、少し前から噂になっていたアレですか。結構被害者も出ているみたいですし、すぐに解決すればいいんですが」
「早々に軍が対処するって書いてあったし、多分大丈夫でしょ。それよりも、換金が済んだのならもうやることも終わったし、適当にお昼でも食べて帰りましょうか」
そうして魔核の換金も終え用事を済ませた私たちは、そのまま役所を後にし適当にお昼を済ませると、真っすぐ事務所へ帰宅したのであった。