プロローグ
「あ”あ”~しんどい・・・昨日はちょっと飲みすぎたかしら・・・」
雲一つない青空の下、降り注ぐ日差しが心地いい今日この頃。
私は生気の抜け落ちた顔をしながら、荒野の岩場に腰を下ろし明後日の方向をボーっと眺めていた。
は~いいお天気・・・
こうも晴れやかな空模様だと何だか働く気になれないと言うか、何と言うか・・・
仕事なんかで今日という日を消費してしまうのが勿体ないわね。
そんな風に、冒頭から腑抜けた態度全開な私はトバリ。
この星に蔓延る化け物・・・異形のお掃除を生業としている超絶美少女で、今日もその異形どもを狩りにこの荒野まで出張って来たわけなんだけど・・・
先にも言った通り、今日はすごーく天気が良くて何だかやる気が消失してしまい、何をするわけでもなくボーっと黄昏れてたわけなんだけど・・・その時、不意に私を照らしていた光に影が差し込み、「ん?」と思って、そのまま視線を移してみれば・・・
そこにはミミズを巨大化させたような、うねうねした気持ちの悪い化け物、砂竜が存在しており、そいつが私目掛けて落下して来ていた。
「ちょ!危なっ!」
私は急いでその場から飛びのき、落ちてくる砂竜を間一髪で回避するが、落下したそいつはよく見ると既にこと切れており、それを確認した私はすぐさまこいつが飛んできた方向に顔を向け、そこに立っている少女へ大きく声を張り上げる。
「行き成り何するのよユウ!危ないじゃないの!」
「何するのよじゃないですよ!トバリ社長は一体いつまでそこでボーっとしてるんですか!その背中の剣は飾りですか!サボってばかりいないで働いて下さい!」
そしてそれに対し更なる大声で怒鳴り返して来るのは、華奢な体に不釣り合いなガチガチの籠手を両手に嵌めた、うちの数少ない従業員のユウであり、彼女は私がここで黄昏ている間もさっきの砂竜相手に戦闘を繰り広げていて、サボっていた私への不満をあのミミズをぶん投げるという暴挙で伝えてきたのであった。
えー・・・働けって言われても、何だか今日はやる気がでないし・・・
その上私、ああいうウネウネクネクネしたミミズみたいな相手は苦手なのよ。
ってか働けとか言うそれ以前の問題に、ユウもいくら私がサボってるからって普通自分とこの社長に砂竜を投げつけたりする?
あの娘は私に対する敬意ってものが足りてないわ、敬意ってものが・・・大体昨日だって・・・
「言ったそばから何またボケーっとしてるんですか!いい加減にしないともう一体そっちにぶん投げますよ!」
そしてまたしても思考がどっかに飛んでしまいそうになる私に、本日2度目の怒声が突き刺さる。
「え~だって、ああいうミミズみたいなウネウネしたのって苦手なんだもの・・・ついでに昨日飲み過ぎたせいで二日酔いの影響もまだ少し残ってるし・・・」
『ぷぎいいいいい!ぶしゃぁああああ!』
「うわっ!しかも口からなんか出した!ヤバい!ばっちい!気持ち悪い!」
「いいから文句ばっか言ってないでさっさと働け!このアル中!」
そうやって言い訳ばかりをツラツラ並べていたら、ユウから更に怒りのボルテージの上がった罵声が飛んできてしまう。
「も~そんなに怒らなくてもいいじゃないの・・・糖分でも切れたのかしらね、はぁ」
仕方ないわね・・・さすがにこれ以上怒らせるのもマズいし、そろそろ真面目に働くことにしましょうか。
「どっこらせっと」
そんな荒ぶるユウの様子にようやく重たい腰を上げた私だけど、残っていた砂竜も既にあの娘のサンドバック状態になっていて、ぱっと見他に生きてる砂竜も見当たらない・・・
何よ、働けって言う割にあの娘ったら全部1人でボコボコにしちゃってるじゃない。
これじゃあ結局私の出番はないかしら・・・なんて思ったけど。
そう言えばあのミミズって確か群れで行動する異形だから、群れのボスである巨大な個体が存在していたはず。
と、そのことを思い出した私は、とりあえず周囲をぐるりと見渡し状況を確認してみるのだが、辺りにはユウが相手にしている砂竜の他には既に息絶えた個体しかおらず、肝心要な群れのボスが見つからない。
う~ん見える範囲にはいないわね・・・
前後左右、上にもいなくて地上に姿が見えないってことは・・・
影も形もない群れのボスに対しそのように思考を巡らせていれば、突如地鳴りのような音が地面の下から響き、一際巨大な砂竜が地中から勢いよく飛び出してきた。
「まぁ当然下にいるわよね」
それを確認した私は、即座に地面を踏み込み一足飛びで駆けだすと、その巨大な砂竜の懐へ瞬時に接近し、足を振り上げミミズ野郎の無駄に大きな横っ腹へと回し蹴りを叩き込む。
地上へ飛び出た途端いきなり蹴り飛ばされた巨大な砂竜は、そのまま真横へ吹き飛び地面をバウンドしながら転がって、私はその転がる砂竜へ追い打ちをかけるようホルスターから銃を引き抜き構えると、魔力を素早く銃へと集中させて一気に閃光を解き放つ。
放たれた青い光の弾丸は一直線に砂竜の下へと進んで行き、奴の頭部へ直撃すると轟音と共に一撃でその頭を粉砕した。
「いっちょ上りね」
頭部が無くなった巨大なミミズはフラフラ力なく倒れ込んでいき、その力尽きる様を確認した私たちはゆっくり亡骸へと近づいていく。
「最初からそうやって真面目にやってください、まったく。
それにしても・・・相変わらず凄い威力ですね。もう少し加減ってものを覚えたほうがいいんじゃないですか?
そんなことだから何度も武器を壊すんですよ?」
そして粉々になった亡骸を見ながら、ユウが何やらぼやいてくるが
「ちょっと、そんな毎回武毎回武器壊してるみたいな言い方しないでもらえるかしら。全然そんことないんだから」
「・・・本当ですか?」
「何よ?何をそんなに疑ってるのよ?」
「だって、今使ってる銃だって普段使いのものではなく、市販で売ってる汎用品じゃないですか?いつもの銃はどうしたんですか?」
ああ、これのこと・・・いえ、まぁそう言われれば確かにそうなのだけど・・・
あの銃は別に無茶な使い方して壊れたわけじゃなくて・・・
「いや、あれは別に無茶な使い方して壊れたわけではなくて・・・その・・・何ていうかあれよ・・・
二日酔いがヤバイときに、うっかり銃にゲロぶちまけたら動かなくなっちゃって・・・」
「・・・それ、本気で言ってるんですか?・・・うわぁ・・・」
馬鹿正直に理由を答えた私に対し、ユウのこちらを見る目はどんどん冷たくなっていき、終いには道端に落ちている犬のフンを見ているかのような、そんな蔑んだ目で私を見てくる。
やめて!そんな汚物を見るような目でこっちを見ないで!変な癖に目覚めたらどうするのよ!
「・・・まぁいいです。
さっさと死骸から魔核を回収して帰りましょうか、ゲボ・・・じゃなかったトバリ社長」
「!今ゲボって!私のことゲボって呼んだわね!」
そして、最終的にはゲボ呼ばわりされてしまう可哀そうな私。いくら何でもその扱いはあんまりじゃないかしら!
そんな風な私の尊厳を踏みにじるような、非道な扱いに憤慨した私は、ユウが砂竜の亡骸から魔核を取り出している間も、作業そっちのけでピーピー抗議の声を上げていたのだが、そのあまりに喧しい声に途中プッツンしたユウから「うるさい!」と頭をしばかれてしまい、ゲボ扱いを訂正さることもできず泣く泣く彼女を手伝う羽目になったのであった。
西暦2325年4月、雲一つなく晴れ渡る青空の下気持ちの悪い化物狩り・・・
そんな光景が珍しくも何ともなくなってしまったこの世界。
それが現代を生きる人々の姿なのである。
お読み頂きありがとうございます。
残念で最強なお姉さんの話が書きたくて連載させて頂きました。
仕事の合間合間で書いてますので、ゆっくりな投稿になってしまうと思いますが、
お付き合い頂ければ幸いです。