93:メッセージ
本日投稿一話目
クレイが主戦場と想定した演習場まで数キロに迫った地点
見晴らしの良い丘の上フェデンとベルザードの貴族は見下ろしていた
エパール・リザードの両種族の統一の取れたサンダン王国軍の進軍、以前であればそれは誇らしくいつまでも観たい光景であったろう、だが今の二人からは愚かな死の行進でしか無い
「説得できるでしょうか…」
可能性は無いに等しいだろう、だが同胞を説得する最後のチャンスこれは彼らに頼まれたのではない、こちらから頼んで貴重な時間を分けてもらったのだ
私達二人は彼ら、サンダン王国双方どちらに殺されたとしても文句は言えないそれでも賭けるしかないどんなに低い確率であったとしても同胞を生かすた為に
どうやら同胞が私達を見つけてくれたようだ軍馬に乗った兵士がこちらへとまっすぐ向かって来るのが見える
どうっ!どうっ!
馬を落ち着かせ兵士は私に話しかけた
「フェデン殿にベルザード殿ですな、此度はよくぞ生きて戻って来られた」
労っているようでいて侮辱しているのは兵士の機微で解る、その証拠に私が貴族だと知っていながら馬から降りる気もない、作法としてしてはならないとサンダン王国の者なら誰もが知っていること
「それにしてもよく私達であると判りましたなこちらからも我が軍が見えますが、まだまだ大層な距離、敵のなりすましとは思われなかったのか?」
服が我が国のものだからといって近づいてくるような不用心では困る、だが違った
「それでしたら我軍に伝言…と言っていいのかどんな手を使ったかは判りませぬが、空から大量にこの様な紙が降って来たのですよ」
そう言ってこちらのその伝言とやらをこちらに見せた、大量にということはあのコピー機とか言う機械を使ったのだろう
短期間で大量の紙に全く同じ文面、紙自体も高価だが同じ大量に作ることに置いてあの国に勝てる国など在るのか
「それにしても文字を覚えたての…いや子供でももっとまともな字が書けますな、これほど汚い字は中々お目にかかれまい、稚拙な蛮族ごときが私たちの文字を使うなど誠におこがましい」
いちいち嫌味なやつだ、その蛮族に囚われていた私達に対する嫌味をこれでもかとぶつけてくる…
彼らと出会う前の私もこうであったのだろうか?虫酸が走る
伝言の内容はこうだ
『我が国コンクルザディアは平和的解決を望み、温情から捕虜も解放したが願いも叶わず、戦に走る愚かなサンダン王国の者共に対し悲しくも我ら鉄槌を下さざる事、真に虚しく有るがその身を持って味わってもらう他無い、丘の上に最後の捕虜二名を返す、地獄の道の歩き方はフェデン殿ベルザード殿より聞くがよい、幸運を祈る』
ああ、クレイ殿はもう腹を括られてしまって居たのだな…我の説得で引き下がる事はないと見限ったのだ、終わった…此処に居る者たちで生きて帰れるものは幾ばくか
絶望…
「此処に来るまで一度も抵抗も有りませんでしたしな、腰抜けどものくせして口だけは達者な者共だ」
カッカッカッと笑う兵士
「フェデン殿もベルザード殿もお疲れであろう早くこちらへ」
丘を降り指揮官の待つ天幕へと…向かわなかった
通されたのは命を失う可能性の最も高い前線部隊の天幕、外には歩哨が立ち私達を守っている、という名の建前で私達を軟禁している…おのれ、私達の情報は要らぬと言うのか、愚かだ…我が国は此処まで愚かであったか
禄に尖兵を出しもせず兵士たちには緊張感もない、敵を侮る態度に言動…
「フェデン殿、少々よろしいですか」
歩哨が気になるのだろう天幕の奥に移動してベルザードが納得の行ってない顔で聞いてきた
「なぜ、クレイ殿はあんな紙を撒いたのでしょうか?、私達に期待していないのならそのまま攻め入ってしまっても良かったのでは無いかと思うのです」
確かにそうだが、此処まで来てしまえばそんな事は些細な事、大局には影響もない
「それに、もう一つ『地獄の道の歩き方』とは何だと思いますか?それも私達に聞けとは…」
ベルザードはあの伝言に何か意味が有ると考えている様だった、言われてみるとこの伝言はやけに仰々しい、クレイの性格からしてそんな無駄な事をする様には思えなかった…
伝言の紙を握りしめクレイという人間を考える、あの男は生意気では有ったが此処ぞという所では嘘はつかなかった
軍馬から王国の人口を言い当てた時も隠さずに方法を言い、奴隷という制度を露骨に嫌いながらも感情より実利を優先させる男
そう考えるとこの感情的な文面もおかしいものだと感じる
軍の上層部は何を考えているのか?いつ攻撃を受けるかも解らぬ戦場の目と鼻の先で待機していた
だが考えるには好都合、時間を与えられたことで私達二人は必死に文面の意味を考えたしかし答えは出なかった
そうして天幕に軟禁されて二日
我軍はいよいよ進軍を再開させる、その間彼らからの攻撃は無く
「引き籠って縮み上がっているに違いない」
兵士たちは放言を放ってはゲラゲラと、これから先に戦場が有るとは思えない笑い声を上げていたが私達二人にとってはそんな事などもうどうでも良かった
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