92:カウントダウン
本日投稿2話目
急転直下、どんなに平和と口に出したところで世の中そうは問屋が卸さない
「馬鹿な、どうしてそうなるのだ!」
駐屯地の隔離病棟を訪れていたフェデンのおっさんは頭を抱えていた
病床で包帯まみれで横になっているのは以前送り返した捕虜の一人
彼がサンダン王国に着いたときには早馬で事態を知った国王や貴族達が戦争をする意志を固めた後だった
実戦で相対した彼からすれば百や二百の兵でどうにかなる相手ではないあまりにも無謀、具申しようにももうその時期はとうに過ぎていた
だがおかしい、早馬に乗って伝えに行ったのフェデンの次に力を持っていた信頼に足る貴族であった、それなのに戦になるにしても準備が速すぎる、後から徒歩とは言え彼らは一月掛けずに強行軍で帰ってきたというのに相手の事もろくに知らないまま既に戦の準備が始まっていたのだから
それから彼はサンダン王国をかろうじて脱出して怪我を負いながらもここまでたどり着いた
俺の頭にあのダークエルフの影が過る、最初から仕組まれていたんだそもそもあの魔物の大群の時点で可怪しかった
フェデンのおっさんが誰から指示を受けて魔物の討伐に来たのかこの状況なら話してくれるかもしれないがそれは今じゃなくていい
隔離病棟を出て執務室まで全員で戻る
「ノウミさん手筈通りに」
以前感じた違和感、それがこれなのかは判ってないが少なくとも九七式57ミリ野砲を急いで生産した意味は有った
「クレイ殿待たれよ!いかがされるつもりなのだ」
「勿論こちらの被害を最低限に抑えるだけです」
「それは…我が同胞を…」
「残念ながらその選択肢を選んだのはそちらの国です」
「待て!待ってくれ、旧来の戦ならそれも致し方ないがあまりにも力が違いすぎる、これはもう戦ではない虐殺ではないか!」
俺はフェデンの胸ぐらを掴む
「虐殺だと!俺達がそんな事を望んだとでも?話し合いを拒否したのはそっちじゃないか、それを棚に上げて慈悲を願うのか、ふざけるな!」
そのまま突き飛ばす、もんどりを打って倒れたフェデンはそれでも俺の脚にすがりつく
「どうか!どうか頼む、頼みます、何かなにか手がまだ残っているはずです、せめて出来る限りでいい彼らを助けてくれ、お願いですから」
「クレイちゃん、本当にどうにもならないのか?」
「ノウミさんまで…状況わかってんですか?向こうは殺る気でこっちが皆殺しにされるかもしれないって時に日和らないで下さいよ」
「ミュレッタ!ツァーミに念話して国王に連絡、前線に出れるものを駐屯地に集めるように伝えて、それからありったけの兵器と弾薬もかき集めさせて、建機部隊は通常の業務は中止して演習場で待機、主戦場は演習場を想定、アウトポストは旧ホビット集落、それから…」
矢継ぎ早に指示を出して会議室に移動する、うなだれたまま付いて来ようとするエパール族の二人には入室禁止を申し渡す
もう楯突く気力もないのか大人しく牢へ連行されていった
久しぶりの先遣隊、ノウミさん・ヤノット・スワンザ・欠けているのはシュナとミュレッタだがミュレッタの代わりにメーベが入る
任務内容は斥候と爆薬の設置、できる限り遠くまでドローンを飛ばして進軍の状況を把握する事とありったけの爆薬を設置してきてもらう、もちろん敵も斥候を送り込んでくるはずだから戦闘になる可能性もある、決して安全な任務ではないがやってもらうしか無い
幾らチハから無限に砲弾が湧いてくると言っても量産している野砲にそこまでの耐久性も無ければ連射性もない、生産出来た数も15門しか無い、足回りまで出来ているのはたったの3門、12門は固定砲台でしか無い
短期決戦に持ち込めなければこちらに有るのはチハが一両、三八式歩兵銃、ISR-01レバーアクション歩兵銃、散弾銃、コンパウンドボウで戦うしか無い、馬で突っ込んでこられると厄介だが
そうはさせない!完膚なきまでに叩きのめす、戦ったら絶対に死ぬのだと恐怖を植え付けさせなければならないのだ
単純な兵器ではなくなにか奇策が欲しい何かないか?、、、、そう言えば海外の実験番組で…
有るじゃないか…とっておきのヤツが
俺の顔を見たヤノットがギョッとしてため息を付くと
「お前嫁さんの前では絶対すんなよその顔」
「いやどんな顔してる?」
「魔王」
魔王って見たこと有るのか?っていうか魔王居るのかこの世界?
「じゃあ、行ってくるわ」
装備を整えたノウミさんが軽く手を上げて部屋を出かけたところで今回は部隊から外れるミュレッタが背中からノウミさんに抱きついた
「ご武運を」
振り向いたノウミさんが彼女にの口唇に口づけをした、ミュレったが好意を寄せているのは知っていたけどノウミさんがはっきりとみんなの前で態度に出したのは初めてじゃないだろうか
ノウミサンは彼女のお腹に顔を当てて
「絶対帰ってくるからよ」
あれ?、そういう…うちの嫁さんと同じ?だよな、あそこまでやっておいて中に誰も居ませんよは無いよな
ノウミサンを筆頭に先遣隊は今度こそ部屋を出ていった
「ミュレッタ、その…おめでとうございます」
「はい、ありがとうございます…あの私覚悟してますから!」
そんな事言わせるつもりじゃなかった、旦那を最前線に送り出しておいて虫のいい話し…か
「ミュレッタ約束する!絶対に先遣隊は無傷で撤収してくるから、安心して待ってて」
「約束ですよ」
そう言って彼女がぎこちなく見せる笑みには光るものが有った
「ああ絶対に守るよ、そのために念話をしてもらいたいんだけど良いかな」
「勿論です」
パンパンと自分の顔を叩いて気合を入れ俺は必勝の作戦に取り組み始めた
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