80:接待
大将がチート級
見学も一段落したので二人には迎賓館…と言うには程遠いが客人用の防犯対策済みの社員寮の一室に待機させた
もし国交が成立すればサンダン王国の要望も有るだろうがコンクリート製のバリケード辺りから売り込み始めることになっている
彼らの様子からしてサンダン王国にもコンクリート自体はあるようだが質・量において明らかにこちらに分があるのは判る、普通の人はコンクリートはコンクリートでしょと思うかもしれないが、高温・高圧の蒸気釜によるオートクレーブ養生という製法により高強度且つ早期出荷ができる
まぁあの感じだと鉄筋無しとかモルタルの様な扱いがメジャーな使われ方何じゃないかとも予想してる
必要な型枠はドワーフに作ってもらいメンテナンスも彼らにしてもらうことでwin-winの関係が築けているのも強みだ、元々凝り性なドワーフならばサンダン王国から要望のコンクリート製品の型枠も作れるだろうから問題ない、こちら要求に答えてくれるがいつもそれ以上を目指そうとするのが玉に瑕だが工場との相性は良いし、半自動溶接の腕前はもうこちらよりも上手い
ホビットの繊細な技術を使えば工芸品としての価値も付くかもしれない
交渉が上手く行ったとしてもいちばん重要なのは『街道整備』これが出来なければ宝の持ち腐れ、重機は勿論20t積める自慢のトレーラー(トラクタ)も走れる道路がなければ意味がないからだ
個人的には胡散臭いので国交自体は結べなくてもいいと思うが敵対よりは中立、中立よりは友好な方が良いから遺恨が残るような交渉は避けたいと思ってる
運送部の事務所に戻るとシュナと珍しくノウミさんが待っていた、駐屯地の方は大丈夫なのかな?
「工場長の準備は済んだの?」
「今頃は工場長ご自慢の珈琲豆でも選んでるんじゃないですかね」
駐屯地でサンダン王国には珈琲があることも判っている、一応インスタントの紅茶と珈琲を出してみて珈琲が有ることに逆に驚いていたからね
工場長の部屋に有る種類も豊富な大好きな珈琲の豆とミルをセットで送ると工場長は息巻いていた、まあ接待だからね
「晩餐?は大将の所?」
「そうですよ、あの人今でこそ小さな居酒屋の大将ですけど元は大手ホテルのケータリングのトップですからね」
「それって凄いんですか?」
聞き慣れない言葉だからだろう、シュナが興味を持ったので説明してあげる
「うん、めっちゃ凄い!日本の◯家…う~んわかりやすく言うと王族の血を引く高貴な人たちと言えば良いかな」
旧◯家とかどこぞの会長だのをもてなしていたプロ中のプロなのだ、今は独立して一国二城の主それはそれで格好良い
「今日は貸し切りだそうでドワーフのみんなをなだめるのに必死だったらしいですよ族長と息子のヤノットだけ行けるのずるいって」
「クレイちゃんもその席に呼ばれてるんでしょ、俺も行きたかったなぁ」
「駐屯地の業務に支障がなければ一緒に行きます?接待はつまんないんですよ」
GOサインが出るとは思っていなかったのかノウミさんは驚いたが
「クレイちゃんがそう言うならつまんないんだろうね、止めとく」
ちょっと期待したんだけど残念
まだ夕方の4時を回ったところだけど仕事は終い、神社に宮司さんを呼びに行って一緒に大将のお店へ
店に到着するもまだ工場長も御一行も来ていない様だドアを開ける
カランカラーン♪
「大将、準備は万端?」
「任しといてよ!」
自信満々、腕をパンパンと大将が叩いて見せる
「今日はドワーフのゲンさんが仕留めたホーボー鳥が入ったからね」
筋肉質のゲラ鳥とは違って丸々と肥えているのが特徴の名前に鳥と付いているが一応魔物
他の魔物と共生関係を築くらしくその御蔭で肥えているそうだ
「こういうのって食べた事ないあっちの料理が良いんじゃないの?」
大将が某変幻自在の殺人マシーンのようにちっちっちっと指を動かす
「相手を立てることも重要、クレイさんもこっちが凄いんだって一方的に押し付けられるのは嫌でしょう?」
たしかに一理有る、散々見せつけた後だけど
「国際的な外交においてフランス料理が重宝されるのは何故か…そして格付けに用いられるのは」
いかん始まっちゃう大将の外交料理談義が…
カランカランーン♪
助かったというべきか捕虜改め大使二人の到着だ
「いらっしゃいませ!」
一瞬で切り替えてる大将流石だ、座敷に通されて畳を不思議そうに見る御一行、オークも最初同じ反応だったな
お通しに出たのはホーボー鳥の鶏皮のポン酢和え
通訳のシェリルに説明されて大使達が胸をなでおろしているのを見ると大将の言う意味がわかる、未知の食材はどんなに自分たちにとって慣れ親しんだものでも有る種のゲテモノ料理になりかねない、相手の知ってる食材ならばその意識も多少は薄れるし、それを調理できる人間なら信頼してもいいかなと思えるものだ
食材は知った物で味付けは未知のものとなれば興味も湧きやすい大将さすが!
食前酒はとっておき(といっても飲み干しても次の日には復活しているんだけどね)の山梨県産の赤ワイン、ポン酢に赤ワイン…大丈夫なのだろうかと一瞬よぎるが大将を信じよう
まずは乾杯、結果は聞いていないが工場長の様子からして問題ないだろう…多分…きっと
フェデン大使は手慣れた感じでワインの香りを嗜む、嗜むというのが似合うのだそういや貴族だった、こういった仕草一つでも相手の格というのが判るのは取引先との飲みに連れ回してくれた社長に感謝、多分もう逢えないけど
ちまたじゃ飲みニケーションだのなんだの言うが酒の席の相手の態度というのは素や格が見え隠れする
ばっかばっか飲んでも一線を越えない人も居れば今後のお付き合いはちょっとという人まで酒を酔っ払うためだけの道具ににするのも相手を見るツールとして使うのとでだいぶ違うものだ
大使は一口飲んで目を細めるこれはどっちの反応だ?感じとしてはまだまだ序の口と言った感じだが…
続いて大好物の上シロがやってくる、少しは接待を忘れられそうだ
!?なんだろう何かいつもと違う気がする食感は同じなのだけれど…
猿人貴族達は褒めているので問題ないが、違和感がある
大将はしたり顔、後で教えてもらおう
フェデン大使に対して貴族は貴族でも小倅らしいベルザードにはまだ酒の嗜みには経験が浅いみたいだが酒を覚えたての若者らしくて嫌な感じはしない、あっさりと飲み干していた
節操がないかもしれないが我が国の事を知ってもらう席、大将の奥さん、女将さんに目配せをすれば今度はビールだ
「お連れの方もどうぞ」
そう言って瓶からとくとくとベルザードのグラスに黄金色の液体を注げば
「女将、其の者はまだ若く酒の飲み方をしらんのだ、あまり飲ませないでやってくれないか?すまんな」
シェリルを介した大使の言葉に女将さんは思案顔
「えっと、それなら…」
そう言って女将さんは受験生必須アイテム?大将いつの間にそんな物まで用意させてたの?単語帳をペラペラとめくってたどたどしく説明をする
「これは…アルコール…酒精のないお酒そっくりの…飲み物です」
「なんとどう見てもエールではないか!女将を疑うわけではないが…」
「大使さま、向こうの世界では飲みたくても仕事の関係上こういった物が開発されたのでございます」
シェリルが助け舟を出す
「そんなものまで有るとは、しかしもてなされたのを無碍に断るのも忍びない、ベルザードお主飲んでみよ」
何言ってるのか判らんがなんとなく俺の時と態度がちがくね?
「これ酒精本当に無いのですか喉越しは本物にしか思えません」
「貸してみろ」
ノンアルとビールを飲み比べるフェデン大使
「どう…ですか?」
たどたどしいが覚えたての猿人族の言葉を喋る女将のもてなしの態度にご満悦のようだ、わかりやすい簡単な単語で女将に礼を言っているようだった、大将の仕込みが凄い…
細々と料理が運ばれ大使も程よく上機嫌になったタイミングで
メインディッシュの登場
モツ鍋のご登場だ…
なんだろうさっきの違和感が再び訪れるがやっと解った
上シロも他の料理も赤ワインの香りがしたのだ、ほんの微かだが
モツ鍋にも隠し味程度だが赤ワインが入ってる
大将は相手の味覚を刺激する為に赤ワインをずっと少量混ぜていたのか
交渉事の成功は己のプライドよりも相手の満足、恐るべし大将
そして鍋を食べ終え締めの雑炊を食べた後に
「今度来る時は本当の大将の味を楽しみたい」
と言ってのけた、それを聞いてフェデン大使も結構ちゃんとした貴族なんだなとクレイは失礼な事を思うのだった
大将の設定都合良すぎじゃね?と思うかもしれませんが実在の知り合いをモデルにしています
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