79:神様じゃないんで誰にでも優しくは出来ません
「あの、よろしかったのですか?」
魔封じ(魔力封じ)の腕輪を付けた後さったと部屋を出た俺にシェリルが聞いてくる
「いいのいいの、ずっと話したところで互いにエスカレートしてろくな事にならないから、それに墓穴ほって変なこと喋っちゃっても良くないでしょ?」
「それはそうですけど…」
シェリルはあの態度で来られたというのに申し訳なさの方が先に来るようだ、おもてなししなきゃいけない相手になら判るがあくまでも捕虜、一線は引いておく必要があるんだけど生来の性格かな、この仕事には向いてなさそうだけどなにせ人手が居ない、しばらくは我慢してもらうしかないな
工場長たちにも報告しないといけないし念話で集めておいて貰うようにお願いしとくか、シェリルからシュナに伝えて置いてもらい事務所へと急いだ
「結局なぜこちらに手を出してきたかは判らずじまいということかね」
「ですね、ですが十中八九ダークエルフも絡んでるでしょう捕らえた貴族がそこまで知っているかどうかは不明ですが」
「族長やオルドア殿はその猿人族についてはなにか情報はお持ちではないのか?」
二人共首を横に振る、この世界の種族って結構生活圏が狭いと言うか聞いた限りでは長旅をするのは賢狼族とエルフの男性くらいしか無いんだよな
「問題は講和に持ち込んで国交を結ぶべきか否か、出会い方も悪く国民の反感も買いかねないので相手に欲しい様な輸出品が有ったとしても国交を結ぶのはリスキー」
「捕虜と今度やって来る使者から上手く情報を引き出して判断しろと…」
「まあそういうことです、基本彼らには監視は付けたままですが行動はフリーにして反応を見ようと思ってます」
「重要なポイントさえ見せなければそこまで気にすることもないでしょう、喋らなければ恩着せがましく嫌味でも言って送り返せばいいでしょ」
「クレイさんなんかあの猿人にキツくないですか?」
「喋り方とか態度とかが嫌いな現場監督に似ててさ」
「八つ当たりじゃないですか!」
シュナに怒られた…
「クレイくん彼も根は悪くないんだよ」
別に誰とか言って無いんだけど工場長は誰を想像したのか?見透かされたみたいでちょっと腹立つというか想像つくんなら注意してくださいよ…もう会うこともない奴だからいいけどさ
「アレルギーで死なれても厄介だから食べ物には気をつけるとして行動は実験動物よろしく逐一記憶しましょう」
「その人のことよっぽど嫌いなんですね…」
シュナは怒っていると言うより呆れている気がする
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トラックの荷台…ではなくミニバンの座席という高待遇でやって来た猿人貴族二人はまずその入口に驚いている、まだまだ序の口なんだがこんなんじゃ工場見たらショック死するんじゃなかろうか
「おい!この白い壁は一枚岩を切断したのか?」
お~お~態度のでかい囚人だこと、シェリルが通訳してくれるがコンクリート見て喋ってるんだから大体何を言っているのか想像はつく
「そんな分け無いでしょう馬鹿なんですか?猿なのに」
おっと思わず嫌味が、まあ日本語判らんだろうしシェリルも真面目に訳さない!
「コンクリートだって伝えて、我が国の特産品だって」
シェリルの通訳でコンクリートに興味を持ったようだが俺のことは睨んできた、悪口に言語の壁はないみたいだ、確かに何処の国の言葉でも馬鹿にされた時って何故か判るしな
コンコンパンパン叩いて強度を神妙な顔つき?で確認している、コンクリートはこの世界でも売り物になりそうだな
資材を載せて駐屯地へ向かう大型トラックにも驚いていた、戦闘中に魔物を一網打尽にした所こいつ見てないのか、身分は高くても無能なタイプなのか?益々向こうの世界の奴を彷彿させて来るな
いかんいかん、こいつは奴じゃないんだからもっと冷静になろう、通訳のシェリルにも迷惑がかかる
しかしどう接すればいいものか…もうなんか面倒くさい誰か他の人に振りたい、シュナが変わろうかって言ってくれたけどそれこそ絶対に嫌だ!
向こうの世界の奴と似ているのを無しとしても何ていうんだろうね理屈じゃなく馬が合わないとでも言うべきか…猿だけど
シェリルの顔に緊張が滲んでいる、工場の説明で機密を通訳してしまわないか心配なんだろう
「問題ないから、俺が言ったことを通訳するだけなんだからそんなに緊張しない」
「は…はい」
機密の含まれる工場見学までが俺が解説を担当する、その後は駐屯地と同じく護衛と監視は武力のスワンザと魔力兼通訳のシェリルの二人におまかせでお役御免なのだ、早く仕事を終わらせてシュナとイチャイチャ…癒やされたい
城壁程度に驚いているのならば工場は機械類が動いている所を見せる分には脅威を感じることは出来ても原理と動力にたどり着くには至らないだろうということで工場長からも見せつけてやれとのお達しがでているが馬鹿正直にすべてを説明などしてやらない
案の定、クレーンで運ばれる巨大な金型に1本数tのコンクリート製品を抱えて走る15tフォーク、殆どが人の手を借りず油圧と電気で動く様々な機械を見た猿人貴族は無言になっていき俯き、所々で元気無く説明を求めてくる、返答してやれば更に俯きドンドン退化じゃなかった二人して背中を丸めて縮こまっていく
相当ショックだったみたいだが、おかげで向こうの工業レベルをイメージできた
次は農地の見学、落ち込んだ様子に申し訳な…くないな性格悪いと言われるだろうが所謂『ざまぁ』をリアルで見続けたくなって農地見学にも付いて行った
収穫を終えた麦畑を見てホッとした様子からして農業の規模ではコンクルザディアより大きいと、だがビニールハウスを見てまた落ち込んでいる、規模だけで生産性についてはうちが勝っているみたいだな
途中で立ち寄ったパン屋でも貴族らしい振る舞いもなく香ばしい香りに負けて
「フェデン殿これは絶品です!」
「なんとも食欲をそそる香りにこの焼き方はなんだ?!」
二人してカレーパンにがっついているのを見るとサンダン王国とやらの貴族制度に品が感じられなくて貴族とはなんぞや?という気持ちになる始末
まあこれはこれで楽しみが増えた、なにせ今日の締めくくりは賢狼族を骨抜きにした定番の温泉からの大将のフルコースが待っているのだから
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