66:割れる
本日投稿一話目!15時頃には二話目を投稿できると思います
困った事態が起きた
チハ君の履帯、一枚一枚で言えば履板なのだけど…割れた、割れた履板を取り替えたら今度は転輪が割れたしっかりと硬化の魔法陣を刻んであるのにだ、急遽取り組む課題になってしまいチハ君は工場に逆戻りうなだれているみたいに下を向いた砲身を見ていると申し訳なくて早く課題をクリアしなければと気が早る
研究棟にはコンクリートの硬度を測るための機械がある、それを使ってもっと硬いパーツ作りを始めた…が上手く行かないどんなに硬化の魔法陣を重ねがけしても割れてしまうのだ、もっというと固くすればするほど割れてしまう
なんでこんな事が起きてしまうのか意味もわからないから解決策も思い当たらない、手がかりが欲しい
「粘度ですかねぇ」
品管主任さんからの一言、私はただ硬くすれば良いと思っていたけどそれが間違いなのだと言う
「剛性、もしくは柔性、かかる力の方向にもよりますから軸変形、曲げ変形、せん断変形、ねじり変形といった感じで強さを計るのですよ、今までは設置するだけで良かった製品で硬くするだけで良かったのですがチハの場合は動いているわけで…」
「毎回違う力が掛かるわけですね」
「ええそうです、コンクリートもそうです、簡単に言うとコンクリートは押される力に対しては強いですが引っ張られる力に対してはそこまで強くないのです、鉄筋を入れるのは逆の力を持つ鉄を入れることで耐久性と耐震性が上がるからなのですよ、厳密には高度な計算による設計が求められるんですが大雑把に言うとそんな感じです」
なるほど、硬くすればするほど折れやすくなってしまうのか…
「今回は素材が鉄ですし剣で例えると分かりやすいかもしれませんね、バランスの問題になりますが硬すぎれば剣と剣同士がぶつかれば衝撃を逃がせ無くて折れてしまい、柔らかすぎるとひん曲がってしまう、どちらにしても使い物にならないわけです」
「ありがとうございます」
「いえいえ、もっとも魔法や魔力というものを計算式に組み込むのは我々には出来ないことなのでこれくらいしかお役に立てなくて申し訳ないです」
「そんな事無いです!本当に助かりました」
謙遜しているけどやはりその道のプロ、着眼点がそもそも違うもの、鉄に精通しているドワーフならこの問題も最初から理解していたかもしれないし
こうして粘度という概念を知った私は以前作った、とり餅のようなくっつくコンクリートの魔法陣の一部を取り込んで粘りの有る強化鉄の研究に取り組んだ
「待たせてごめんね」
チハ君に謝ると砲塔を左右に振って気にしてないみたいなリアクション、ちょっと可愛くて喋れたらもっと良いのにねと思ってしまう
こうして新たな履帯を取り付けてごきげんに走り出すチハ君、ボディの方も新規で作り直している最中だけどこっちは後で取り替えるので現行のボディでお仕事に復帰、ホビットの兄弟ジェイルとケイルにはデータ取りも兼ねて一日の終りには運転日報(日常点検)を出してもらうようにした
いよいよ雨季に入り工事関係は中断、それでもビニールハウスの方は日照不足以外被害は出ていないのだから充分役に立っていると言えるでしょう
今までは雨季の後が収穫時期だった作物達も二毛作やビニールハウス栽培のお陰で収穫は倍増していて工場長さんがオーク達に言った
「一年我慢して下さい」
の公約は無事果たされたと言って良いと思う
十分な収穫が見込めることになり大将さんの一号店も復活、二号店の方も配給扱いから紙幣を使っての商業営業に切り替わった
そして紙幣にも変化が起きた細かい作業を得意とするホビットと工業のドワーフの手により独自紙幣の開発と印刷機の製造に成功したのだ、従来のコピー諭吉ではなく一万円札には国王である工場長さんのイラスト、五千円札にはドワーフの族長、そして千円札にはなんと私…恥ずかしい
印刷機と言っても手動だからムラもあるし印刷するのにも時間がかかる、それでもオリジナルで作られる為、コピー諭吉とはやはり存在価値が段違いなのだ
硬貨の方も五百円玉の表にはホビット、裏面には糸紡ぎのスピンドル、百円玉の表には盛られた土の山のように見えるけどこれはセメントを表していて裏面には鉄筋をモチーフにした絵、五十円玉の表には溶けた鉄を裏面は麦、十円玉は表にチハ君を裏には三八式歩兵銃と剣がクロスした絵、1円玉は存在しない、コスト的に見合わないという事らしい
コピー諭吉達旧紙幣は随時交換して廃棄、さようなら諭吉さん
造幣局も作られて雇用も増えた、少々手狭になってきた現在のコンクルザディアは雨季開けにコンクリートの壁を一部取り払い拡大する工事が予定されている
なし崩し的に作られた建物も多いことから改修や再配置、建造と建設ラッシュの予感にコンクルザディアは雨季のうっとおしさとは逆に静かに熱気を帯び始めていた
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