60:チハと記憶の宝玉
本日も一話のみの投稿、体調回復するまではご迷惑かけますがよろしくお願いします
「ち~は!」
小人族の子どもの呼びかけに砲身が答えるように微かにだが下がって上がる
だけど誰かが動かしているわけじゃない…勝手にそうしたのだ戦車自身がである
まだ半分埋まった状態の戦車
「確かにチハだわこれ…勝手に動くのは意味わけわからんけど」
正確には九七式中戦車という名称なのだとクレイさんは言う
「ちーは、出たい」
子どもの声に呼応するように動く砲身
「でもなぁ、抜け出した後暴れんじゃねぇかこいつ?」
今度はいやいやをするように砲塔が左右に振れる
「この様子じゃ大丈夫じゃないですかね」
こくこくと頷く砲身
結局岩や土砂を取り除く事になり、チハは大人しくショベルカーの到着を待ち、現れると友達でも見つけたように激しく砲塔が揺れたけどしばらくするとまた大人しくなった
自分と同じ様にコミュニケーションが取れるかもと思ったのかもしれない
土砂が取り除かれると早速動き出すチハだったが、不快な金属の摩擦音にクレイさんが待ったをかけた
「待った待った、いろいろと噛んじゃってるからまだ動くな綺麗にしてやるからもう少し待てって」
長い事埋まっていたのだろう、駆動部に噛んだ土砂だけでなくサビや腐食も目立って機械なんだけど痛々しく感じてしまうのは意志を持っているからだろうか
「この子治りそうですか?」
私の問いかけにクレイさんは難しそうな顔で
「これは低床トレーラーに積んで工場まで行って機械使わないと無理かも、おいしっかり直してやるから大人しく出来るか?」
「…」
少し間が有ったけどこくこくとチハは頷いた
「今、間が有ったよね…怪しいな置いていくか」
クレイさんが冗談交じりに脅かすと今度は焦ったかの様に素早くこくこくと頷く、ちょっと子供みたいで可愛い
伐採の後、鉄板を敷いてギリギリまで低床トレーラーにバックで来てもらう、ギャリギャリと不快な音を立ててなんとかトレーラーに乗るチハ、可哀想だが自力で頑張ってもらおう
なんとか乗り終わったチハはブスン!と一呼吸?すると止まってしまった
「そういえば、お前…」
中に乗り込んでバンバンとそこかしこを叩いたり蹴ったりする音が聞こえたあとに戻って来るクレイさん
「当たり前だけど多分燃料入ってなかった益々訳が判らん」
「クレイさんでも判らないんですか?」
「見た目でチハだって事は判るけど中身までは流石にね」
まあいいかといった感じでチハはそのままトレーラーで連れて行かれた、バイバイでもするように首じゃなかった砲塔を左右に振りながら砲身も一緒に上下させていたけどね
第一回目の里帰りだと言うのに大事になってしまったわ、他にも何かあるか?とまっちゃんさんが小人族に聞いてみたけどみな首を横に振るばかり
でもあの子供はチハとコミュニケーションが取れていた、あの子は何か特別なのかしら…あれ?あの子何処に行ったの
ここまで連れてきた子を探しても見つからない、小人族に聞いても誰の子だったか思い出せないというそんなことって有る?一体何者だったのか…
「さて、やっと手も空いたしここを調べてみますか、シュナ光の魔法で照らしてもらえる?」
チハの事で頭も手も回っていなかってけど土砂を除けた先にはちょうどチハが入れそうな穴、もしかしたらここから出てきて土砂崩れに巻き込まれたのかしら
魔法で照らしてみると奥まで続いているようだった
「これはノウミさん達にも来てもらった方が良いかなぁ」
チハの様子を見ていると悪意のある存在は居ないような気もするけど用心しないよりは良い、私達と先遣隊からノウミさんミュレッタの二人に付いて来てもらう
地面にはチハの足跡…無限軌道の跡が残っている、やっぱり外に出ようとしたのかな
穴は外から見えたのとは違って奥に行けば行くほど近代的な作りに変わっていき人工的なものだと判った
「クレイちゃんちょっと待った」
「どうかしました?」
「うんちょっとね見覚えがあるんだわここの作り、エルフの里の地下にそっくりだ、もしかすると」
そう言って壁を調べ始めるノウミさん、やっぱりねといった顔で音の違う壁を見つけた
「この向こうに空間がある、行ってみるかい?」
「せーの!」
掛け声とともに全員で思いっきり壁を蹴っ飛ばす、簡単に壁がズレて皆でバランスを崩して中になだれ込む
「イテテ…シュナどいてもらえる?」
回転式の隠し扉だったみたい…次からはもっと慎重に行こう
照らし出された隠し部屋の中にはエルフの里に有ったような宝玉、相変わらず私やミュレッタが触れても何も起きなかったけどクレイさんとノウミさんには記憶のようなものが見えたらしい
その宝玉の映し出す記憶はエルフと共に旅をする日本人らしき人、らしきという表現になってしまうのは記憶の持ち主の視点なため顔が見えないからだ
どうもあのチハは最初から記憶の持ち主の持ち物だったわけではないらしい、旅の途中で見つけて一緒に旅をしている記憶が有ったのだという
それだけでなくダークエルフの赤ん坊を二人で育ている記憶、そのそばにはチハも居て既に勝手に動いていたみたい、勝手に動き出すまでに何が有ったかは判らずじまい、ただ小人族達との記憶も有ったことから交流は有ったみたいだった
「もしかしたら、陸軍の敷地に戻ろうとしてたのかもね」
まだ検証していないけどあの陸軍の土地にも丘と同じ力が有るとすれば安住の地だと思ってもさもありなん
結局見つけ出せなかったのか、身重の妻のことを考えて諦めたのか理由はわからないけれど異世界人とエルフの夫婦は小人族と交流しながらこの地に暫くの間住んでいた様だった
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