52:賢狼族の旅人
三章開幕です
おまたせしました、少々体調が悪く更新遅れてすいません
春を迎え山の雪も殆ど見かけなくなり道路の延伸と地図作りが再開、現在は便宜上の北の6ブロック目に入っていた
道路の北端にピックアップトラックを置き眼の前に広がる大森林へとノウミを先頭に進む先遣隊、未だに別の種族に出会えないどころかそれらしき痕跡すら出てこない出てくるのは
グゥルゥゥゥ…
魔物くらい、接近を許し不意をつかれてしまったが飛びかかってきた魔物に丸太のような腕が振り下ろされる
「戦いやすい」
真新しい鎧を着込んだスワンザの右腕の一撃に悲しげな断末魔を上げて魔物は息絶えコンクルザディアへの土産が増えた
鋼鉄製の鎧に手にはチェンソー、背中には散弾銃、腰にはコンパウンドボウと短刀、歩く武器庫と言ってもいい、もっともチェンソーに関しては
「変なもの切っちゃ駄目だからな」
とクレイから念を押されているから武器ではなく伐採限定の道具だ、その巨体が故にオークの手は道具のメンテナンスには向いていない、メンテはクレイがしている
チェンソーは目立てと言って刃をヤスリで研ぐのだが研ぐ角度を間違えれば逆に切りづらくなり刃が直ぐに駄目になってしまうため繊細な技術と経験が必要だからだ
10メートルほど進んでは木を切り後続の道路舗装部隊の目印にしている、当然音もでかいので魔物を引き寄せてしまうのだが、逆手に取って魔物を狩猟して回り一石二鳥
それが日課なのだが…
ぶはぁ!トラックの荷物箱から小さな影が飛び出した、仔たぬきズの長男アーミンが隠れてついてきていたのだ
誰も気づいていない事を確認したアーミンはそろりそろりと慎重に先遣隊の後を追う、以前もこっぴどく怒られたというのに懲りないと言うか直ぐに忘れてしまうというか…
動物形態ならまだまだ小さい仔たぬき、先遣隊のメンバーが気づかなかったの仕方がないと言える、そして鼻が効くこの子は風下について先遣隊の後を見つからぬように進む、大人たちの武器にも興味津々でも射撃場などにはいれてもらえないが故にどうしても見たくて隙をついて付いてきてしまった
きっかけはいつもどおりと言うか、『兄弟の中で誰が一番勇気があるか選手権』でこれなら絶対一番だと思ったわけである
なにか証拠となる物を採ったらまた道具箱に戻ればいいそんな簡単な考え、順調に先遣隊の後を追いながら良さげな証拠を探していると不思議な形の石
誰かが作ったような四角い石、途中から折れ残り半分は埋まっていてご丁寧に印まで付いているこれならと思ったけど想像以上に重くて諦め別のものを探し始めると変な匂い、あの温泉とも違う美味しそうな匂いに釣られ先遣隊とは別の方へと外れていく
「しっ!今なにか聴こえた気がします」
ミュレッタの言葉に一同が足を止め耳を澄ます
「魔物か?」
「いえ何か言い争っている様な感じです」
ノウミは声を出さずハンドサインでミュレッタの指示する方角へと進む
「離せよ!」
「うるせえクソガキ!静かにしねえと食っちまうぞ」
段々とはっきりと聞こえてくる争う声
「この声…」
生まれたときから一緒にいるミュレッタがアーミンの声を間違えるはずもなく
「アーミンです急ぎましょう」
「なんであの小僧が」
「分かりませんがクレイさんの件もあります、また連れ去られたりでもしたら」
ノウミが声のトーンを落とすように指示する
「それならなおさら落ち着け、声の方向は正確に判るのか?」
「はい」
「逃げられないように囲む、いいな」
全員が頷き声の位置を囲むように展開する
「人の飯取ろうとしやがって、俺がどんだけ苦労したか判ってんのか!」
「しらんがな」
「てめぇ、その耳お前も獣人なら今が厳しい季節だって、いやお前ずいぶんと肥えてやがんな、なんか腹立ってきた…お前の家を襲えば飯が手に入りそうだな、おい小僧お前の家まで連れて行けそうすればお前を食うのは止めてやる」
「し・ら・ん・が・な!そんな事言われて家につれてくわけないじゃんお前馬鹿?」
一体何処でそんな言葉覚えたのかミュレッタは悲しくなったが助けるのが先だ
充分近づいたが相手は興奮しているせいかこちらには気づいてない各自武器を構え終えノウミが頷くゴーサインだ、一歩踏み出し姿を見せる
「その子を離しなさい」
「ミュレッタママ…」
明らかに気まずそうだけどそれどころではない、賢狼族がつまみ上げたアーミンとミュレッタを何度も見比べる
「何だお前捨て子か、エルフに飼われてんのか」
「誰が捨て子だ!臭えんだよおっさん」
これは帰ったらメーベ様に説教してもらおうと思うミュレッタ
「誰がおっさんだ!私は女だ!」
「…」
目を丸くして黙ってしまうアーミンに
「何だその信じられないものを見たような目しやがって、余計傷つくじゃねぇか」
「いいからその子を離して、話はそれからよ」
「なんだ私が悪者みたいに言いやがって、大体このガキが飯を盗みやがったからこうなってんだぞ!」
「いや、誰もいなかったし」
「勝手に飯が出来るわけねぇだろうが」
「本当なの?アーミン答えなさい」
あまり怒ることのないミュレッタの刺すような視線に目をそらすアーミン
「…本当だ…です」
先遣隊のメンバーが武器を降ろし
「うちの子がご迷惑をかけたようですね、申し訳有りません代わりの食事をお渡しいたしますのでその子を解放していただけないでしょうか」
突然の丁寧な言葉づかいに賢狼族の女は拍子抜けししたようで
「か、代わりってどんな飯だよ、こちとら三日ぶりの飯だったんだしょぼいもんなら許さねぇぞ」
ミュレッタは自分の昼飯を渡そうとすれば
「投げてよこせ」
用心深い…
投げるのもどうかと思ったので今日の弁当と水筒を地面に置いて下がる
弁当箱を取った賢狼族は開け方がわからないようで、両手で開ける仕草をして見せた
「何だこれ」
今日のお弁当はゲラ鳥のチキン南蛮弁当、用心深さよりも見た目に負けたようだ手で掴んでがっつく賢狼族もう夢中だこちらに見向きもしない
「あの」
んぐぐ!声に驚いて喉を詰まらせる賢狼族に水筒のお茶を飲ませてやれば
「あったけぇ?」
ホットのお茶に驚いたようだった
「驚かせてすいません、今回の件のお詫びに私達の里…国でお休みを取られてみてはいかがでしょうか?出来る限りのおもてなしをさせてもらいますので、どうですか?」
訝しげに考える賢狼族
「えーこんなおばさん連れてかなくても」
「アーミン!」
「重ね重ね申し訳有りません、我が国に来ていただければ食事と宿は無料にさせていただきますのでどうかお許しを」
アーミンをひと睨みするが飯と宿の提案は魅力的だ、弁当でこの旨さならこいつらの里の飯はもっと美味いに違いない
「申し遅れました私はコンクルザディア先遣隊のミュレッタと申します」
「じゃ、じゃあ世話になるよ、私は賢狼族のウルーダだよろしく」
こうしてコンクルザディア建国以来初の来訪者を迎えることになったのだった
ブクマや評価をしていただけると作者が大変喜びます!続きを書く活力になりますので
『ページの下にある☆マークでの評価』
よろしくお願いします!