43:超巨大鍋(食べ物の法則)
宙に浮かぶ超巨大土鍋(耐火モルタル製スライム皮膜コーティング済み)、正確にはラフタークレーンによってワイヤーで吊り下げられているのだけどね
クレイさんはもちろん初めて土鍋をモルタル鍋を見上げている
「でっか!!」
「どうです?クレイさん!」
「いやデカすぎて語彙力が…最近なにかしてるなとは思っていたけど…」
「これならみんないつもと同じ物以外も一度に食べれますよね」
「あの時の会話覚えててくれたんだ、これなら皆でカレーでもシチューでも食べれるうちの嫁さんは最高の嫁さんだ、ありがとう」
クレイさんが私を抱きしめてくるくると回る、これしてもらうの好きなんです
雪の溶けた広場の中心には耐火コンクリートで作られたコンロ、その上に土鍋がセットされる、燃料はもちろん燃えるコンクリート、家と工場の食堂から持ってきた植物油をドバドバと注ぐここからは時間との勝負、大将さんのお店からお肉や野菜をシャトル運送で持ってきて炒める、その後は食堂の蛇口にホースを繋いで茹でながら今度は家からカレーのルゥをシャトル運送で次々と鍋に入れていく、とろみがでてくるまでにルゥを入れ続けて2時間かかったけど良い感じに野菜にも火が通った、そして隠し味にとコーヒーとヤンゲの乳が追加される、これは自衛隊と呼ばれる日本の軍隊、簡単に言うと戦う組織の作り方らしい
今回は大将さんは監修するだけで直接手を出さない。私達だけでも作れるようにしておいた方が良いし、来年の収穫の時期のあとには大将さんもお店を復活、もしかしたら二号店も出来るかもしれないからだ
お米は食堂の大型炊飯器二台がフル稼働して次々と紙のお皿に盛られて炊飯器が空になればまた炊いての繰り返し
「米を炊くための釜も欲しいですな」
工場長がつぶやく、これは土鍋に続き巨大炊飯釜も作られるかも…確かにこれではご飯を待っているだけで時間がすぎていくわ要研究ね
全員でご飯を待っていてはいつまで経っても食べられないご飯をよそってもらえた人から順次ルゥを掛けて食べ始めてもらう
カレーの香ばしい香りにまだかまだかと食欲を掻き立てられる人々、それに
「これすっごい美味しい!」
優先して配られた子供たちの声が拍車をかける、クレイさんが
「空腹は最高のスパイス」
と言っていたことを思い出す、作り手に徹していた私達ももうお腹がぺこぺこ早くカレーにありつきたくなっている、でも最初は肉や具材の高速シャトルを担ったデリアに食べてもらおう、最近の彼女は
「速さでは誰にも負けません」
スピード狂になってしまいそうで心配だ、もうなってるか…
「くぅぅ~、美味しいぃ」
デリアの素直な感想が私達のお腹を更に刺激する、いよいよ私達の番まで周りやっとカレーにありつくがルゥというかカレー自体はまだまだたくさん残っている
これは明日いや最大で明後日の分まで有るのだ、一度の調理としては大変だけどその分大量に作って何食分、何日分にもなるのでお米を焚く係は大変だけど他の調理はしなくて済む、労力のトータルで言えば少ない
残念なのはみんなに配って各家庭で作ってもらうことが出来ないことかな
食材やカレーのルゥも今までの試行錯誤で『調理』されるまでは元の量に戻らないことが判っている、袋や入れ物から開けても形を変えても全部を使い切らないと戻らないのだ
「なんとかお家でも作れるようになればもっと良いんですけどね…」
「カレーはインドの伝統料理の歴史みたいなものだし、これはそこから日本で魔改造されたまた別物のカレーだからねぇ、調味料作りだけでも一体何年掛かるか…」
数十種類の調味料スパイス、物によっては百種類以上のスパイスを使う場合もあるらしい
美味しいとは思っていたけどそんなに凄いものなんだカレーって…
「でも、そうだよね!みんないつかは好きなときに食べられるように一つずつやっていかないとね」
前向きだなぁ~
「まあ、自分が美味しいものを食べたいだけだけど」
本音はそこなんだ
来週はシチュー、巨大土鍋は毎週一回で二日分の料理のために使われる予定になっている
これは気持ちの面でも大きい、毎日どれだけの量が食べられるのか判らない不安を抱えるのと毎週必ず腹いっぱい食べられる日が判っているのとでは気持ちはぜんぜん違う
私達エルフの里に現れた飢餓状態のオークを思い出す
この人たちがもっと早く現れていたらあのオークは救われたのかもしれない…そう思うと胸が痛む
彼は救えなかった…でも今こうやってオークやドワーフやエルフそして人族が手を取り合い救い合っている
子供たちを守る、これは誰が言ったわけでもないのにいつの間にか出来上がっていた種族を超えた共通認識
この里の恩恵を享受しているから出来ていることだけど、いつかはこの丘を離れても同じ様に手を取り合って生きていけたなら、そう願わずにはいられなかった
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