32:仔たぬきズの大冒険
本日投稿二話目、先に31話を上げて有りますのでまだという方はそちらからどうぞ
「ママー!早く行こー!」
「ママー」
外からそんな声が響いてくる
仔たぬき達は元気いっぱい、今日は日曜日これからお散歩、ちなみにママとは私達エルフ全員のこと、母たぬきの回復を願って全員で魔力を与えたからなのか子供たちは私達全員をママ認識している
「もうちょっと待ってね」
「クリシュナ様、私が代わりに散歩に連れていきましょうか?」
ミュレッタも先遣隊のお休み、疲れてるだろうに
「ん~、どうしようかしらミュレッタもやっとのお休みでしょう?」
「私、外勤めじゃないですか、子供たちに忘れられちゃいそうで」
苦笑いのミュレッタ、それならお任せしようかしら
「じゃあ、私は子供たちに伝えてくるから支度の方お願いね」
「はい」
外に出て子供たちにミュレッタママが来るから待ってるように伝え、私は養殖場の様子を見に行くことにした
「お待たせ、散歩に…居ないしクリシュナ様が連れて行ったのかしら?」
ミュレッタが支度を終えて玄関を出た先に仔たぬきズの姿はなかった
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「ママたち怒らないかな」
「大丈夫だって、ちょっと歩くだけだもん、ママたちも疲れてるんだからこういうの親孝行っていうんだぜ」
不安げなアネットとヒルデの女の子組に一応長男坊ということになっているアーミンが意気揚々に答える
「それにママたちが居ると危ないから駄目ってすぐ言うもん!今日こそは神社の後ろに行くんだ」
「駄目だよぅ、絶対ママたちに怒られるよぅ、特にメーベママが怒ると怖いよぅ」
「だ、大丈夫だってヒルデは真面目すぎるんだよ、怒られたときはパパのところに行けば優しくしてくれるもん大丈夫だよ」
アーミンの言葉にうんうんと頷くカールとロルフ、意見の分かれる男の子組と女の子組の間でルディはあわあわしている
「でもクレイおじちゃんがねつどうりょくろには絶対近づいちゃ駄目って…」
園児にとって二十代後半などおじさんなのだ諸行無常
ちっちっちと映画で覚えたであろうポーズ、人差し指を立てて左右に振るアーミン
「だから冒険なんじゃないか!危険を越えた先にこそお宝が眠ってるのさ」
あわあわしていたルディですら冒険とお宝という言葉に目を輝かせ
「かっこいい…」
とつぶやく
きぃ、と社務所のドアが開く
「まずい!園長先生だ隠れろ」
草むらに身を隠し園長先生こと宮司さんの様子をうかがう、境内の掃除を始めた宮司さん
「ねぇ、園長先生を手伝おうよ」
小声のヒルデ
「ほんとおまえ真面目だよな、今日は冒険なの!お手伝いはまた今度な」
アーミンに却下されてちょっとむくれるヒルデ
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ビニールハウス農園は雨季直前に植えた野菜たちがぽつりぽつりと収穫出来るようになってきた
「ガルシアさんこれは何て言う野菜ですか?」
ネットに絡み合って伸びるツタと葉っぱの間から黄色い花の下には長細い実がついている
「それはきゅうりね」
「あ~」
大将さんのお店でお通しでよく出てくる野菜いつもスライスされた状態だったから元はこんな形をしているのかと初めて知った
「これはわかりますよ、麦ですよね」
水を張られた小さなエリアで栽培されている麦、ちょっとドワーフ達とは育て方と違うけど
「残念、これは稲ね、お米の元よ」
「へ?麦じゃないんだ」
「そう、こうやって水を張った畑は田んぼって言うね」
自信満々に答えて外してしまった恥ずかしい
「エルフの姫様~、従者のエルフさんが探してるよ~」
農作業をしているオークさんから声がかかる、誰だろう?
「え!」
息を切らせてやって来たのはミュレッタとメーベ、子供たち来てませんかと…
「ミュレッタが来るまで待ってなさいと言ったのに…」
「私も最初は気が変わって姫様が連れて行ったのかとも思ったのですが、姫様ならそういうときはちゃんと言ってから行くと思ったので近くを探したのですが見つからなくて、まずは姫様を探して一緒にいればと思ったのですが申し訳有りません」
これはミュレッタがどうこうではない、きっと子供たちが私達の目が離れたのを見計らって行動を起こしたのだろう
「ミュレッタの所為じゃないわ、それを言ったら目を離した私も同じよ」
「それにしても工場内には見当たりませんでした、一体どこへ」
メーベの言葉に私達は何処に行ったのかと考えるのだった
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「よ~し、やっと森を抜けた、あれがねつどうりょくろ?かな」
森の先には崖、崖下には熱動力炉と思われる建物が建っている
「崖だよ、どうするの?」
「ん~、この格好じゃむずかしいなぁ、変身を解けば行けそう?」
変身を解いてたぬき形態になれば体が小さくなる、それなら小さな足場でも通れるとアーミンは思ったのだ
「え~、変身解くの?」
女の子組は明らかに嫌がる
「嫌なら帰ればいいじゃん、俺はアーミンと一緒に行く」
ロルフはイライラした様子で女の子組に冷たく当たる
「僕たちが先に行って大丈夫そうならアネット達も降りてくればいいよそれなら良いだろう?」
まあまあと言った感じでカールが妥協案を提案する、それならと上で待つことを決めるアネットとヒルデ
「よし!行こう」
ぽぽんと変身を解いてたぬき形態になる男の子たち
「俺が言い出しっぺだからな、先に行くから付いてきて」
冒険のリーダーだかんなとアーミンが狭い足場を一歩一歩進む
「お、おう!」
内心怖いのを見せたくなくて次は俺とロルフ、カールの順で競うように降り始める
ルディが明らかに怖がっていて足が震えていた
「ルディも無理しないでこっちに居ようよ」
「でも僕男の子だし…」
「そんなの関係ないわよ」
引き止めようとしてくれるヒルデの言葉で迷うルディ
「ルディは怖がり~今日からおまえ女の子組な~」
先を進むアーミンの声に勇気を振り絞ってルディも降り始める
「よっと!」
アーミンが無事に一番下まで降りきった、上に居る女の子組もその様子に安堵した
「ほらな、大丈夫だった」
アーミンがそういった瞬間だった
「あ」
次を行くロルフの足場が崩れ、ロルフが転落してしまう
「ロルフ!ロルフ!大丈夫か?」
「いたい、痛い~~、うわぁぁぁん」
泣き止まないロルフを前にアーミンの目にも涙がじわじわとこみ上げる
「泣くなよ泣くなってばぁ~うわぁ~ん」
「足場がなくなっちゃった…ルディどうしよう…」
震える声でカールがルディを見る、ルディは上を見て初めて気がついた、降りることばかり考えて帰れるかどうか考えてなかった
落ちて怪我をしたロルフに立ち往生のカールとルディ、どうしようもなくて涙が皆に伝播していく
「怖いよぉママ~、パパ~」
「私、ママたち呼んでくる、待ってて」
「ヒルデ待ってよ私も呼びに行く」
しゃくりあげながらもママを呼んでくるというヒルデに置いてかないでと顔をクシャクシャにしたアネットが袖を掴む
ルディが震えて動けないでいるとまた足場がパラパラと少し崩れ
「やだ~、ママァ~」
崩れる、そう思った瞬間だった、ルディの耳に優しく聞き慣れた声が聴こえた
「しょうがない子達ですね、帰ったらお説教です」
あっという間にルディとカールを抱きかかえて地面に着地するクリシュナ、地面にはメーベも居てロルフに治癒魔法を掛けている
気がつけばいつの間にかにママたちが大集合していて、各々子供たちの様子を見ている
「ロルフの様子は?」
「骨は折れていないようですが、脱臼してますね」
命には別状は無いようでほっとするクリシュナ達
「ごべんなさぃぃ」
アーミンのごめんなさいを皮切りに子供たちのごめんなさいの大合唱が始まる
お説教をと思っていたのだけど、泣きじゃくる子供たちをひとまず家に連れて帰ることを優先させた
泣き疲れたのか子供たちはエルフたちの背中の上で眠っているその顔はどれもほっとしているようだった
これが熱動力炉?
クリシュナはその設備に目をやったが動いているようには見えなかったが今は子供たちの事が先だと熱動力炉から子供たちへと目を戻すのだった
帰宅後
「ちょっと痛いけど我慢するんだぞ」
人間形態に戻ったロルフの肩をゴンッっとクレイさんがはめる、あまりの痛さにまたロルフが大号泣して可哀想だが今回は自業自得これに懲りて危ないことは控えてほしいけど、まだ子供、私達の方でももっと気をつけてあげないととクリシュナは思うのだった
後日お説教になったのだが一番怒ったと言うか悲しんだのが大好きなパパ、工場長さんだった
パパの悲しんでいる姿を初めて見た子供たちはパパを泣かせるような事はしない様にしようと心に誓うのだった
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