27:雨季の終わりに
「とうちゃんあれ何?」
オークの子供の好奇心に満ちた声
「わかんねぇが敵とかじゃねえみたいだ」
もう大した距離でもないのだけれどレシーバーの届く距離ということも有って15tトラックが1台迎えに来てくれていたのだ、雨もやみ雨季の終わりも近い少しだが晴れ間も見える
「やっぱりくたばってなかったか、元気そうで何より」
少々荒い口調でがははと笑いながら出迎えてくれたのは、まっちゃんさんだ
「そう簡単には死んでやりませんよ、みんなの配車業務が有るんだから」
けらけらとクレイさんも笑って返す、配車業務なんてこの一年ねぇじゃねえかと笑い合ってる
このやり取りが見られてよかった
自分たちより遥かに大きな動くトラックの荷台におっかなびっくり乗るオーク達、子供たちは楽しそうだ
「まっちゃんさんちょっといい?」
「おう」
クレイさんが子供たちを集めてなにか言ってるうんうんと頷く子供たち
「せーの」
の合図で
「「「「しゅっぱーつ!」」」」
子供たちの声で動き出すトラック、その様子にわーわーと歓声が上がる、大人のオーク達の表情も幾分か和らいだのだが灰色の高い壁が近づいてくるとまた強張ってしまう
排水事業に関しては上手く行っているようで見た感じでは何処かが壊れたり流されたりといった場所は見受けられない
あっという間に門の前まで来るとトラックが止まり子供たちが
「「「「ひらけー!ごま」」」」
ブルンと揺れたかと思うと門がゆっくりと動き始めた
「「「「おおー」」」」
中には大勢のオーク達がにこやかに手を降っている、そこでやっとオーク達が安堵の表情を見せたリーダーのオルドアも近づいてきて経緯を彼らに伝えている
ミュレッタはドワーフの里の診療所へと運ばれていく、ノウミさんも一緒についていくようで思わず心のなかでがんばれとエールを送る
工場長さんに、ドワーフの族長、各部門の親方さん達も集まってるドライバーさん達は言わずもがな
クレイさんはドライバーさん達に手荒い祝福を受けている
「詳しいことは明日にでも話し合いましょう」
「あの!エルフの里で聞いたんです、ここにゴブリン達を忍び込ませたって」
そうだこれをまず伝えないといけないと思っていたのだ
「あ~、あれかあれならおまえさんのお陰で問題ないぞ」
ドワーフの族長はなんでもないと言った様子で髭を撫でている、私のお陰?
「お前さんが作っていったコンクリートじゃよ」
えっと…
「クリシュナさん、あなたの作ったくっつくコンクリートですよ、あれに引っかかっていたんです」
工場長さんの説明でやっと腑に落ちた、新しい壁には最上部をくっつくコンクリートを採用していたんでした
防犯用として念の為に付けていたのにこんなに早く役に立つとは思ってなかった
「鉄筋コンクリートの牢に入れておるからな逃げ出せはしまい、それより問題は」
族長は連れ帰ってきたオーク達を見る食糧事情だ、ただでさえ100以上のオークに加えて更に20人、食べ盛りの子供も居る
ずいっとスワンザが前に出てきた
「これ凄い良い、これからはクレイさんみたいな事無いように見回る、その時に獲物捕ればいい」
オーク用のコンパウンドボウを大事そうに見せてくる
確かにクレイさんは一人で行って捕まってしまった、オークや私達の混成チームで回ればその可能性は低くなるだろう
「まあ、その辺も含めて明日話し合いましょう今日はゆっくりと休みなさい」
解散といった感じで工場長さんが〆に入る、確かに疲れているぐっすりと眠りたい…と思ったのだけど
「クレイさん!信じてたよ!」
大将さんがやって来てハグしてる、後ろには原付きに肉満載のデリアの姿も
「シュナ姉ちゃん!」
バッとリサちゃんが飛びついてくる、その後からは人型形態の仔たぬきズ
「さあじゃんじゃん焼くよー!」
まあ結局こうなるのね、なんとなく予想はしてたんだけどね、空を見ても雲も薄いこれなら雨に降られることもなさそうだたの勘だけどね
香ばしい匂いが漂い始め、あちらこちらからゴクリと喉がなるのが聴こえてくる、ツァーミが従業員さん達が気を利かせて紙の皿をオーク達に配るが新しくやって来たオーク達は居心地が悪そうだ、多分新参者が先住者を差し置いてとか思ってるんだろう
リサちゃんに目配せをするとシュッと手を斜めに上げて敬礼し仔たぬきズを引き連れて子どものオーク達に食べようと声を掛ける
最初は我慢していた新参オーク達も子供たちのうまそうに食べる姿に焦れてきた
「おじちゃん、はい!」
次々と焼かれた肉を仔たぬきズが配って回れば
「じゃ、じゃあ一口だけ」
一口で済むわけがないのは私がよく知っている
「気にすんなって、俺達もこうやって飯食わせてもらったんだ、辛かっただろう判るぜその気持、美味いぜ大将の鉄板焼は」
先住のオーク達からの声で感極まりながらガツガツと食べ始める、別にオークだけの感情じゃない私達もこの人たちに迎えてもらって、こうやって生きている…気持ちに種族は関係ない
いつの間にかビールの機械まで置かれていてデリアは店から肉も樽もでてんてこ舞い、見かねた従業員さん達が変わりに交代で店に補充に行ってくれていた
「くぁぁ~美味い!肉もエール…ビールだっけか生きてて良かったぜ!」
「嬉しいこと言ってくれるねぇ、今は店閉めてるけど再会のときは是非贔屓にしてくださいよだんな!」
見ればいつの間にか大将さんも一緒に飲んでいる、鉄板を見ればヘラを握って焼いているのはオークの女性だ
旦那衆が働いているのにじっとしているのが嫌で大将さんに頼んで働かせてもらってるんだとか
少し酔った感じのクレイさんが
「大将!二号店は鉄板焼屋に決まりだね!鉄板ならいくらでも有るしね」
「こりゃあ盲点だった、いいかもしれない!」
なんて大将さんまで盛り上がっちゃってる
工場長さんは酒に手を付けていないようで眠たそうなカールとアネットちゃんを両腕に抱いてあやしていた
「シュナ、ちょっといい?」
「はい!」
自分で言って欲しいと言っておきながらいざ言われるとドキッとしてしまう
喧騒から離れて小道を歩く、クレイさんのお気に入りの場所へ続く道
クレイさんは何も言わずに手を握って歩く、今何を考えているんだろうそんな事が気になる
「シュナ…」
やっぱりドキッとしてしまう、慣れなきゃね
「俺この世界のことわからないし、エルフの習慣とかも解らないけど、勉強するから、君を幸せにします!俺と結婚して下さい」
「それは私が助けたからお礼ですか?」
「違う!助けてくれたことはもちろん有るけどそれだけじゃない、今は好きでどうしようもないくらい君が好きです」
「でも前は私振られたんですよ」
「俺馬鹿だから、君みたいな子に好きだなんて言われると思ってなかったからパニクっちゃってそれで昔のこととか色んなこと思い出しちゃって気がついたら断っちゃって」
「凄い傷ついたんですよ」
嘘だ酔って忘れてた、でも振られたのは事実
「ごめんなさい、でも愛してます!」
さっきまでの酒に酔ったへにゃりとした顔じゃない、まっすぐとこっちを見て膝をついて手を差し出している
「ずっと好きでいてくれますか?私諦め悪いから途中で嫌いになっても離しませんよ?」
「俺の方が愛想を尽かされないように頑張らないと」
クレイさんの手を取ると体を引き寄せられて抱きしめられる私も抱きしめ返す
「私も愛しています」
抱きしめ合い唇を重ねる私の瞳に映る星空が雨季の終りを告げていた