24:私、諦めないって言いましたよね(肉食系エルフ)
ミュレッタやオーク達が下でドンパチを始めた頃
最上階、元私の部屋を目指していた、あの子の性格からして族長の部屋ではなく私の部屋のような気がしたのだ
ビュン
眼の前を矢が通り過ぎたまらず近場の部屋に飛び込んだ
「あらあら何処へ行くのかしら血筋だけの白のお嬢さん」
「しばらく会わない間にずいぶんと口が悪くなったわねセナリージュ」
さっきのは危なかった、声だけで判るユフィの従者だったセナリージュだ、嫌われていることは知ってはいたが容赦ないわね
互いに壁を盾にしてにらみ合う
「ごめんなさぁい、口には出さないだけでずっと思っていたからすっとしたわッ!」
言い終わりと同時に矢を撃ってきた、ずいぶんと気持ちが入っているようで
「知ってるわよ、隠しきれてないのよあんたはッ!」
お返しにコンパウンドボウをお見舞いする
「里も伝統も捨ててさっさと乗り換える尻軽にぴったりな武器じゃない似合ってるわよッ!」
ブンッ
「奪ったやつに言われたか無いわよッ!」
ヒュッ
「私もあんたに言いたいことが有ったわ」
ヒュン
「何よ、一応聞いて上げるわよッ」
ヒュッ
矢を撃とうと身を乗り出したセナリージュの首に矢が突き刺さった
「さっきのはナイフよお馬鹿さん」
『ユフィ…様…』
念話を送ったかもう念話を使わない意味もない
壁に刺さったナイフを引き抜き部屋を後にする
『今行くわよユフィ』
『待ってるわお姉様』
『もう逃げられないわよ』
『逃げる?逃げられないのはお姉様でしょ、里に戻ってくるくらいこいつが大事みたいだし』
『クレイさんに手を出したら承知しないわよ』
『ふっ、あはは残念、もうぼろぼろよ早くしないと死んじゃうんじゃないかしら、あ!お姉様感動の再会にその無粋な武器は持ってこないでね台無しですもの』
『くっ』
私の部屋…元私の部屋の前に立つ、今でもありありと部屋の中は思い出せる
子供には大きすぎるベッドに宝物を入れる為にドワーフに頼んで作ってもらったガラスをはめ込んだ大きなキャビネット、ユフィとの思い出だって入っている
我儘だった私がお願いして作ってもらった部屋だ
『いらっしゃい私の部屋へようこそ』
『嫌味ね、もうこの距離で念話も無いでしょうに』
『嫌よ、お姉様往生際が悪いもの私は油断なんてしないわどうせ武器も捨ててないんでしょう』
中からはうめき声が聞こえてくる、クレイさん待っていて
『お見通しか流石ね』
『扉を開けてゆっくりと武器を前に出しなさい』
言われた通りコンパウンドボウを部屋の中に入れる
「出したわよ…ユフィ」
「ユフィ?」
「ん~んん~!」
中には椅子に縛られ倒れているクレイさんだけ…部屋に火の手が上がる
『言ったでしょう私は油断なんてしないって、二人仲良く死ぬといいわ、さようならお姉様』
「クレイさん!」
彼の猿ぐつわを外す
「クリシュナさん逃げろ」
「待って今拘束を解くから」
全ての扉と窓が閉まる閉じ込められた、罠だ
「クソッ、一人でなら何処かから逃げられるだろ離れて早く離れるんだ、あいつ俺の体になにかしやがった、それに部屋にも」
クレイさんの腕に魔法陣が刻まれている、よく見えない縛られた腕の縄を解く
「動かないで、何の魔法陣か確かめられない、解読さえ出来れば私なら解ける」
「そんな事いいから早く」
もがくクレイさんが言うことを聞いてくれない、あーもう!面倒くさい人!
両手でガッチリとクレイさんの顔を掴んで
「何を、ん?ん~!…」
やっと大人しくなったこれで魔法陣が見える、二重いや三重に書かれてる性格の悪いのがにじみ出ている、何の魔法陣なのかはわからないでもこれなら解くことは出来る、一つの魔法陣が合計十片で構成されている全部で三十片
腕に手を当てて魔力を込めて一片一片解いていく
一つ目は解除、次よ…視線に気がついた、じっとクレイさんがこっちを見ていた
「見ないで下さい!」
思わず顔をひっぱたいてしまった
「ぐっ…ごめん」
「いや違うんですそうじゃなくて…」
火の手が大きくなる、パンパンと顔を叩いて気を入れ直す
「書き方が甘いわねユフィ、魔法陣で私に勝とうなんて百年早いわ」
二つ目を解除すると同時に床に魔法陣が浮かび上がる
「本命はこれか!」
二つが消えて見えやすくなった三つ目の魔法陣は発火の魔法陣に気付けなかった余分な一片が書き加えられている、三つ目の魔法陣を解かなければクレイさんが焼け死に、解けば残った一片が起動装置となり床に浮かび上がった四つ目の魔法陣、獄炎を発動させて部屋が一瞬で燃え上がる
ここまでする程私が憎いのか
私の手が止まる…一体どうすれば
「クリシュナさん」
「私、諦めないって言いましたよね」
「うんそれはもう判った、すごく…だから今何を迷ってるのか教えて」
場違いなのは判ってるけど頬が熱い、これは火のせいじゃない
最後の二片、残りの一片を解除すれば床の魔法陣獄炎が発動する
「本当にこれで良いんですね」
「わからない爆発なのか燃焼なのかでも違ってくるし」
「そんな」
「でも可能性はある、クリシュナさん…シュナは諦めないんでしょ」
「そうです私、諦めが悪いんです」
「じゃあ一緒だ」
いつぞやと同じようにクレイさんが微笑んだ
「行きますよ」
「うん」
私が最後の一片を解除するとクレイさんが私を抱きしめキスをした、してくれた