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攻めんといて!俺達は異世界にコンクリートで専守防衛国家を作りたい  作者: くろすおーばー
一章  コンクリートの町とエルフ
18/166

18:後悔

雨具も着ずに外へと飛び出した


「嘘よ!嘘であってちょうだい」


緊急事態ということも有って門は開かれたまま私だけでなく他の人達も走って向かっているが私の方が人よりも早くたどり着いた


タイヤが見えて居るが、濁流のせいで車は安定していない何かに引っかかっているのか、川へ流れることはかろうじて免れている


時間がない、考えろ考えろ私、どんな魔法を使えばいい?


風魔法で局地的に水をどかせば…駄目だそんな魔力は無い使えても一瞬しか出来ないこれじゃ駄目だ


「姫様、トラックが来ます」

後を追ってきたメーベの声で振り返る、激しい雨の中二つのライトが近づいてきた、ノウミさんに親方衆が飛び出してきて敷かれた鉄板の上でトラックのアウトリガを展開する、その時間すら長く感じてしまう


「早く、クレイさんがクレイさんが」

「解ってる」

ノウミさんがトラックに付いたクレーンからワイヤーを伸ばし川の中の車に引っ掛ける


「掛かった、引け!」

川の中から四つのタイヤが浮き上がる、ひっくり返っているのだ


お願い、無事でいて

半分ほど上がったところで巻き上げが止まる

「これ以上は無理だ」


このトラックしか入ってこれない場所だった

「ラフターだったら…」

誰かの声が聞こえたがそんな事はどうでもいい


車が再び水中へと引き戻される濁流の勢いで鉄板ごと滑ったのだ、

「このままじゃトラックもろとも引きずり込まれちまう」

「そんな!」

ジリジリと鉄板に乗ったトラックごと川へと近づく、激しい雨の中ノウミさんの怒鳴り声が響いた

「ワイヤーを伸ばせ!」

「なんですって」


私はノウミさんに掴みかかる

「見捨てるんですか!仲間じゃないんですか!」

泣き叫ぶ私に

「落ち着け!そうじゃない、一度伸ばして排水路から川に車を出させる、今は斜めに引っ張っていて安定しないんだ、真正面につければ川側にはガードレールも有って踏ん張れるんだ」

ノウミさんの表情は今まで見たこともないくらい切羽詰まっている、そんな中で最善を探している、助けたいのは皆同じなんだ

「姫様、彼らの方が冷静です、任せましょう」

私の返事よりも前にワイヤーは伸び車は排水路を抜けて川に流された


正面になるタイミングを見計らったノウミさんがワイヤーを巻くと鉄板ごと滑ってトラックは勢いでガードレールに衝突して火花が散った


重量オーバーでも構わずにワイヤーを巻き上げれば発熱したモーターが煙を上げる、車は逆さまから元の状態に戻り天井が潰れているのが見えた


「姫様今しかない、中の状況はどうなってる」

雨で中が見えない、もっと近くに行かなければ

「姫様!」

メーベの心配する声も今は邪魔だ、ガードレールを飛び越えボンネットに張り付いて剥がれかかったフロントガラスを剥ぎ取ろうとする


ガラスで手が切れたがフロントガラスは外れない


「まだか!」

うるさい!振り返る時間すら勿体無い私は何度もフロントガラスを力の限り蹴る、痛みなど感じない


「剥がれた!クレイさん!」


どんなに見回しても車の中にクレイさんの姿はなかった、外に車の外に居るかも知れない、後ろに回り込もうとする私の体を誰かが強引に止めた


「姫様!」

「いや!離して!離しなさいそこに、そこにクレイさんが居るのよ!」

振りほどこうとしてメーベを殴る

「いやだ!いやだ!クレイさんがクレイさんが死んじゃう」

「姫様…」

私達を更に大きな手が掴み引っ張り上げられたオーク達だ、直後モーターが焼き切れてワイヤーもろとも車が沈み流されていった


泣き叫ぶ私の声は雨季の雨音にかき消された、それはまるで私の声は決してクレイさんには届かないのだと伝えるように



「姫様、このままでは風邪を引いてしまいます」

風邪?それがなんだというのだ、何も考えられない、考えたくないだというのにクレイさんの声が聞こえる


『お互いがんばりましょう』

一人じゃがんばれないです


『大丈夫ですか?』

大丈夫じゃないです


彼の言葉を思い出しては一人で返事をする


私をメーベがお湯につけるがどうでもいい


「返事聞けてないじゃないですか」

自分で言った言葉にまた涙がこみ上げてきた…この気持ちは後悔だ、なんて身勝手な女なのだろう、勝手に告白しておいて覚えてもいなかった、彼はどんな気持ちだったのだろう…答えを聞けなくなってからそんな事を考えている馬鹿な女だ


嗚咽の止まらない私をメーベが抱きしめてくれても悲しみが薄らぐことは無かった


一人にさせてほしいという私の言葉は受け入れられずメーベは私の部屋に居座った、顔には幾つものアザがある、私のせいだ謝らなくてはと言う気持ちが浮かんでは沈んでいく


仔たぬき達はツァーミ達が見ていて私の部屋には入れないようにしていた、してくれたと言うべきなんだろう


今彼らの顔を見れない、何の罪もないというのに笑顔を見たら当たってしまいそうな自分がいる、嫌だとにかく今は眠ってしまいたかった何も考えないで済むように…


翌朝、腹立たしいことに雨がやみつかの間の太陽が姿を見せた、どうして?何故今晴れるのかと精霊王を恨む、嫌なことしか起きない


ドンドンと扉を叩く音がする、ピンポンを押せば良いのに


メーベが誰かと話している、ノウミさんだろうか?誰でもいいか、そんな事をぼんやりと思っていると


「姫様、クレイさんは生きているかもしれません」

私の頭は真っ白になった

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