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152:選択肢など無かった

カンカンカン


金属()()で出来た階段を上がる、不思議な模様の付いた階段だったがそれが滑らない為の創意工夫なのだと気付けた時は知見の広がりに拠る喜びが全身を駆け巡る


横開きのドアも銀色の縁取りに大きく四角いガラス、私達にとっては未知の技術の塊でも彼らの態度からは大したものではないのだと伝わってくる


スリッパと言われる柔らかい履物に履き替えて中に入る、意味は解らないがそれが彼らの文化なのだろう


謁見の間(応接室)に通され国王を待つ私達が全員一致で思ったのは意外と狭い…狭すぎるということだろう



普通のというか私達が国のお貴族様に会う部屋と比べても遥かに狭い、十人かそこらでいっぱいになる狭さここに威厳は感じられない、クレイ様が言うには仮の謁見の間であり王宮については新たに建設している最中だということだった


狭さを除けばどれもこれも生まれて初めて見るものばかり、ソファも背もたれが付いていて貴族の家で座ったものよりも柔らかく感じる



待っている間は自由にして良いと言われ謁見の間を遠慮なく拝見させてもらう


棚には生きているようにしか見えない鳥…これは剥製という技術


天井近くに小さな家のようなもの…神棚と呼ばれ彼らの神を祀るものだという…


テーブルの上に置かれた一段と綺羅びやかで透明な硝子で出来た置物、煙草…パイプの灰入れだという一番綺麗なのに灰を入れるだけの物というのはもったいない



コンコン


ノックの後に

「失礼致します、お待たせしました国王様入ります」


軽い…軽すぎませんか…


こんなものでいいの?

私達は膝を折り頭を下げて国王を待つ


ガチャリと軽い音を立ててドアが開き国王が入ってくる


「頭をあげよ」

若い声ではないが張りの有る声が許しを出し、私は顔を上げる


上は黒は下は灰色の布地を纏った男性、髭を生やしているがまだそこまで歳を取っているようには見えない



これがコンクルザディアの王


王は一人掛けのソファに座り話し始める


「この都度は遠路遥々よくおいでくださった…と労をねぎらいたい所なのだが」


冷え切った視線がこちらを睨む


「勿論サンダン王国の商人の方々は歓迎しておる」

その言葉に胸を撫で下ろすサンダン王国商人たち、逆に青ざめる私達…でもそうだこれが普通の反応のはずだ


国交もなく無断で国に入ってきた者を疑いもせずに暖かく接する彼の反応の方が可怪しいのだ、彼の厚意に絆されていつの間にか()()が普通だと思い込んでしまっていた私達


サンダン王国の商人たちは王との会談に望みその間ずっと私達は息を殺し押し黙っていた



会談を終えサンダン王国の商人たちが退室すると国王はまた冷たい視線をこちらに向けた



「さて…本題に入ろうか」


落ち着け、さっきも言ったように殺す気ならこんな所まで呼ばれるはずはないのだ、何か理由がある…その理由が私達がこの局目を乗り越えられる鍵だ


観察しろ、一字一句聞き逃すな、考えろ、最適解を導き出すのだ


「はっきり言おう君たちの存在は私の国の平穏にとって邪魔だ」

先程までの王としての振る舞いは影を潜め言葉遣いはぞんざいなものに変わる



国を出た時には起こり得ることと覚悟していた筈の言葉なのに


今は心を抉られる…


それはそうだ、自分の商いの強みなどこの国の技術の前では塵芥でしかないのだから


「やっとサンダン王国と国交を結び商業の取り決めも合意に至り軌道に乗り始めたところに君達だ、幸い君達が国の代表ではなくただの商人だと聞いてほっとした所だ」



それは暗に殺しても大事にはならないと言うことだ



反論はせず今はチャンスを待ちただただ耐える


「しかしだ…困った事にそこのクレイが君達、特に君ウィミー君だったかね、どうしても我が国に引き抜きたいそうなのだよ、私としては国の平穏が一番しかし臣下の我儘も聞いてやらねば忠心も離れてしまいかねない…困った困った」


「…」

臣下の我儘で私達の命は辛うじて繋がれている


私は失礼のない様に事前に取り決めていた挙手をして発言の許可を求める


「よいぞ申してみよ」


「お言葉では有りますが私共はまだ引き抜きの事も引き抜きの条件もお聞きしておりません、これでは選択のしようもございません」


「選択か」

失笑混じに吐き捨てる様に話す国王陛下


「クレイよ何も伝えずにここまで連れて来たのか、まったく私も舐められたものだ、さっさと理由も条件も伝えるがよい」


国王様はこれ以上時間をかけたくないといった様子でクレイ様を囃し立てる


「そうですね理由は単純、貴方がたをコンクルザディアのお抱え商人として引き抜きたい」


「それはこのままでは私達を消さねばならないという憐れみからですか?」


「それに関して憐れみや同情は勿論ありますよ…ですが情報をできる限り隠匿していた状態でエピリズを初めて見つけ出した手腕、学校を視察した時に見せた洞察力、私達の造る製品を見た時のあなた達の反応、それらを総合的に見た場合我が国に欠けているものを貴方がたならば補い発展させられると私は考えました」


べた褒め…しかし


「私達は実際に商品を卸していないというのにですか?それに引き抜かれた私達は|オベルダンでの販路や信頼コネクションを失い価値は無くなります」


「それはまた努力して作って頂くしかありませんね」

「そんな無茶苦茶な…」


「今まで築き上げたコネとコンクルザディアのお抱え商人になった場合に取り扱う商品を天秤にかけたときどちらが上になるか、それを決めるのはあなたです…と言いたいですが前者を選んだ場合あなた達に待っているのは死ですけどね」


そう言って国王の顔を見るクレイ様、国王は心底どちらでも良いといった態度だ


「あの…」

隣に座るガープスさんが手を挙げる


「俺達は個人の商人ですがコルテス商会の配下とでも言いましょうかグループに属しているんです」

「それがどうかしましたか?」


「もう俺達に選択肢はないのだと言うことは解りました、ですが商人として商会には筋を通さなければならない…そうでなきゃ国を抜けたとしても俺達は商人として生きて行けないのです」


「ほう、国よりも大切な繋がりですか」


そうだ…私はガープスさんの発言に便乗して伝える

「はい、そこにケチが付けば必ずや因縁を生みコンクルザディアにとって良くない事が起きるでしょう」


「ではそれを解決できれば我が国の商人になって頂けるという事でよろしいか?」


そんなの選択肢でもなんでもないではないか!私は内心叫びたい気持ちを抑えて

「私は構いません」


そう言うのが精一杯だった

ブクマや評価をしていただけると作者が大変喜びます!続きを書く活力になりますので


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