151:高待遇と違和感
彼が私達を評価してくれているのは判る、でも何故なのか?その根っこの部分が見えてこない
だから何処か薄気味悪く感じてしまうのだ
ホテルのロビーに集まるとクレイ様は既に到着していてもう顔なじみのように挨拶をしてくる
「おはようございます」
「「「おはようございます」」」
今日は延期になっていた王都への視察、エピリズでも駐屯地でもすでに度肝を抜かれたけど一緒に来るサンダンの商人達からはこんなものではないと聞かされていて楽しみにしている
「今日はゲストをお呼びしています」
「おはよう…ございます」
「ウルーダ!」
賢狼族のウルーダだ
「おう、ウィミー本当にここに来てたんだな」
「それは私のセリフよ!会えなくなって心配したんだから」
思わずだ昔の様に彼女に抱きついた
「なんか前より身体がガッチリしてない?」
「ああ、今は鍛えてるからな」
「ウルーダって鍛えるの苦手じゃなかったっけ」
「今はそのなんというか…」
「ウルーダさんは今は軍で働いてもらってますから身体的にもガッチリしてるんですよね」
「お、おう」
なんかあんまり触れて欲しくない感じ…個人的にはたくさん聞きたいけど後に回したほうが良さそうね
私は他のメンバーにウルーダの事を軽く紹介するにとどめた
「積もる話も有るでしょう、続きはバスの中でどうぞ」
そう言ってバスへ誘導するクレイ様
バス、どうやって動いているのかわからない不気味さと未知の技術に触れている高揚感を感じる乗り物もう乗るのは初めてではないけれどドキドキしてしまう
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大して時間も掛からずに王都の門の前まで到着
勘違いしてしまいそうになるけどこれはこのバスとアスファルトと呼ばれる平らな道のお陰
私たちが馬車で普通の土の道を進んだのなら一体どれだけの時間が掛かったのだろう
王都の壁もコンクリートだともう経験で解るがエピリズに比べてなんていうのかしら、無骨というか少し時代を感じる
門自体が車だとは思わなかったから驚いたけど、本当に驚いたのはその先の景色
煌びやかな場所を勝手に想像していたから肩透かしを食らった気分
エピリズよりも本当に凄いのここ?というのが正直な感想だった
しかしそれも杞憂に終わる
丘の上は別世界だった…
巨大な機械がこれまた巨大なコンクリートの塊をぶら下げて移動し
トレーラーと呼ぶ私達が乗って来たバスよりも大きな車が動き回り
フォークリフトなる爪を持った車はサイズに見合っていない大きなコンクリートを軽々と持ち上げ忙しなく運ぶ
この世界の理を悉く壊された様な気分にされる
しかもそれを動かしているのは人族だけじゃないドワーフもオークもホビットもさも当たり前の様に機械を操っている
…ありとあらゆる想定をしてやって来たつもりだった、でもそれは商人として…一人の猫獣族の女ウィミー個人としてだ、国対国なんていう規模で物事を想定などしていない
ではこれを私達に見せる意味は何なのか?背中を冷たいものが流れる…
国交が結ばれサンダン王国から視察を許されている商人と国交が結ばれていない私達オベルダンの商人とでは同じ物を見ていてもその機密レベルは同じではない
私達がここで行われている事を持ち帰れば国にとって大きな利益、裏を返せばコンクルザディア王国、サンダン王国にとっての大きな損失…
ただで帰してくれるはずがない
彼の顔を見つめる、柔和に微笑む笑顔が恐ろしいものにしか見えなくなった
「クレイ様少しよろしいですか?」
「ええ構いませんよ」
他の面子から離れ私とクレイ様とウルーダの三人だけで話をする
「目的をお話下さい」
「と申されますと?」
白々しい…クレイ様の余裕たっぷりの顔に内心苛ついてしまうが努めて冷静にもう一度言い直した
「私達を国に返すつもりはございませんよね、かといって私達を消すつもりならここまで見せる必要もないはずです、目的をお話下さい」
「ウィミーそれ以上は!」
引き返せなくなるとウルーダは言いたいのだろう
でももう遅い、ここを見る前ウルーダと再会した今朝までならばまだ引き返せた可能性は有ったかもしれないけれどもう無理
「やはり察しが良いですね、見込んだ通りいやそれ以上です」
「答えになっていません!」
思わず声が大きくなってしまった
「申し訳ない、ですが詳細は国王と謁見されてからお話します、悩む事になると思いますがあなた方にとっても私達にとっても不利益にはならない話となるはずです」
そう話す彼から笑みは消え真剣な目で私を見た…ぞんざいな扱いをするつもりはないという彼の態度で少しだけ溜飲は下がる
「解りました、その時までは話せないほど大切な話なのですね」
「はい、その通りです」
私はため息を付いて冷静さを取り戻し
「では考えても仕方がありませんね、しっかりとこの眼に映るものを焼き付けるとします」
私達の命運はすでに彼らの手の中にある、騒いだ所で無駄なのだそれならば全てを見逃さないために尽くした方が身のためだ
それからの私はアレは何これは何と聞いて聞いて聞きまくったのだった
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