149:豆チハ
「これにて実演を終了します」
アナウンスが終了を告げるが、一同の視線は一際異様な見た目の物体に注がれている
「あれも武器ですよね?あれはどんな武器なのですか?」
ウィミーさんが指したのはチハ公…なんだけど
「え~とですね、ちょっと不調なのであの兵器は今回は参加させない事になりまして」
チハ公の調子がここ数日おかしいのだ、調べても原因は判らずじまい…整備班が言うには機械的には不具合は無いらしいが彼らだって元々はトラックの整備をしていたのだ戦車の整備では話が違う
そんな状況で機械なのに意思を持っているという複雑怪奇過ぎる存在を一介の整備士達に直せ治せと言うのは無茶過ぎるだろう
「これで兵器の紹介は」
「動き出しましたよ…なんかこっちに来ますけど」
振り向けば確かにこっちにチハがやってくる予定はなにもない筈だが…
明らかに遅くて不安定な足取り?のチハ公
「お~い!何やって」
俺の声を無視したかと思えば突然狙いを定めて残っていた一の段の別の的を砲撃して停止した
「おい!ジェイル、ケイルどうなってる!」
俺は駆け寄り乗員のジェイルとケイルに状況を確認する
「解りません、突然動き出したかと思ったらこれです!」
二人にも説明出来ない事態のようだ、理由が判らん
「まいったな…とりあえず王都の整備班のところへ連れてくしか無いな」
現状では設備は駐屯地より王都の運送部のピットの方が上、本格的に調べるのなら低床トレーラーを手配して王都に連れて行くしか無い
「申し訳ありませんが、予定を変更して皆さんは駐屯地で待機して頂きます」
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「それで、ここに来るまでになにか解ったかい?」
低床トレーラーにチハを載せてとりあえず駐屯地まで帰って来るとノウミさんが詳細を聞きに来た
「異臭とかはしてないので焼付きとかではないと思うんですが機械的なものなのか魂的なものなのかも判りませんね、ただ…」
「ただ?」
「大して動いてないはずなんですけど燃料が空なんです、元々動くだけなら燃料を使わないでも動けるから変だなと…こっちに来た時はどうでしたか?」
「こっちに来た時は元気が有り余ってる感じだったし燃料系統も日報の点検欄にも異常はなかったはず、可笑しくなり始めたタイミング的にはクレイちゃんが俺の代わりにエピリズに行った後かオットーが産まれた頃くらいかな」
「なんか色々起こりすぎて疲れます…一ヶ月くらい嫁と娘の顔だけ見て暮らしたい」
「あはは…それは俺も同感だ…」
それから子供の夜泣きや面倒の見方を話し合っているとシェリティナを抱いたシュナとオットーを抱いたミュレッタがやって来た
これから暫くの間ミュレッタとオットーは俺の家で預かる事になっているのだ、
「このままだとノウミさんが働かないので」
というミュレッタたってのお願いをシュナが聞き入れ、嫌がるノウミさんを説得した
俺は俺でエピリズにメーベの代わりに狙撃と観測が出来るエリィとバリーを派遣した関係で久しぶりに配車係をすることになっている
本当なら今日中にオベルダンの一行を王都に連れて行く予定だったのだが結局トラブルの関係で滞在を伸ばす事になった、彼ら的にはそれで構わないらしいというかむしろ喜んでいるが…
最初はミュレッタの出産にシュナが立ち会う為に車を走らせただけなのに往々にして思ったように回らないもんだね
赤子を抱いた二人を車に載せようとしたその時異変が起きた
トレーラーの上に載ったチハが突如動こうとしたのだ
「チハ!落ち着け!なんだ何が理由なんだ」
あ~ぅ
だぁぁ~ぅ
子供達の声を聞いた途端に落ち着くチハ
荷台にワイヤーで固定されているお陰で大事には至らなかったが危うく一台しかない低床トレーラーを失うところだった
「これは子供達と何か有るのは確実だな」
俺もノウミさんと同意見、明らかにこの子達を意識している
「シュナ待って危ない」
シュナがシェリティナを抱いたままチハに近づく、チハは顔を背けるように砲塔を動かす
「これは…」
この動きをする時は相手を嫌っているのではなく相手を傷つけたり怖がらせない時の動きだ、俺はシュナをサポートして荷台に上げる
シェリティナは怖がるでもなく手を伸ばしチハに触れる
ひゃぁ~う、ひゃぁ~
シェリティナの楽しそうな声に呼応する様に砲塔が淡く光り始める
「眩しっ!」
視界を奪われるほどの眩しさになった一瞬シェリティナを泣きながら抱きしめる子供…チハを見つけた時に見たあの子供が見えた気がした
光が収まり視界にはもげ落ちる砲塔
「シュナ!危ない」
彼女をシェリティナごと抱きしめて後ろに転ぶが…駄目だ避けきれない
俺達はそのまま砲塔に押しつぶされ…
ポヨンと音を立てて砲塔が跳ね返った
「え?なにそれは…」
思わず声が出た
跳ね返った砲塔は空中で小さくなっていき、砲塔の下から車体が生えてぽてっと地面に落ちた…
なんじゃそりゃぁぁぁぁぁぁぁぁあ!
俺が叫び
皆が呆然とする中
シェリティナとオットーだけがきゃっきゃとはしゃいでいた
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「ち~は!ち~は!」
小さなチハは逆さに落ちた所為で無限軌道を回して立て直そうと必死にもがいてる…
ノウミさんが駆け寄って亀を戻すようにひっくり返す
「なんか柔らかくて軽い…」
昔そんな感じの戦車のキャラが居たような気がするけどなんだっけか
「ちぃ~はぁ」
ありがとうと言っている感じで砲塔をこくこくさせている、うん間違いないこいつはチハ公だ
サイズとしては丁度赤ん坊が砲塔の上に乗れるくらいの大きさのチハ…触ってみると弾力が有ってぶつかっても怪我しなさそう
「ちっは!ちっは!」
お次はなんだと様子を見れば砲塔から輪っかが生えてくる、あれは確か鉢巻アンテナだっけか?しかも微妙にアンテナが大きくて形状も本物と違う…丁度赤ん坊一人がすっぽり入りそうな籠みたいな形だ
「抱っこ?」
シュナがそう聞き返せば
「ちは~」
砲塔を左に振る、以前取り決めた肯定のサインだ
砲塔の上にシェリティナを降ろすと砲塔の蓋は沈み込みアンテナ部分はしっかりとシェリティナをホールドする…見た目金属だからすごい不安だがシェリティナが嫌がる様子はない…
「お前、シェリティナを護ってくれるのか?」
俺が聞けば左に砲塔を回す
「もしかしてだけどさ、お前この為にエネルギー使ってたから具合悪かったのか?」
答えは肯定、どうしてそこまでして…と思うわずには居られないが、まずは
「そうか、ありがとうな」
砲塔を撫でながら感謝の言葉を口にした
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