148:最新型旧式兵器
本日は投稿一話のみの予定です
コンクルザディアにおける兵器兵装は狂っている
何故ならば歴史が無いのだ、当然伝統や経験も技術の蓄積もない
転移によって国にならざるを得なかったのと同じ様に
転移によってこの世界にやってきた兵器を拾ったに過ぎない
そんな彼らは退化をする事を恐れない
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演習場は以前のただの更地から変貌を遂げていた
演習や訓練の為のブリーフィングルームと射撃場
市街地戦を想定したコンクリート製の町並み
それを上方から俯瞰するための櫓
魔物との戦闘訓練用の闘技場
数々の新設備はサンダン王国内での実戦指揮を摂ったスワンザや現場で戦闘を経験した兵士達のアイデアが元になっている
そうして作られた打ちっ放しのコンクリート製のブリーフィングルーム内ではオベルダン、サンダン両国の商人達に向けて武器や防具に関する説明が行われていた
「基本的にはこの様な原理で作動する武器であり、弓矢に比べ格段の飛距離と速度を有します」
小銃の説明を受けオベルダンの商人と警護たちは青ざめる、初めてクレイ達と邂逅したエピリズの外での自分達が置かれていた状況がどれほど危険だったのか理解したのだ
一通りの小銃に関する知識をレクチャーされた後は射撃場に移動して模擬ペイント弾を込めた実銃を撃ってもらう
距離は一番短い50メートル
姿勢は立射ではなく銃を台座の上に半固定状態にして椅子に座った状態で撃つ
銃そのものにも驚いていたがそれ以上に2.5倍のレンズから見える射界の方が彼らの興味をそそっていた
「これは弓矢と比べて対象から目を離す時間が短い…次の攻撃まであっという間だ…」
ボルトアクションによる装填排莢も弓矢に比べて速度の優位性に気づいた様だ、実銃を撃った後はその現実感のなさからか握ったり開いたり自分の手の感触を確認する者達もいた
解説と実体験のあとは櫓に登り訓練を俯瞰する
各種族の一般兵による小銃射撃が始まった
取り乱したフェデンのおっさんとは反応は違うがオベルダンの一行もその兵器群に圧倒されつつも
小銃単体の有用性だけでなくそれを集団が扱う事でどれほどの威力発揮するのか考察しているようだった
がっかりしているように見えるのは自国での生産が出来ないと理解しているからではないだろうか
続いて登場したのは金属製の馬車が三台、荷台部分の中央には十の銃身がシンメトリーに配置されたガトリングガンが設置され合図とともに回転式のトリガーを一斉に回す
装弾数200発を誇る古式銃がそれぞれのターゲットを文字通り蜂の巣にしていくが馬達は事前に念話でコニュニケーションの取れるリザード族が指示を出してくれているので落ち着いている
二次大戦時の日本の主力三八式歩兵銃の銃身を十本使い更に古い時代、アメリカ南北戦争時に産声を上げた兵器を作り出したのだ
試験運用中の為か一台の馬車が射撃後に立ち往生してしまい、その場での修理が始まってしまう
何やらやり取りをした後に一回り小さな馬車がやってくる
「ウィミーさんあれを見ください!」
隣に座るガープスが指を指した先には
「ええ、はっきりは見えないけど乳母車に使われてた螺旋のバネに似てるように見えるわ、大きさはぜんぜん違うけどね」
荷台には交換用の部品と思われるパーツが載っていた
やはり乳母車もこの国が絡んでいる、そう確証を得るウィミーだった
修理を終えた馬車が居なくなると
「大変失礼いたしました、次は九七式式57ミリ野砲の実弾演習を行います」
謝罪と次の兵器のアナウンスが聞こえ新たな馬車がやってくる
不思議な形の荷台、全てが金属製やたらと重心が低く左右の車輪とは別に後方に向けて車輪の付いた脚が二本生えている様に見え荷台には四人のオーク、そして馬は連結を解かれ荷台のみが残された
「展開、砲座下げ!」
椅子に座った一人が指示を出し残りのオークが復唱する
「砲座下げ」
オーク達は掛け声を掛けてはテキパキと動く、円形のサドルを回すと更に荷台の重心が下がり地面に接し車輪は逆に地面から離れて浮いている
「脚ロック解除」
「脚ロック解除」
後方二本の脚を開脚するようにオーク達が押し開き、こちらもサドルを回し地面に設置させていた
「設置完了!」
「設置完了!固定せよ!」
脚の中からハンマーと杭を取り出し接地面に開いた穴に深々と打ち込んだ
「固定完了!」
「固定完了!装填準備!」
「装填完了!射撃準備よし!」
「射撃準備よし!」
一連の動作を終えると赤い手旗が上がりアナウンスが入る
「射撃準備が整いました、これより3000m先の一の段に用意された赤い的に向けて射撃が開始されます、また席には用意された望遠レンズもございますのでより大きくご覧になりたい方はそちらをお使い下さい…では」
「大きな音がしますご注意下さい」
アナウンスに従って警戒していたにも関わらず小銃とは比べ物にならない爆音に一同の身体がビクリと震えた
「本当に当たった…」
「あんな距離を当てられてしまっては防ぎようが…」
「エピリズの者達から話には聞いていたがこれ程までとは」
「この武器をご存知だったのですか?」
「ああエピリズに居る連中はあれで狙われたのだ、生きた心地はしなかっただろう」
オベルダン、サンダン双方の商人達は国籍も忘れて話し合う
「武器もですが、あの荷台の動きも脅威です」
「ええ滑らかだったわ、何のためにあんな動きが必要なのか解らなくても技術が途方も無いことは解るもの…乳母車もこれに比べてしまえば彼らにとって秘匿する価値も無いのね」
圧倒的な技術差…クレイが言った
「容赦しない」
と言い切った意味がウィミーには解ったような気がしたのだった
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